はじめての日常
ソフィアはトリア城の庭でメイドたちに囲まれながら猫と遊んでいた。そこにアスカムから戻ったヴァレンティーナが近づいて行った。
「ソフィア様、ただいまアスカムからもどりました」
ソフィアは浮かない顔ではあるが口元は微笑んでいる。ソフィアは猫を胸に抱くと振り返って言った
「お疲れ様です、ヴァレンティーナ、穀物の種子の搬入はおわりましたか。重要な公務の中、私的な用事をありがとう、疲れたでしょう、お父様の仕事が終わったら体を休めてください、お話は明日以降の時間のある時でかまいません」
ソフィアはヴァレンティーナに許嫁であるアスカムの噂などを聞いてきてほしいと頼んでいたのであった。ヴァレンティーナは早速報告したいことがあると言った
「城で種子を受け取った際、アスカム殿下に声をかけていただきました。その時に面白いお話を聞きました」
ソフィアは困ったような顔をしながら
「ダンジョンに行かれた時のお話でしょうか?それならばトリアでもすでにみな知っています。龍を10匹倒され数百本の魔剣を持ち帰られたとか、立派な働きをされたみたいですね」
ソフィアは皮肉をこめて言った、トリアではアスカムのホラ話として知れ渡っていたからだ。ヴァレンティーナは笑いながら
「私がアスカムに向かう途中で聞いた時は3匹でしたが、さすが皇帝様7匹増えましたか・・
まあ噂には尾ひれがつくものです。皇帝陛下がおっしゃるには実際は初代の皇帝と共に戦った龍とその子供の3匹に会ってお話をされ魔剣を一本ずつもらったそうです」
ソフィアはため息をつきながら言った
「わたしは皇帝様の好色な噂までは笑って聞くことが出来ますが、もううんざりなのですよ」
ヴァレンティーナは話を続けた
「ここまでの話は皇帝様も誰も信じてくれないとおっしゃっておりました。しかしダンジョンでアルバンを見つけて連れ帰って来たのです」
ソフィアも10年前にダンジョンに入って帰ってこないアルバンの話を知っていたのですこし興味がわいた
「アルバン様を見た人はいるのでしょうか。見た人が現れるまでは信じられません」
ヴァレンティーナは笑いながら
「種子をもらって帰る途中でした、ラアラ、リオニと皇帝様の話の真贋を論じていたところ、街中に知った顔がおりましたので馬を降りて確認したところ大きな魔剣を背中にせおった10年前の顔かたちのアルバンでした。私達が話しかけると、お前たち大きくなったなと言われました。皇帝様より休みをもらって街中を探索していたとのこと、さらにダンジョンの話を聞いていると皇帝様のおっしゃっていたことと同じでした。アルバン殿は私達が剣術を始めたときの先輩で毎日のように練習した仲です、間違えようがありません」
ソフィアは顔を赤くしながら
「あなたの他にラアラとリオニも見ているのなら・・本当なのでしょう。わたくしは謝らねばなりませんね」
それでもまだ信じられないと言った顔をしていた。しかたがないだろう、ヴァレンティーナはそこで
「私にはアスカム皇帝は悪い人間には見えませんでした、家臣にも慕われており、ラアラの失礼な態度も気にしないご様子、世間の評価とは違う印象です。
もし心配でしたら王宮の嘆きの井戸がダンジョンにつながっているそうです、そこに貢物としてメロンを投げ込むとシーサーペントの子供が、ありがとう、と言うそうです、試してみてはいかがでしょう」
ソフィアはすこしうつむきながら
「しかし、おじい様と先代の皇帝様がお酒のおりに決めた許嫁の話です、本気にしていた方がおかしいのかもしれません、アスカム様は知らされてないかもしれませんし。それにそのような立派な方が王宮で不平不満を言っている私などお選びになられるかどうか・・」
ヴァレンティーナはアスカムから預かったネックレスの入った箱を手渡した。そして
「私の許嫁である第三王女様に渡してください、と、おっしゃられていました」
ソフィアは放心状態でそれを受け取り、ポケットにしまった。ヴァレンティーナはソフィアに謎解きのヒントであるキーワードを教えた
「皇帝様は金色の髪に深い紺色の瞳です」
ヴァレンティーナの言葉はソフィアには聞こえなかったかもしれないがメイドたちがしっかりと記憶しただろう。
「ヴァレンティーナ、今日は大変なお仕事、お疲れさまでした、あとで差し入れをしておきます、皆さんでお食べになってください、わたしはこれで」
そういうと自室に帰っていった。メイドたちは、ご覧にならないのですか、と言ったが、ソフィアは見るのが怖かったのでそのままにしてしばらく宙をみていた。しかし意を決してそれを見た。はじめは焦点が合わない目をしていたが徐々にしっかりと強いまなざしになり最後は涙を流して微笑んだ。自分が選ばれない不安から解放された瞬間であった。




