5.音楽堂にて(アンナリーナ)
ライザさんも誘って、四人でお祭りを楽しもうと思ったのに、義兄はエミリ様の護衛を頼まれてしまった。
何だか危険なことに巻き込まれてしまうのではないかと心配になるが、あの義兄がライザさんのお願いを断れるはずもなかった。
これで無事にエミリ様の護衛を務めることができたのなら、ライザさんの義兄に対する評価は少し良くなるかもしれない。でも、もし失敗するようなことになったら愛想をつかされてしまうのではないだろうか。そんなことになったら義兄は立ち直れないような気がする。それに、エミリ様にも申し訳ない。
「兄様、護衛なんて本当に大丈夫なのですか? 自信がないのならばお断りした方がいいと思うのよ」
なぜか自信ありげに立っている義兄に小声で訊いてみた。
「俺なら大丈夫だ。ライザ様から直々にお願いされたのだぞ。受けないなどという選択肢があるはずもない」
義兄は断るつもりはないみたい。本当に大丈夫なのだろうか? 不安しか感じない。
それにしても、なぜライザさんは義兄に頼んだりしたの? もっと強くて役に立つ騎士がたくさんいそうなものだけど。義兄のことを頼りがいがあると思ってくれているのなら、それは喜ばしいことだけど。
「それでは音楽会に参りましょうか」
一番年上のガイオ副所長がそう声をかけて、エスコートするために私の手をとった。その動作はかなり洗練されていて、やはり伯爵閣下なのだと思い知らされる。そんな副所長から見れば、私なんか冴えない小娘に過ぎないだろうな。
そんな風に卑屈になりかけたけれど、副所長は私をエスコートするのは光栄だと言ってくれたから、笑顔でその手を握り返すことができた。
ライザさんのエスコートをするなんて卒倒してしまうのではないかと心配していた義兄も、ライザさんの手をそっと掴んでいる。手が震えていなければそれなりに様になったのに。少し残念だった。
こうして私たちは馬車に乗って音楽会の会場へと向かった。
身内だけのお披露目会だと聞いていたのに、会場となるのは王立音楽堂。王太子殿下とその婚約者の令嬢まで参加する賑やかなものらしい。
そんな華やかな場所に出たことはなかったのでとても緊張したけれど、エスコートしてくれている副所長がとても落ち着いているので、笑顔で馬車を降りることができた。それでも心臓はどきどきしているし、油断していると、手と足が一緒の出そうになる。
義兄のことも心配したけれど、かなり歩き方は硬いものの、倒れることもなくライザさんをエスコートできている。これ以上求めてもあの義兄には無理だと思うので、これで良しとしよう。
こうして音楽堂の中に入ると、ガイオ副所長が注目の的になっていた。いつもとは違いすぎる姿だから仕方がないけれど。おまけに私まで注目されている。とにかく姿勢よく前を向いて、でも、ドレスの裾を踏まないように心掛けながら歩いて行く。
それにしても、騎士服を着用している人が多い。エミリ様の叔父である騎士団長の姿も見えるし、美形で有名な騎士団副団長は男装の女性騎士と一緒に歩いている。
ライザさんもエミリ様の護衛を義兄に頼んでいたし、何か良くないことが起こるのだろうか。
少し不安な気持ちで、案内された座席に座った。隣にはガイオ副所長。義兄とライザさんは少し離れた席だった。
王立音楽堂のゆったりとした座席に座って、エミリ様の天使のような歌声を聴く。何という贅沢なのだろう。本当に音楽会へ招かれてよかった。
この歌声を聴けば、豊穣祭に集まってくると言われている精霊たちも大喜びするに違いない。
声だけではなく、エミリ様の容姿だって天使のようだった。小柄で桃色のふわふわした髪の毛がとても可愛らしい。
そんなエミリ様だが、その小柄な体からは想像もつかないほどの声量を披露してくれた。本当に素晴らしい歌声だ。
それから一時間ほどして、事件や事件も起こることもなく至福の時は終わってしまう。
舞台の下では青い髪の青年がエミリ様を待っていた。
「あれは宰相殿の長男だな。頭が切れると評判の青年だ。彼はエミリ嬢に心酔しているらしいぞ」
相変わらずガイオ副所長は事情通だ。
「そうなのですね。とてもお似合いだと思います」
だって、エミリ様はとても嬉しそうだから。
「お互いの家族も応援しているらしいし、婚約も間近かもしれないな」
それはとても羨ましい。
エミリ様はこれから豊穣祭の舞台が設営されている王城前広場に向かうらしい。義兄も彼女の護衛としてついていくという。
残された私たちは音楽堂のエントランスへと向かった。
「あの、ライザさん。午後に行われる豊穣祭にご一緒しませんか?」
勇気を出してライザさんをお祭りに誘ってみた。本当は四人でお祭り見物するつもりだったけれど、残念なことに義兄はエミリ様の護衛のため別行動になってしまう。そんな可哀そうな義兄のためにもっとライザさんともっと親しくなっておきたかった。もちろん、副所長ともっと一緒にいたい思いもあったけれど。
「それはいい考えですわね。ぜひ同行させてください。ガイオ副所長もご一緒するのですよね」
ライザさんはあっさりと誘いに乗ってくれた。おまけに副所長まで誘ってくれる。なんていい人なのだろう。
「わかった。私も一緒に行こう。しかし、我々はお祭りへ行く服装ではないので、一旦帰宅して着替えてから集まろうか。ベルトルド殿が一緒できないので、我が家の護衛を何人か連れてくるからな」
副所長に贈られたドレスをもう脱いでしまうのは残念、でも、副所長やライザさんと一緒にお祭り見学できるのはとても嬉しい。義兄には申し訳ないとは思うけれどね。後でライザさんのことをたっぷりと聞かせてあげるから、それで我慢して。




