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お仕事中の竜宮さん

 竜宮刀士郎(旧姓・黒桐)は私の旦那様だ。


 子供の頃から剣士として有名で、今は実家の道場で師範代の仕事をして私を養ってくれている。


「あぁ? 違ぇよ。ここの振り方は、こうだ。おまえのは、こう。な? 振り始めで力みすぎているんだ。落ち着いてゆっくりやってみな」


「はい!」


 刀士郎さんが主に教えるのは地元の子供たちだ。


 しゃべり方は乱暴だけど、教え方がとにかく丁寧でわかりやすいと評判らしい。


「刀士郎くん、いつ見てもかっこいいわねぇ」


「ホントホント。私もあと20年若かったらアタックしてたわ」


 あと、顔がかっこいいので近所の奥様方からも注目されている。


 今のは現に刀士郎さんを見にきた二人の主婦の会話だ。


 刀士郎さんのおかげで道場はかなり繁盛しているのだとか。


「そうそう! いい感じだ! しっかり体に染み込ませておくんだぞ。ん? ああ、わかった。今そっち行くわ」


「…………」


 刀士郎さんは私のだ。


 彼がどんなに人気者になってもそれだけは譲れない。


 邪魔するやつは……、誰が相手でも消す。


 なーんて思っちゃうのは、私がまだまだ若くて未熟だからなんだろうな。


 しょうがないよね、好きなんだし。


 ううん、愛しているんだし。


「なーに難しい顔してんのよっ」


「うひゃ!」


 不意に背中を叩かれて前のめりになる。


 振り返ると、肩に竹刀を担いだ、タンクトップに短パンというヤンチャ坊主みたいな格好をした髪の短い女性が立っていた。


「もう、鞘華さん、びっくりさせないでくださいよ」


「あはは、ごめんごめん。隙だらけだったから、つい、ね」


 彼女は黒桐鞘華さん。


 刀士郎さんの従姉妹にあたる人だ。


 性格は全然違うはずだけど、どこか雰囲気が似ている。


「アイツとの新婚生活はどう?」


 鞘華さんはそう尋ねながら私の隣にあぐらをかいた。


 私ははにかんで、


「すごく良くしてもらってますよ。これ以上ないってくらい幸せです」


「ふーん。子供はいつ作んの?」


「こっ……! ま、まだその予定は……」


 私は込み上げる熱を感じながらうつむく。


「照れなくてもいいじゃない。夫婦なんだから子作りするくらい当たり前でしょ」


「それはそうですけど、白昼堂々と話せるようなことじゃありませんっ」


「つまり人に話せないほど夜の営みが激しいのね?」


「〜〜〜〜っ!!」


「おー、真っ赤っかねぇ」


 鞘華さんはニヤニヤしながら口元に手をやった。


 この人のデリカシーのなさはちょっと苦手だ。


「鞘華ァ! テメェ、ユイにちょっかいかけてんじゃねえぞォ!」


「うわっ、セコムがきた」


 そんな会話をしていると、刀士郎さんがやってきて、私と鞘華さんのあいだに割り入った。


 背中、広いなぁ。


 いつもこの背中に守られてきたっけ。


 ……だめ、ドキドキしちゃう。

 

 まだ昼間だってば、私!


「そんなに怒りなさんなって、刀士郎ちゃん。ちょっと女同士でおしゃべりしてただけじゃない」


「ちゃん付けはやめろ。俺にはテメェが一方的にセクハラしてたように聞こえたが?」


「うわっ、盗み聞きとかないわー。変態だわー」


「テメェに言われたかねえよ!!」


 あう、刀士郎さんのおっきな声がビリビリくる……!


 いま耳元でささやかれたら絶対ヤバい……!


「ったく、遊んでねえで少しは働けっつーの」


 刀士郎さんは深くため息をついた。


「だってわたし人に物を教えるタイプじゃないしー」


 両手を頭の後ろにやり、唇を尖らせる鞘華さん。


 とても年上とは思えない駄々っ子のような仕草だ。


「あ、でも斬り合うことならできるわよ! なんなら今から全員相手してあげよっか?」


「たわけ! ガキどもに怪我させる気か!」


 子供たちのことをいちばんに考えてあげる刀士郎さん優しい好き!


 ま、本当のいちばんは私なんですけどね!


「ところで刀士郎、さっきからユイが後ろでハァハァしてるけど、大丈夫なの?」


「何!? どうしたユイ!?」


 私は刀士郎に両肩を揺さぶられる。


 私のこととなると冷静でいられなくなっちゃう刀士郎さん可愛い好き!!


 弱ったふりをすればもっと心配してもらえるかな……?


 ううん、だめ、だめよユイ。


 刀士郎さんは今お仕事中なんだもの、邪魔しちゃいけないわ!


「なんともありませんよ。心配してくれてありがとうございます」


 騙すようで心苦しいけれど、私は極力平静を装って答えた。


 刀士郎さんは「それならいいが……」と私から手を離す。


 名残惜しい。


 帰ったらもっとたくさん触ってもらおう。


「せんせー、イチャイチャしてないで稽古つけてよー」


 子供たちの代表が声をあげた。


 刀士郎さんはしかめっ面になるが、この表情は照れ隠しだ、耳が赤くなっている。


「ばっ、イチャイチャなんてしてねえし! おら素振りに戻れ! お望み通りみっちり稽古つけてやる!」


「わー!」「きゃー!」


 楽しそうに素振りを再開する子供たち。


 みんな刀士郎さんに見てもらいたくて一生懸命だ。


 私たちに子供ができたら毎日がこんな感じに賑やかになるのだろうか。


 ……うーん、子供がほしいのか、単に孕まされたいのか、よくわからないや。


 この件は保留ということにしておこう。


「ユイ、具合が悪くなったらすぐ言えよ。無理したら承知しねえからな」


 私は刀士郎さんのぶっきらぼうな優しいに思いきり笑顔を返した。


「はい!」

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