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6.終了(ライザ)

「倒れてから二時間ほど眠っていたのよ。気分はどう?」

 目が覚めた時、マリーが気遣わしそうに私を見ていた。

「悪くないわ。魔力も少し回復したみたいだし。迷惑をかけてごめんなさい」

「ライザはたまにこうして倒れてしまうから、私は慣れているけれどね。あの騎士様はとても驚いて、自分のせいだと自責の念に駆られていたみたいよ。いつもより無茶をしたみたいね。あの騎士様を早く治したかったのかしら? でも、今日の治療は途中までにして、残りは後日にということにしておけば良かったのに」

 一瞬、そうすればまたベルトルドに会えたのにと思ってしまった。あまりに利己的な考えが浮かんで自己嫌悪に陥ってしまいそう。


「そ、そんな。私のせいであんな酷い怪我をしたのに、途中で放置なんてできません」

 慌てて醜い考えを打ち消す。会いたいために治療を途中でやめるなんて、そんなことは絶対にしては駄目だ。


「そうね、彼のあの性格じゃ、怪我をしたまま無理をしそうだしね」

「そうなの。ベルトルドはとても優しいし、責任感も強いから」

「あら、名前呼び? もうそんなに親しくなったの?」

「えっ! 違うの。これは、あの……」

 いつも心の中で名前を呼んでいたから、つい言ってしまった。これからは気をつけなければ。


「顔が真っ赤だわ。ライザ、可愛い」

「ほ、本当に違うのよ」

「彼はちょっと卑屈だけど、我慢強いし、文句も言わなさそう。患者としては理想よね」

「そ、そうなのよ! アントンソンさんは理想の患者なの」

 そう言うと、マリーは盛大に吹き出してしまった。彼女に揶揄(からか)われていたみたい。


 ベッドから立ち上がってもふらつくこともなかったので、着替えてから帰ることにした。

 もうすっかり日が落ちている。今日は本当に長い一日だった。


 今日の出来事を思い起こしていると、色っぽかったベルトルドの半裸が頭に浮かんできて、恥ずかしくて赤くなっているだろう頬を手で隠しながら廊下を歩いていると、向こうから紫色が近づいてくる。こんな髪の色をしているのはこの世界でロベールだけだ。


「ライザ、魔力の使い過ぎで倒れたんだって? 今日は診察日でもないのに、そんなに無理する必要などないだろう。重傷患者なら僕を呼べば良かったのに」

 そんなことをすればロベールとアンナリーナと出会ってしまう。他で出会って惹かれ合うのなら仕方がないけれど、ベルトルドを治療してもらったからと、アンナリーナが交際を断れなくなるのは嫌だ。ベルトルドは私のせいで怪我をしたのに。

 それに、緑の手の持ち主である彼女はこの世界に絶対に必要な人だから、ロベールに監禁させるわけにはいかない。


「私のせいで怪我をさせてしまったので、私が治療しました。魔力の残量を見誤ったのは私の未熟さ故です。もっと努力しなければなりませんね」

 魔力や精度は私の方が上だけれど、治療経験は圧倒的にロベールの方が多い。だから、治療の腕は彼の方が上だと思う。治療法の研究でもかなりの成果を上げている。先輩医師としてのロベールは本当に尊敬できる人だ。


「この仕事はかなり辛いのではないか?」

 ロベールにそう問われて、私は返事ができなかった。辛くないと言えば嘘になる。でも、辛いだけではないから。


「なあ、僕と結婚しないか? そうすればもうこんな辛い毎日を送る必要はなくなるよ。魔力量が際立って多く、様々な聖魔法が使える僕たちの結婚なら、誰も彼も祝福してくれるはずだ。僕たち二人の子どもが産まれるのなら、国王陛下だって君が仕事を辞めるのを止めはしないよ。結婚後は僕が君の面倒をすべてみてあげる。君は僕のことだけを見て、僕のことだけを考えていればいい。辛い思いなど絶対にさせない。毎日、穏やかに過ごせるよ」


 ゲーム中でなぜライザがロベールと結婚したのか疑問だったけれど、彼の言葉を聞いてわかったような気がする。

 ゲームのライザは疲れ切っていたんだ。

 私だってベルトルドと出会っていなければ、監禁されるとわかっていてもロベールの言葉に惹かれてしまったかもしれない。


 でも、前世の記憶を持って生まれた私は、自由の尊さを知っている。そして、私が仕事を辞めてしまえば、治療を受けることができなくてベルトルドが死んでしまうかもしれないということも。


「ごめんなさい。確かにこの仕事は辛いことも多いけれど、でも、やりがいを感じているの。だから、仕事を辞めるつもりはありません。これからも頑張って、もっと上手く治療が行えるようになりたい。そのためにも、先輩医師として私を指導してください」

「そうか、残念だな。僕の身分も能力も結婚相手として申し分ないと思うのだけどね」

 確かに彼と結婚すれば家族も喜んでくれるだろう。過労を心配している母を安心させてもあげられる。でも、彼が求めているのは従順なお人形。結婚後も仕事を続けるような妻ではないだろう。私にはロベールの求めには応じられない。


 少し肩を落としたロベールが自分の研究室へと戻っていく。

 こうして、ヤンデレ医師編は無事に終了したようだった。

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