初陣で戦死した少年皇帝を蘇らせたサキュバス、根源が入れ替わっていることにうすうす気づきながらも見守ることにした。
帰還の途中、窓の外に目をやると延々と続く綺麗な稜線を遠くに見ながら馬車は走っていく。遠くに何か飛んでいるとドラゴンやワイバーンかも、と目を凝らしてみたが鳥である。実際いるらしいが、いたって平和である。途中から穀倉地帯となり、人々が種を蒔く姿を見られるようになった。もうすぐ帝都に到着する、メイドたちは皆嬉しそうにはしゃいでいた。私はだるさが残るがほぼ完治したのではないだろうか。ここまでの長い馬車の旅であったが、ミアはいろんなことを教えてくれたので退屈しなかった。
先日の交戦地帯の向こう側は初代皇帝が滅ぼした魔王が治めていた領土で今は冒険者達が肝試しに訪れて当時使われた剣や宝物の欠片を持ち帰る程度の場所であるそうだ。ただ定期的に魔物が出没するので入植する者はいない。魔王がいたころは数百年にわたって人族と魔族は戦争をしていたが、初代皇帝が魔王とその軍隊を滅ぼして帝国を築いた後は平和になったそうだ。帝国の役割は新たな魔王への備えと人々の安定した生活をまもることであり代々の皇帝はそうしてきた。そう言った理由で皇帝は民から尊敬されていたのだが・・。
先代の皇帝から少し様子が変わってきた。平和な世の中が続き自分の存在価値を見失った皇帝は私利私欲にはしり、特に女には見境なくなったのである。ミアの表現では、恋愛に多くの時間を費やすようになった、つまり仕事をしなくなったそうである。私の兄弟は30人以上いるそうで、諸侯の奥方や娘、町娘にも手をつけたので実際の数が分からないといった強者ぶりであった。そこでメイドである私の母親が出産し王妃の一人になったのをきっかけに皇帝のまわりをメイドで固めて押さえつけ実権を得たのである。その片腕がメイド長のマーシャであった。他の王妃は政治的に動くことは無く、母親に庇護されることで納得した。神官達も少女達が次々と手をつけられたので困り果てており、これを歓迎した。宰相や騎士団に魔導団は対外的な抑止力である皇帝の魔力が健在であることと出陣に際して障害とならないようにすることが確認できたので黙認していた。つまりメイドが処理係として帯同することで最低限の魔法を行使する仕事が出来るだろう、ということだ。
皇帝の息子たちが思春期を迎える時期になると早々に魔力を測定された。そしてたまたま桁違いの数字を出した私が皇帝を受け継ぎ前皇帝は自分の世界に没頭するようになった。前皇帝が皇帝として在任した期間は15年であった。生きたまま退任する皇帝としては短いそうだ。魔王と刺し違える覚悟で戦い結果倒したが死の呪いをかけられた初代の皇帝よりは長いらしい。しかし私が思春期を迎えるにつれ、粗暴なふるまいや女性を意識するようになるのを見て、また短命な皇帝が誕生したのか、そう危惧した母親とメイド長が慌ててミアを私の専属につけ戦場に向かった。
そして戦場で被弾した前の私と今の私の魂が入れ替わり、あまり女性を意識しないおとなしい皇帝が出来上がったのである。
だから私は神官のセレストが言うところのマーシャ達が理想とする皇帝なのだ。
ミアが言うには
「どちらにしても私にあなた様は手を出さないでしょう、なぜなら30人いる兄弟の一人が私ですから。前皇帝様も血縁には手を出していません。だからメイド長はとりあえず私を選ばれたのです。でも今だから言えますが私以外のメイドは要求に対応できますよ」
備えあれば憂いなし、ってことか。
さらに続けて、メガネを外しながら
「私がどうみえますか。女性の目には男性を魅了する魔力が宿っていることがあります。魔力が宿った女性の裸眼を見ると大抵の男性は魅了されます。ですからメガネをかけてそれを押さえています。それは兄弟でも同じですがあなたは違いますよね。ただ倫理的な意識が先行して発展しない、ただの兄弟愛だと思うからなのですが」
確かにそういった欲求は起きない、目が綺麗だな、とは思ったが。ほとんどの若いメイドはメガネをかけている、前皇帝や母親にメイド長がメガネフェチってわけではないし、流行っているわけでもない。対エロ皇帝用にそうした素質のある少女を集めてむやみやたらと種をまかないようにしているのだ。メイド長はメガネをかけていないし母もかけていないそうだ、それは能力が無いのではなく若いころは魅了する力が無差別に放出された状態でメガネをかけて押さえていたが今は自分の理性で抑え込むことが出来るからかけていないのだそうだ。
母は違うが兄弟だと聞いて噛み砕いた食事を与えられていた罪悪感が軽くなった。そして他のメイドと違いはっきりと厳しい口調で躾をしにくるのも納得いった。旅の最後にミアは言った。
「あなた様の兄弟は魔導団に沢山います。あなたほどではありませんが強い攻撃力や防衛力を持っています。皇帝の資質に関係ないその他の魔法で突出した才能を持った方もいらっしゃいます。そして、おじさま、つまり前皇帝の弟にあたる方が将軍です。あなた様はまだ若いのでもう少しいろんな魔法を教えてもらうのもいいでしょう」
帝都の手前で旅の埃を落とし、騎士団は鎧をつけ、魔導団は正装の黒いマントに杖を握り、宰相や私達も正装して馬車の内部で背筋を伸ばして座り、帝都の門をくぐった。




