はじめての日常
「ソフィア様、国王陛下がお呼びです、ネックレスも持ってくるようにとのことです」
ソフィアはもう少し考えていたかったがメガネをかけて国王の部屋に向かった。国王は何かを書いており、傍らに母親であるお后が座っていた。母親はソフィアを見ると微笑んだ。国王はソフィアを見ずに
「ヴァレンティーナから聞いたが、皇帝から送られた婚約のネックレスを受け取ったそうだな、それでお前はどうする」
ソフィアは国王の言葉に
「国王の仰せのままに従います」
みながするように判断を国王にゆだねた。国王はこちらをチラッと見て
「お前はおじい様が自分の意志で行動するよう育てた、お前が決めたらいい、お前の意志でいい、この国ではそれが許される・・嫁いだ先ではしらんが、だがとりあえずネックレスを見せなさい」
せっかちな国王はメイドが持って来たネックレスを見ると
「なるほどな、で、お前はどうするのだ、受けるならお礼の手紙を書いて今日中に送りなさい、断るならこれを送り返そう、今日中に」
急いでいることに違和感を感じたが、ソフィアの心は決まっていた
「国王がお許しいただけるなら受けたく思います」
国王は、許す、と即答えてこう付け加えた
「お前はわかっていると思うが、表裏ある石にその区別が無いときお前は籠の鳥ではいられない、皇帝は常に戦い続け領民に益を還元するよう宿命づけられている、そのため一緒に戦わなければならないこともあるだろう、剣を持ってという意味ではないが。それにこの細い鎖を見ろ、お前に一定の自由を与えるとも読めるが、それには責任がお前にあるとも解釈できる、今なら断ることが出来るが今一度聞く、お前はどうするのだ」
ソフィアは顔色を変えずに答えた
「皇帝様の行く先に必死についていきたいと希望します」
国王は困ったような顔で言った
「前の皇帝には問題があるが后はお前と同じ目の病を持っている、メイドたちにも病の者が多いと聞く、お前を理解してくれるだろう。報告を聞くと現皇帝は前の皇帝とは違うようだがよくわからん、あまり希望を膨らませると良くない。ここを離れたらもうしてやれることは少ない、元気にやるように」
ソフィアは一礼して退出した。后は不安そうな表情で国王に聞いた
「あの子はどうなるのですか。籠の鳥の私にはあの子のこれからの人生について何も助言してあげることができません」
国王は筆をおいてため息をついた
「すこしきつく言ったが、何もかわらない、これまでと一緒だ。輿入れ前にお前が得意な料理を教えてやるといい、わたしが王になる前によく作ってくれたあれなんかいいだろう、ソフィアもよろこんで食べていた。・・ただアスマスの血が濃いと冒険を始める、そういうことだ」
后は安心してその場を去った。入れ替わりに宰相が入ってきて言った
「第三王女、ソフィア様のご婚約おめでとうございます、第四王女様の件は白紙にします」
国王は天を仰いで
「ソフィアが受けたとは意外だったな、清廉潔白な性格だから色欲皇帝を拒絶すると思っていた。これから第四王女の相手を探さなければならない」
国王は続けて言った
「前の皇帝で帝国は崩壊するというのが皆の意見だった、王国の諸侯もそうだ。それをサキュバス・・と口の悪い者たちに呼ばれている后とメイドが支えた。そして今回のヴァレンティーナ達に頼んだ調査を聞くと状況が変わっている、アルバンはダンジョンに潜る前はあの世代で最強の戦士でみな知っている、これが伝説の龍から与えられた魔剣をもって皇帝が連れて戻って来たのだ、これはもう否定することの出来ない事実で他国にもすぐに知れ渡るだろう。我々の国はこれまで同様に帝国の最友好国でなければならない、そのためにもソフィアが決意してくれてよかった」
状況を共有するために国王は語った。宰相は深くうなずいて言った
「重要職に就いている家臣は集めています、もうすぐ全員到着するでしょう、諸侯にはこれまでの帝国と距離をとっていく政策を破棄することを親書として文書で通知します。連帯国への親書は出来ましたでしょうか」
国王は印を押しながら言った
「何か口実を作って皇帝に会って自分の目で確かめなければならない。それに例の色欲についての疑いは晴れていない、まあそれはあったとしても仕事に問題なければいいのだが。ソフィアが相手できる程度なら最良ではある」
宰相は印を押した親書をまとめながら
「それについてはカーサが皇帝の居城に残って調査することになっています、近日中には明らかになるでしょう。・・こちらは今日中に発送します、国王から皇帝様への書簡はいかがしますか」
国王は少し笑いながら
「ソフィアの礼状よりもはやくついては具合が良くないだろう、明日にしよう」
国王は立ち上がると家臣たちが集まっている会議場へと向かった。
ソフィアの居室では第四王女やメイドたちが婚約のネックレスを見ながらワイワイ騒いでいた。ソフィアは猫を抱きながら遠くを見るような眼で
「君も私と一緒に帝都に行くかい」
と言った。




