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みっともなくも縋ってみせる - 3

「松コース九万円、竹コース六万円、梅コース三万円」

 開口一番放たれたニル婆の一言で、上がりきっていた私のテンションはだだ下がった。

「高っ!」

 私がそう言って絶望することなんてわかりきっていただろうに、ババアは頬杖をついたままにやりと笑ってみせる。

 ビルとビルとの隙間にあるこの裏路地には、どんなに天気がよくてもうっすらとしか陽がささない。真っ昼間にしては薄暗いこの場所でまじまじと見ると、顔に刻まれた皺には邪悪な感じで陰がついていて、やっぱりこいつ、魔王だ、魔王。

「イマドキの若いのは金持ちだって聞くよ。そんくらいもってんだろう。ほら、飛んでみせな」

「やり口が古いし札は飛んだって鳴らないってば!」

 がっくりと肩を落としながらじゃツッコミのキレも落ちるってもんだ。私はショルダーバッグの中から財布を取り出し、おずおずとその中身を確認した。

 六千円。これだけあったら足りると思ったんだけどな。占いってものの相場を知らなかった私が悪いのか、それともただ単にこのババアがひどいぼったくりなのか。

「はぁ……」

 溜息をつきながら背中を丸めると、なんだかみじめな気持ちになってきた。まるで潮が満ちていくみたいに、「私なんてやっぱりどうせ」の気持ちがじわじわと足元まで迫ってくる。

「……死ぬのはやめたんだろう」

 ニル婆は、真っすぐ前を向きながらそう言った。

「――そんなの、わかんないよ」

 私は唇を尖らせながら、まるで幼い子供のような口調で答える。

「――泣き落としとは汚いね」

 ニル婆にそう言われて気付いた。はは、私、ちょっと泣いてるわ。ぐし、と鼻をすすりながら指の背で目元をこする。

「ほれ」

 皺くちゃな手が、こちらに向かって何かを放った。

「……ありがと」

 キャッチすると、かろうじて残っていた最後の一枚を取り出し、鼻をかむ。こういう時に出てくるのがパチンコ屋のロゴ入りポケットティッシュってところが、なんか笑えた。けど。

「優しいんだかひどいんだかわかんないね」

 汚れたティッシュを手の中で丸めながら、私は言った。

「誰が」

 短く問うニル婆に、

「あんた以外に誰がいるんだ」

と返すと、皺くちゃの口元が一瞬可笑しそうに笑む。

「そうかい」

 ニル婆がこぼした四文字は、普段の彼女の言葉よりも、ずっと優しい響きだった。私は昨日去り際に見た、魔王らしからぬ聖母のような笑みを思い出し、なんともいえない気持ちになる。このババア、やっぱりよくわからない。

「……気が変わったよ」

 ニル婆はそう言って、すっくとその場に立ち上がった。にわかに吹いた爽やかな風が、柔らかくニル婆と私の前髪を吹き上げ、そして流れ去っていく。

「あんたのことを占ってやる。特別条件でね。そうだ、学割ってことにしよう。それがいい」

 両腕を組みながら片口角を吊り上げたその顔は、すっかり大魔王の貫禄を取り戻している。

「そのかわり、あんたあたしの下僕になんな」

 そう言ってにやり、と笑って見せたニル婆。その顔はやっぱりどこまでも、他の追随を許さないくらい最凶に邪悪だった。

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