使いっぱしりの言うことにゃあ - 2
「今時高校生に大吟醸売ってくれる店なんかあるかよ……」
指令の紙を片手に、そうやってぶつくさ言いながらやって来たのは、商店街の古びた酒屋だった。手書きらしい看板には、「古井酒店」とある。なんだ、ダジャレか?
私はおずおずと、引き戸になっている入り口から店内へと足を踏み入れる。びしょ濡れの身体を、少しききすぎた感のある冷房が冷やした。
店内には所狭しと大小さまざまな酒瓶が並んでいる。そして奥には、どうやら蔵のようになっている部分もあるらしい。
この商店街にこんなに本格的な酒屋があるとは知らなかった。私はメモに書いてある文字と棚にある商品とを交互に見比べながら、目的の商品を探した。
「八……山……?」
しかしニル婆の字が達筆すぎて、真ん中の文字が読めない。八なんとか山なことはたしか……だと思うんだけど。困り果てながらうろうろしていると、店の奥からエプロンをかけたスキンヘッドのおっさんがやってきた。
「なんだい。うちにゃあ子供に売る酒はないよ」
ぎろりと睨みをきかせながらそう言われて、「ですよねー!」と震えあがる。しかしこの任務をクリアしなければ、ニル婆に新しいアドバイスをもらうことができない。それは、どうしたって、困るんだ!
「このお酒を、どうしても買わなきゃいけないんです……!」
私はそう言って、ニル婆のメモをスキンヘッドのおっさんに突きつけた。おっさんはメモを見ると、ふぅむと顎に手をやり、しばらく考え込むような素振りを見せる。
「八海山の大吟醸……。この字、もしかして、ヨウちゃんのおつかいかい?」
ヨウちゃん、という名前に、聞き覚えはなかった。私がきょとんとしている理由を察したのか、先ほどまでとは打って変わってにこやかな笑顔を浮かべながら、おっさんは続ける。
「そこの路地で占いをやってるばあさんのことさ。お前さん、ヨウちゃんに占ってもらいたいんだろう?」
おっさんはそう言うと、いそいそと店の奥へと戻り、酒瓶が入っているだろう箱を持ってきた。
「ヨウちゃんはうちの上得意さんだからね。料金は特別にツケてるのさ。いいからこれを持っていきな。くれぐれも途中で飲むんじゃねぇぞ」
とんとん拍子に進む話に、完全にこっちが置いていかれている。しかし私の困惑なんか気にもとめずに、おっさんは快活にカラカラと笑って、言った。
「人生に悩める若人よ。おれぁお前さんの味方だぜ。おら、行った行った!」
このおっさんが私の事情を欠片も知らないことはわかっているのに、不覚にも涙が出そうだった。おっさんに手渡された酒瓶の箱をぎゅっと抱き締めながら、私は深く礼をし、酒屋を後にする。おっさんは、初対面の時には想像もできなかった愛想のいい顔で笑いながら、いつまでも手を振っていてくれた。




