はじめての日常
私が近づいていくと、ラアラが
「おいチビ、便所の場所なら知らねえぞ」
と言ったが、ヴァレンティーナはラアラを真顔で制止して
「失礼しました、皇帝陛下であらせられますか、私達はトリア王国よりまいったものでございます、私がヴァレンティーナ、こちらからラアラ、リオニと申します」
わたしもラアラを無視して
「みなさんおはようございます、朝早くからご苦労様です。私は皇帝のアスカムです」
さすがにみな敬意を示してくれた。ハイエはそつなく引継ぎを終えて軽く私に礼をして数歩下がった。
「今日は何時に到着されたのですか、前日に入られて城で宿泊していただいても良かったのですが」
などと会話しているとミアがダッシュで駆けつけて私に納品されたネックレスを渡した、中を見るとドラゴンの牙で固定された濃紺の石が気高く輝いている見事なできなので、視線でOKを出した。やはりドラゴンはウズだけなのかな。
「では長く引き留めてもなんですので」
と言ってネックレスを託そうとしたら、ヴァレンティーナは
「旅の途中で聞いたのですが陛下はダンジョンに入られたそうですね」
はい、言い訳の機会ありがとうございます。ヴァレンティーナも自分たちの話が聞かれていた認識があるのだろう。
「意図せずダンジョンに入りましたがドラゴンは三体で、魔王と戦って死んだと思われていたシーサーペントのウズとその子供たちでした。ウズは初代皇帝との約束で私達人間を食べないので話をしてお土産に私達に一本ずつ魔剣をもらっただけです。
まあこれでもほとんどの人は信じないのですが」
そういうとヴァレンティーナたちは笑って
「陛下だけではないのですね」
「私と、メイドのミアと、途中で出会ったアルバン、そして嘆きの井戸から落ちたハーフエルフです」
ヴァレンティーナはすこし驚いて
「アルバン殿は10年前ダンジョンに入ったアルバン殿ですか。私は子供のころ一緒に剣術の練習をしたことがあります、帰ってこられたのですか、あの迷宮から」
よし、これで信じてもらえるな
「今、エーリッヒ家でのんびりしてもらっています、昔のままの姿ですよ、時間がとまっていたので。お知り合いなら今日来てもらえばよかったですね」
しかし信じられない、と言った顔をしている。寡黙そうなリオニが
「嘆きの井戸からダンジョンに入れるのですか、王城にもありますが人は入れません、ハーフエルフなら入れるのでしょうか」
「封印されていると人もハーフエルフも入れません、魔物なら落ちてウズの餌になるそうですが、ハーフエルフの村の近くにある嘆きの井戸はまだ封印されていないそうで、はやいうちに封印しに行くようウズに言われています」
リオニは官職についてなければついてきそうだな、と思いながら
「王城の嘆きの井戸からなにか、そうですねメロンとか投げ入れるとシーサーペントの子供がよろこんで、ありがとう、と言うかもしれませんよ」
適当なのだが言ってみた。3人とも笑っていた。最後に私は
「公務で訪れているのに私用を頼んで申し訳ないのですが、これを私の許嫁である第三王女殿に渡していただけませんか」
ああ、これが目的でまっていたのか、と言った感じでヴァレンティーナは快く引き受けてくれた。そして
「皇帝陛下はソフィア様とお会いになったことはありますか」
私がまだ会ったことが無いと告げると
「ソフィア様はあなた様と同じ金色の髪と深い青色の瞳を持たれたとても聡明で明るいかたです」
そう言って馬上の人となって帰って行った。ソフィア様は美人そうだ、そもそもこの世界はみんな美人だが。
今日中に領内の出城まで到着したいそうである。
婚約の品を送るのは親同士の口約束を本人同士が承諾したことを示すための契約の儀式であり、まあまあ破談することもあるそうで、あまり大げさにはしないようである。これを受け取った第三王女が納得していなければこれを返品してくるし、納得すればお礼の手紙が届くらしい。マーシャが言うには位の高い男性からの求婚には普通断らないそうだが私の場合父親の評判が悪いので断られるかもしれないとのことであった。
男の方は親の決めた相手とはとりあえず結婚して気に入らなければ妾をとるという方法があるそうだが信用を失うらしい。さらに親同士が約束していても何もせずにいきなり別の相手と婚約し、それをもって相手に破談したことを知らせるのは絶対にやってはいけなそうで、それをやったのが父親であった。
ヴァレンティーナ達が帰った後、ミアはもっとゴテゴテした装飾の方が相手の受けがいいと主張していた。自分が選ぶ場にいたら絶対にゴテゴテしたのを選らばせていた、そう何度も言っていた。ネックレスの価値がイコール女性の価値になるので見た目ゴージャスな方が自分の価値をより高く見積もってくれていると判断して喜ぶ、と言う私見であった。ミアに求婚する相手に教えてやろうと思う。




