新妻の竜宮さん
「結婚すっか」
「へ?」
私こと竜宮ユイは、
「俺の妻になってくれ」
高校卒業と同時に求婚されました。
*****
制服の代わりにエプロンを着るようになってから早1ヶ月。
季節は夏が始まる頃。
春の卒業式からつい先日まで本当に慌ただしかった。
でも、実のところ私はほとんど何もしていない。
結婚式の段取りや新居探しなんかはすべて向こうがやってくれた。
私はウェディングドレスを着て、みんなの前で彼と誓いのキスを交わしただけだ。
ちょっぴり申し訳ないので、せめて家の仕事くらいはがんばらないと!
夕方、そろそろ彼が帰ってくる。
私は夕食作りをひとまず中断し、玄関に行ってお出迎えの準備をする。
といっても、帰ってきた彼に「おかえりなさい」というだけなんだけど。
「ただいまー」
いつもの時間通りに私の旦那様が帰ってきた。
切れ長の鋭い目つきと鍛え抜かれた大きな体は間違えようがない。
学生時代からずっと見てきた姿だ。
「おかえりなさい、先輩!」
ガクッと彼がよろけた。
「おまえな……、もう先輩じゃないんだから名前で呼んでくれよ」
「えっ。じ、じゃあ、黒桐さん?」
「今は竜宮だろーが。なんだ、俺の名前を呼ぶのが嫌なのか」
彼はわざとらしく肩を落とす。
演技だとわかっているけど、私はあたふたしてしまう。
「いや、なんかその、こう、あらためまって名前呼びするのが恥ずかしいというか、照れちゃって、あなたのことは大好きなんですけど、ね?」
「…………」
あ。
抱かれる。
「ユイ」
私は彼の胸元に顔をうずめることになった。
ほんのりと汗の匂いがして、男の人特有の力強さと体の硬さにドキドキする。
こんな人に迫られたら逆らうことなんて絶対にできない。
……最初から逆らう気なんてないけど。
「ただいま、ユイ」
「はい、おかえりなさい、刀士郎さん」
私たちは軽い口づけをした。