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使いっぱしりの言うことにゃあ - 1

 この一週間、地獄の日々だった。一週間っていっても正確には火曜から金曜までだから、七日間じゃなくて四日間だけだけど、正直永遠かよってくらい長かったわ、今週。

 ぶっちゃけるけど今、半分以上死んでる。私がっていうか、私のアイデンティティが。

 書けない。絶望的なまでに書けない。色々試してみたけれど、枯れた言葉の泉はカラカラに干からびたままだ。私は焦っていた。わかってるんだ、焦れば焦るほど上手くいかなくなるってことくらい。けれどこれで、この状況で、焦るなって方が無理だよね、絶対。

 ニル婆の言葉は、常に頭の中にあった。「これはインプットに専念しろって暗示なのかも」とか思って、色々本を読んでみたりした。

 でも駄目なのだ。いくら文字列を目で追っても、内容が頭に入ってこない。ストーリーがうまく頭の中で映像にならない。これがこの小説の書かれ方の問題ではないことくらい、十分すぎるほどわかっていた。私、もしかしたら、ちょっとどこか壊れてしまったのかもしれない。

 そして待ちに待った土曜日。私は愛用のショルダーバッグをひっかけて、一目散に家を飛び出した。文句を言ってやろうと思ったんだ。あんたのアドバイスなんか、全然役に立たないじゃないかって。ぶつけたい言葉はいっぱいあった。っていうか、これを言ってやろう、あれを言ってやろう、とか思ってないと、今にも泣いてしまいそうだった。

 うだるような暑さの中、虫取り網を持った子供や、クールビズのサラリーマンをびゅんびゅん追い越して、走る、走る。

 どこから出てきたんだよってくらい噴き出した汗が、こめかみから頬にかけてをびっちょりと濡らしていた。もれなくへばりついた髪のせいで不快指数はマックスだけれど、それでも何もかもをぶっとばして、私はなおもひた走る。

 このくらいの年頃の子が街中で全力疾走とか、なかなかに珍しいんだろう。驚いたひとたちの視線が容赦なく向けられるけれど、そんなことに構っちゃあいられない。。

「お、来たね」

 ニル婆はそう言って、もはや全身濡れネズミ状態の私を迎えた。

「……っ……!」

 出てこい、私の中でくすぶっていた不平不満たち。今こそそれらをニル婆にぶつけ、このもやもやを晴らす時だ。でもうだるような暑さが、早鐘を打つような鼓動が、その邪魔をする。

「あ、んな……っ!」

 あんなアドバイス、なんにも役に立たなかったよ。私はそう言うつもりだった。けれどニル婆は、無言で白い紙っぺら――おそらくは新聞広告の裏の白紙部分――を突きつけてきた。意外な達筆で、「竹コース 学割アリ」と記されている。

 じりりりり、とどこからともなく響いてきた蝉の声が、頭の中にぐわんぐわんこだまする。もしかしたらそいつのせいで、正常な思考力を奪われてしまったのだろうか。

「……お願い、します」

 私はそう言って、力なくぺこりとニル婆に頭を下げた。にっこり笑った大魔王は、何も言わずに再び、今度は別の裏紙を取り出す。そこにはやはり流麗な文字で、「本日の下僕メニュー」と、箇条書きになった私の任務が記されていた。

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