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 夕飯時、エイラはミカの横に座らされ、色々と質問攻めに合う羽目になった。

 食べ物は何が好きかから始まり、好きな本や雑貨、学校を卒業したら何をするのかなど、多岐にわたり、ノルズが苦笑しながら止めに入るまで、ノンストップだったのだ。


「ミカ。いい加減に質問攻めにするのはやめなさい。エイラが困ってるだろう」

「だって。エイラと仲良しになりたいんだもの。いいじゃない。ねぇエイラ?」


 上目がちにうるうるとした瞳で見上げられると、いやだと言えなくなってしまう。

 この人、妹タイプなのかな、と思う。


「タイト。明後日の夏至祭りは仕事休みだろう? 俺の酒に付き合え」

「えぇー、お前ザルだから次の日がつれぇんだよなー」

「俺持ちでいいからさ。美味しい酒がある店に連れてけよ」


 ノルズは昼間、礼儀正しい紳士のような振る舞いをしていたけれど、この家の中では口調もざっくばらんになっていた。

 不思議なのは、タイトおじさんと対等に話をしているところだった。

 ノルズの外見はせいぜい二十代半ばといったあたりで、タイトはもうすぐ40歳に近いくらいなのだ。


 一方、プルムとミカの間柄もどことなくおかしい。

 ミカはエイラとほぼ同じぐらいの年齢なのに、プルムに敬意を払うどころか同じ年の友達のように振る舞っている。


 プルムおばさんは旧友と言ってたけれど。

 旧友というからには古い付き合いという意味で、さすがに子供と友情をはぐくんでいたとは考えにくい。


 どんな関係なのかはエイラにはよく分からなかったけど、隣に座っているフレイもいつになく機嫌が良くて、何かあるたびに耳元で小さく囁いて来たり、肩と肩が触れ合ったりしてドキドキしたりもしていた。ま、楽しければいいか、と深く考えるのを止めたのだ。



「そろそろ、帰らないと」


 タイトおじさんはお酒が回っていて、へべれけになっていた。

 ノルズはまだまだけろりとしていて、手をひらひらと振ってくれた。ザルなのは本当だったんだ…と内心苦笑する。

 ソファですぅすぅ寝息を立てているミカを起こさないよう、プルムが玄関先まで一緒にやって来た。


「エイラ。今日は来てくれてありがとう。みんなに会わせることが出来てほんと良かった」


 プルムおばさんもお酒が入っているからか、少し目が潤んで涙ぐんでいた。


「やだな、おばさん。大げさだよ。また近いうちに来るから」

「じゃあ、僕、エイラを家まで送ってくるから」


 フレイは玄関先に活けてある花瓶から一輪の赤いガーベラを取り出し、エイラの髪にそっと差した。


「じゃ、行こうか」


 フレイに手を差し出されて、月夜の明るい夜道を自然に手をつなぐ形で歩き出す。

 なんだか恋人同士のように思えて、エイラは嬉しい気持ち半分、フレイの行動が見えなくて不安な気持ち半分のままだった。

 肝心のフレイは気分良く口笛なんて吹いて、ご機嫌だったりするし。


 特に会話らしい会話もせずに歩いていき、あの日の大木の前を通りかかった時、フレイが口を開いた。


「ちょっと、ここで話をしていかない?」


 エイラも軽く頷き、ゆっくりと大木へと近づいて行き、腰を下ろした。

 フレイはすぐには腰を下ろさずしばらく無言で川を眺めていたけれど、大木の方へ戻ってきてエイラの横に腰かけた。


「今日はウチに来てくれてありがとう」

「ううん、こちらこそご馳走になっちゃって。今度お礼に何か持っていくね」

「いいよ、そんなの。僕はあの二人に会ってもらえただけで十分嬉しかったから」


 フレイはエイラの手を取り、柔らかい笑みを浮かべた。


「エイラは小さい頃からいつも僕をかばってくれてて、正義感の強い女の子だったよね」

「…いじめっ子たちのいじめる内容がひどかったから許せなかっただけよ」

「僕に両親がいないってこと、からかわないでくれたのはエイラだけだった」

「フレイのせいじゃないもの。からかうことでもないし」

「…うん。エイラだからそう言うと思った。だから言うね」


 何を言おうとしているんだろう、とエイラが顔を上げると、ひどく緊張した面持ちのフレイが目の前にいた。


「あの二人、僕の本当の両親なんだ」

「……ええと。フレイのご両親は王都の魔術師か何かなの? 全然年取ってないじゃない。ミカさんなんて私たちと同じぐらいに見える」

「…うん。まあ、そんな感じ」


 王都の魔術師なら、外見が若いままというのも頷ける。体の中にあふれる魔力が寿命を延ばしているのだと聞いたことがあるからだ。


「両親の話はまあ、置いといて」


 ふい、と顔をそらしてフレイは話をなかなか切り出せないようだった。


「……?」

「僕がヤーニスに選ばれたのは言ったよね」

「…うん」

「僕は、エイラに花束を渡すよ」


 フレイは顔を赤くしながらそう告げたが、しばらく、意味がよく理解できなかった。


「…お目当ての女性に振られちゃったから、とりあえずヤーニスの役目を果たすために私に花束を…?」


 エイラがそう言うと、フレイは片手を額に当てて目を瞑って唸り声をあげた。


「……ガーベラが好きだって言うから、僕の気持ちに気づいてもらえるよう赤のガーベラを選んだのに」


 さっき、髪に差してもらったガーベラはまさしく赤だった。


「え、だ、だって。今年も一緒に行くでしょって誘った時、今年は好きな子を誘うからって断ったのフレイだよ?」

「それは…っ! いつも通りに幼馴染として一緒に参加したくない意思表示だったっていうか…」

「~~~~わかりづらいよっ!」

「…ごめん。ほんとは明日言おうと思ってたんだけど、誰かに月桂樹の冠を作ってほしいと言われたら困ると思って」


 しゅんとした顔のフレイを見て、エイラはふふっと小さく笑った。


「フレイ以外の人の冠なんて作ろうなんて思わないよ」

「…ほんとに?」

「うん」


 フレイの顔が急に近づいたかと思うと、次の瞬間には軽くくちづけされていた。


「エイラ、ずっと前から好きなんだ」


 力強く抱きしめられ、エイラも小さく私も…と呟き、フレイの首に腕を回して抱き付いた。


 しばらくそのまま両想いになった余韻に浸っていた二人だったけれど、ふと、エイラが口を開いた。


「…去年の夏至祭りの帰り。なんで急に不機嫌になったの?」

「えー、今、ここでその話題を持ち出す?」

「同じ場所だもん。嫌でも思い出しちゃうよ」

「あの時は、エイラ、自分を持ってなかったから」


 フレイの言いたいことはすぐにわかった。

 一年前のエイラは将来の目標も持たず、フレイが白と言えば黒でも白と言ってしまいがちな少女だったのだ。


「一年前と同じ質問をしたら、君はどう答える?」

「私は王都に行く、けど」

「…けど?」

「フレイと一緒だったらフィニースマルを探す旅に出るのも楽しそうと思ってる。フレイは卒業したらこの街を出るの?」


 その問いには、フレイは笑みを浮かべただけだった。

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