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苦労をしている王妃の会


 寮に戻る間、クロヴィス様がなんだかんだと話しかけてきたけれど、私は取り合わなかった。

 結構よく怒っている私だけれど、今日ばかりはかなり頭に来ていた。

 本心を見抜かれてしまった恥ずかしさと、私の置かれている状況についての理不尽さが綯交ぜになって、わかってはいるものの可愛げのない態度をとることしかできなかった。

 寮に帰ってルシアナにお土産を渡し、公爵家に届けるように頼んだ。

 クロヴィス様とは寮の前で別れた。しきりに私を心配してくれていたけれど、無視した。


 翌日私は久々に城に向かうことにした。

 王妃様に会うためである。

 本来ならきちんと手紙で伝えてから城に行くべきなのだろうけれど、心の中の靄を解消しなければ、学園でクロヴィス様と会っても無視をしてしまいそうだったからだ。

 それは、良くない。

 あまりにも可愛くなさすぎる。自覚はあるのよ。でも、一度ひねくれてしまったものを元に戻すというのは結構難しいのだ。

 ルシアナと一緒に城に向かった私を、王妃ヴィヴィアナ様は快く迎え入れてくれた。

 城の奥にある応接間へと私とルシアナは通された。

 広い部屋のソファに私とヴィヴィアナ様は向かい合って座った。ルシアナは私の背後に控えている。

 侍女の方が、紅茶とレモンケーキを中央にあるテーブルに並べてくれた。


「リラちゃん、久しぶりね。最近めっきりお城に来てくれなくて、寂しかったわ」


 ヴィヴィアナ様は不実を咎めるように、唇を尖らせて言った。

 ヴィヴィアナ様は純白の狼を思わせる耳と、ふさふさの大きな尻尾を持っている半獣族の方だ。

 いつまでも若々しく、妖艶な色香のある方である。ヴィヴィアナ様の尻尾はかなり大きいので、ドレスの下には入れ込まずに、特殊な形状のスカートから外に出している。

 まだ体が小さかった頃は、良く尻尾に乗って遊ばせてくれたものである。


「ご無沙汰をしてしまい、申し訳ありません」


「良いのよ。クロヴィスのせいでしょう? 知っているわ」


「……そういうわけではないんですけれど」


「隠さなくて大丈夫よ。クロヴィスの態度にも困ったものだわ、と思っていたのよ。年頃になるにつれて、外面は良いのにリラちゃんのことは粗雑に扱っていたでしょう? 我が息子ながら、どうしてこう……、なんと言うんだったかしら。シグルーンに聞いたのよ」


 シグルーンという名前に、私は嫌な予感を覚える。


「そう、どうしてツンデレに育ってしまったのかしら、と思って!」


 ヴィヴィアナ様は思い出したことが嬉しかったのだろう、口の前で手を組み合わせるとにっこり笑った。

 シグルーンめ、ヴィヴィアナ様にまで余計なことを吹き込んで、あの変態め。

 私は心の中で悪態をついた。


「でも――私の話を聞いて青ざめていたから、少しは態度をあらためたのかしら」


 耳も白ければ真っすぐな髪も肌も白いヴィヴィアナ様は、赤い唇に指先をあてて小首を傾げた。


「……学園で久々に会ったら、それはもう、激しく謝ってくださいました」


「謝ればすむという問題ではないわ。婚約者に冷たくした罪、せいぜいリラちゃんに尽くしに尽くして、尽くしまくって償うと良いと思うの」


「クロヴィス様は、良くしてくれていますよ」


 最近は朝から晩までクロヴィス様の顔を見過ぎて、クロヴィス様の顔を見る日常に慣れてしまっているぐらいだ。

 そういえば今日は会っていないなとふと思う。

 何となく落ち着かない気持ちになる。

 飼いならされている場合じゃないのに、私。気をしっかり持つのよ。私の明るい未来のために、王妃様にきちんと確かめなければ。


「その、ヴィヴィアナ様。他国で婚約破棄が流行っているというのは本当ですか?」


「流行っているかどうかはなんともいえないのだけれど、そういった話は時々あるそうね。事後処理が大変だという話よ。具体的にどこの国の誰が、というのは言えないわ。国の醜聞だから、リラちゃんにも内緒よ。リラちゃんも、夫の枕を燃やしたい王妃の会にいずれは入ると思うから、その時に教えてあげるわね」


「枕を燃やしたいんですか、ヴィヴィアナ様」


「加齢臭がするからね」


 私は国王ローランド様の枕について思いを馳せた。

 ローランド様はクロヴィス様によく似た大変麗しい渋めの美形なのだけれど、加齢臭からは逃げられないのかしら。





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