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短編にしようと思ったのに書き出したらやっぱり長くなってしまったので、今回は最初から連載にしました。

変な所で次話に続く!になったらごめんなさい。

 古い歴史のある街並みが、活気のある声の背景になっている。

 響くのは本日の目玉商品をアピールする店員の声、買って欲しいと強請る子どもの声、店主と白熱の値切り交渉をする客の声。

 これはとある世界の一つの国、ハイエ王国。王室御用達や高級ブランドの店だけでなく、市民も手の届くリーズナブルな店も軒を連ねる大通りの様子である。

 たわいない女の子同士のお喋りも、やんちゃな男の子の元気な掛け声も、微笑ましい家族のやり取りも、どんな声も喧騒の一部となって溶けていっている。


 そんな喧騒の中で一際耳に付く声があった。


「おい、そこの男! 待て!」


 誰かを呼び止めたいのだろうが、そんな言い方では誰も自分の事だと思わないだろう。実際、目的の人物には止まって貰えないようだ。


「おい! そこの男! 待てと言っているだろう!」


 再度呼び掛けるも止まって貰えず、やむなく男は歩を進め目的の人物に近付いた。


「おい! お前だよお前! アンジーを弄んでるのはお前だろう!」


 ぐいっと肩を掴み無理矢理呼び止めて、険しい声で言い放った男、名をマイク・アンダーソンと言う。

 その大柄な体躯、相手を射殺さんばかりに睨み付ける目、そして喧騒に埋もれない大きな声。

 呼び止められたのが一般市民ならば、竦み上がってしまうだろう。

 しかし、今回は……。


「は? 俺?………いきなり何のことですか? 人違いです。すみませんが貴方はどちら様ですか?」


 呼び止められた人物は、コージャイサン・オンヘイ。

 この国の三大公爵家の一つオンヘイ家の者で、知る人ぞ知る強者であり、また先程から擦れ違う女性の視線を掻っ攫っている美貌の持ち主だ。

 攫った視線にも周りの喧騒にも頓着せず、目的地に向かって歩いていた所を呼び止められたようだ。


 突然の事で驚いた様子ではあるが、しっかりと相手を見据え人違いである事を告げている。「どちら様ですか?」と聞いている辺りから察するに、二人に面識はないようだ。


「そんなわけあるか! お前はその顔と貴族という身分をひけらかしアンジーにその気がある素振りを見せておきながら、実は貴族の婚約者が居るらしいな! 先日アンジーの元にその婚約者と言う者から脅迫文が届いたそうだ! 婚約者がいる癖にアンジーを弄び、剰えその女の嫉妬と狂気に塗れた醜さをアンジーに見せ恐怖させるなど貴族の、いや男の風上にも置けん奴め! 俺はお前を許さない!」


 マイクはコージャイサンに向かいビシッと指を突きつけて言い切った。語尾の強さや言い切った勢いから、相手が貴族だと分かっていても相当な正義感を持って言っているのだろう。

 その大声で繰り出される言葉の数々に、道行く人々も思わず「何だ? 喧嘩か? 修羅場か?」と足を止めて様子を伺い始めた。


「人違いです。そもそも貴方とも貴方の言う女性とも関わった覚えがありません。それに婚約者が脅迫文を送ったと言う話ですが、うちの婚約者はそんなことしません。あり得ません」


 そんなマイクに冷静に否定の言葉を返すコージャイサン。その様子に迷いや動揺は一切見られない。


 それにコージャイサンには、目の前の人物もその人物が言う女性もどちらにも覚えがない。誰かと勘違いしているのだろう、双方が名乗れば人違いがきちんと伝えられると名乗ろうとしたのだが……。


「もう一度聞きますが、貴方はどちら様ですか? お会いし……」


「とぼける気か⁉︎ アンジーはそこの雑貨屋の看板娘だ! どうだ! 覚えがあるだろう!?」


 遮られた。マイクは雑貨屋を指差しながら女性の事を言う。そんなマイクの言葉に、「ああ、あの娘ね」と呟いたのは周りに集まった者たちだ。どうやら(くだん)の女性はこの近辺では有名らしい。


「アンジーは“アンジェリーナ”と言う名前に相応しく、正に地上に舞い降りた天使! 緩やかに波打つ長く美しいプラチナピンクの髪、晴れ渡る空を写したのであろう澄んだ瞳、瑞々しい唇から紡がれるのは最上の音楽を思わせる声。しかし、何よりも素晴らしいのはその心根! 心の美しさが見た目に反映されているのか、または神すらもその美しさに惹かれ、いずれ自らの側に呼び寄せる為に心を授けたのか……」


 マイクは語る。身振り手振りを加え、まるで「今ここは彼女の素晴らしさを伝える舞台!」とでも言うように熱く熱く語る。


「気立ても良く料理も上手い! 驕らずどんな人にも優しく、困っている人が居たら手を差し伸べずには居られない! とても素晴らしい女性だ! だが、そんなアンジーに惚れる男は後を絶たず、一体何人の男が彼女の虜になった事か……どうせお前もその口だろう!」


 件の女性のことを力の限り褒め称えたかと思えば、次の瞬間にはその美しさ、優しさに対し憂いを滲ませた。実に忙しない語りである。

 その語りを聴き、ウンウンと頷く男性たち。そして、「俺は贈り物のアドバイスを貰った」「あの微笑みで疲れも吹き飛んだ」などと口々に言い出した。成る程、中々人気があるようだ。


「申し訳ないですがその店に行ったことが無いので、貴方の言う女性の事は知りません。再度言いますが人違いです。確認の為、名を……」


 マイクの熱い語りも周りの盛り上がりもなんのその。一体どんな女性なのかと気にする素振りもなく、コージャイサンは否定を口にする。

 とにかく人違いなんだからまずそこを正そう、と二度流された問いを三度(みたび)聞こうとしたのだが——マイクが反応したのはそこではなかった。


「行ったことが無いだとー⁉︎ 俺はアンジーから貴族の男に言い寄られて困っていると聞いたんだ! しかも、婚約者から脅迫文まで来ているんだ!地味に装っているつもりかも知れんが、その隠しきれていない如何にも品の良さそうなオーラ! 言い寄っている貴族とはお前のことだろう! アンジー目当てで店に行っていた癖に今更誤魔化す気か!」


「ですから……ああ、もういいです。貴方、こちらの話を聞く気がないでしょう」


 諦めた。コージャイサンは目の前の人物との意思疎通を諦めた。

 彼は一体どんな思考回路をしているのだろうか。耳に特殊なフィルターでも付けているのかもしれない。

 気になるところではあるが、会話が成立しなければ意味はない。


 ——もう面倒くさい。


 例え訴えられても無実には変わりないし、後は裁判局で判断して貰えばいいか、と匙を投げた。


 このハイエ王国において、不敬罪として捕らえられるのは相手が王族や王位継承権を持つ者の場合だけである。

 貴族に対しては名誉毀損があるが、確固たる証拠がある場合は平民が裁判局に訴えを起こし、成立すればその貴族を投獄する事も可能だ。

 それはひとえに、偉人ユエイウ・ヴォン・バイエの功績である。

 腐敗や癒着を嫌ったかの英雄は、「権力や武力を貴族が持つのならば、それは正しく行使されねばならない。傲岸不遜、有事の際の役立たずは不要。私腹を肥やすだけの貴族は害虫と変わらない。領民よ、『こいつダメだ』と思ったらどんどん訴えなさい」としたのだ。

 訴えにより一時的に空いた爵位や領地は一旦国が預かり、新たに見込みある者や功績を残した者に下賜する、としたのである。

 しかし正しく行使する貴族には、領民はその権力や武力により守られる対価としてきちんと税を納めるようにとも言ったのである。

 もちろん反発はあったが、その膿を一掃し実現するだけの力がかの英雄にはあった。以降その体制は今日まで続いている。


 そして、今回の場合。

 コージャイサンは公爵家で母は王妹であるが、降嫁した際に王位継承権を放棄している。

 故にコージャイサンにも王位継承権は無いので、無実の言い掛かりの場合は貴族に対する名誉毀損に当たる。

 もちろんそれはコージャイサンが裁判局に訴えれば成立するのだが、マイクにその意識があるかは別の話である。今彼は己の正義に燃えている。


 閑話休題。


 ふぅ、と溜め息を吐いた憂い顔のコージャイサンに、女性たちは色めき立った。


「話なら聞いている! お前が誤魔化すから俺が一々説明をする羽目になっているんだ!」


「何処が聞いていると言うのですか。その女性の事は知らないし、そもそも人違いだと言っているでしょう」


「お前いい加減にしろよ! 今更誤魔化したってアンジーはお前を選ばないぞ!」


「わーい、やったー、らくせんだー。はい、ではこれで用は済みましたね。失礼します」


 もうまともに相手にするのも疲れたのか。コージャイサンは無理矢理にでも終わらせて立ち去ろうとした。


 そんな二人の遣り取りに「ぷっ!」と誰かが吹き出した。それが呼び水となり、あちこちからクスクスと笑う声が漏れ出した。


「お前ふざけているのか! 見ろ! お前が変な事を言うから笑われているじゃないか!」


「……何でこちらのせいなんですか。変なのは貴方ですよ。もういっそどこまで人の話を聞かずに居られるのか、逆に気になります」


「ちゃんと聞いているし、その度に説明しているだろう! 誤魔化したところで逃げられんぞ! 大人しく認めろ!」


 マイクは声を腹の底から出して怒鳴る。

 だが、コージャイサンはその程度で怯むような男ではない。淡々と、しかし確かな威圧感を言葉と同時に放った。


「誤魔化すも何もその解釈がおかしい。思い込みでは無く、きちんと確認してから出直しなさい。貴方の言う男は俺じゃない。そして、人にものを尋ねるならまず名乗りなさい。話はそれからです」


 この馬鹿が、と言う言葉が続きそうで続かなかった。が、顔には有り有りと書いてある。口に出すのは我慢はしたが、顔までは我慢する気は無かったらしい。


 そんな美形の威圧感と蔑む視線、さらには隠された言葉が一部の方にはご褒美だったようだ。トキメキの矢が刺さり、顔が赤くなった男女がちらほらと。

 それはさておき、正面で受け止めたマイクの顔も見る見る赤くなる。だが、その赤さはトキメキではなく怒りだ。


「っ! この野郎ぉぉぉ‼︎」


 隠された言葉に気付いたのか、それとも単純に言われた事に腹を立てたのか。

 どちらにせよ、一気に頭に血が上ったのだろう。言うと同時にマイクの拳が振り上げられた。

 周りで見ていた女性たちは悲鳴をあげ、男性たちも止めに入ろうとしたその時。


「やめて!」


 一人の女性が飛び込んで来た。コージャイサンを背に庇い、腕を広げてマイクに向かい声を上げている。


「お願い! もうやめて!」


「アンジー! そこを退くんだ! そのスカした男! 一発殴ってやらねば気がすまん!」


 どうやらこの女性がマイクの言うアンジー、つまり雑貨屋のアンジェリーナのようだ。

 飛び込んで来たアンジェリーナに反応して拳を止めたマイクだが、その眼光は鋭くアンジェリーナに退くように訴えている。

 そんなマイクに怯えながらも、アンジェリーナは首を振って言い募る。


「マイク、ダメよ。本当にもうやめて。だって違うのよ。この方が言う通り本当に人違いだもの」


「は⁉︎ なんだって⁉︎」


 驚きの声を上げるマイクと様子を見に集まっている群衆。コージャイサンが人違いだと言っていた事を、本当にただ誤魔化すために言っていると思っていたのだろうか。

 驚く面々を他所にアンジェリーナは続ける。


「だから、私が言っていた貴族様は別の人よ。この方は本当に違うの」


「だが、アンジー。貴族で美形の男に言い寄られていると言っただろう?」


「言い寄られてるだなんて……。ただちょっと私の話に耳を傾けてくれないだけで。それに、こんなに……」


 そう言ってちらっと肩越しに上目遣いでコージャイサンを見たあと、頬を赤く染めた。


「こんなに素敵な方がお店に来ていたら、私……」


 顔を赤らめるアンジェリーナの言葉に、ウンウンと頷く女性たち。こっそりと「自分は何処其処で見たことがある」「あそこのカフェに居る姿はまるで絵画だった」などと話している。成る程、美形とは意図せず記憶に残るものなのか。


「ねぇ、マイク。手紙が来た事を相談したせいで、心配を掛けてしまってごめんなさい。でも、その手紙は大丈夫だから。ね?」


 呆気にとられ大人しくなったマイクの手を握りながら言葉を紡ぐアンジェリーナ。笑顔を見せて安心を促せばマイクも愛好を崩した。


「それに、私なんかを貴族様が本気で相手にするわけ無いわ。だからお願い。私の為に争いを起こすような事はしないで」


「アンジー。……なんて、なんて健気で優しいんだ! 君ほど素晴らしい女性は居ない! だから、自信を持つんだ!」


 闘牛のように突っ込もうとしていたマイクを上手く宥めすかしたアンジェリーナ。どうやらアンジェリーナの言葉は素直に聞き入れるようだ。

 そのお陰かマイクは最早コージャイサンなど眼中にない。全身全霊をかけアンジェリーナを慰め、元気付けようと言葉を送る。


「マイク、ありがとう。……あの、」


「酷いな、アンジー。僕の本気が伝わっていないだなんて。君は本当に罪作りな女性だね」


 アンジェリーナがマイクに礼を言い、コージャイサンに話しかけようとした瞬間。この場にまた新たな乱入者が現れた。

ネーミング遺跡に行って発掘・調査してきたのでキャラの名前、少しはマシになっているかと思います!……思いたい

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