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死亡宣告一日目

 

「・・・そんなこと言わずに話を聞いてくださいよ。斉川光一さん。貴方は3日後に死ぬ事が確定しています。バスに撥ねられて」

 

 金縛りも解けてきた。とりあえずこの不審者を何とかしないと。


「わかったから、とりあえず枕元からどけろよ。ソファあるんだからそっち座って」


「あ、ありがとうございます、優しいんですね」


 変な女がソファに座ったことを確認して俺もベッドから起き上がる。


「で、あんた、どうやって入ってきたの?」


「普通に玄関から入ってきましたよ」


「鍵、閉めたはずだけど・・・」


「鍵を開けるくらい簡単ですよ、死神なんですから」


 当たり前のように話す女。

やばい、頭おかしい。脳みそ足りないくせにピッキング出来るのかよ。鍵交換して、追加して、、

 とりあえずさっさと帰ってもらわないと。


「信じてないでしょう」


「・・・いやいやそんなことないよ、死神でしょ?わかるわかる」


「絶対信じてないですね、いいですよなら証拠をお見せしますんで、よく見ててください」


 そういうと自称死神は、手のひらを差し出した。

手のひらを向けた先にはマグカップ。

 何をしでかすのかと、思ったその時。そのマグカップが浮いたのである。マグカップは空中をクルクルと2回転ほどして机の上に戻った。


「・・・ふぅ、信じてもらえましたか?」


「・・・すっげぇ!!!なにそれ手品!?もしかしてエスパーってやつ!?」


「だから、死神だって言ってるじゃないですか・・・もういいですよ信じてもらえないのは慣れっこですから」


「わかったわかった、信じるかどうかは置いといてとりあえず話くらいは聞いてやるよ。コーヒーでいいよな?」


 そういって俺は立ち上がってキッチンに向かい、コーヒーサイフォンを手に自称死神の元へ戻る。

 とりあえずは面白いものも見せてもらったし、変な奴だけどあまり危険な感じはしない、ストーカーってこともなければ、危害を加えてくる感じもしない。いざとなればこちらは男だ、あんな華奢な女性をねじ伏せることも容易いだろう。

そもそもこんな美人になら、ストーカーされても悪い気もしない。


「いいんですか?コーヒーなんて、死神の私にそんな優しくしてくれるなんて」

まだ死神だなんて言ってるのか、こいつ。

「面白いもの見せてもらったしな」


 そう言って俺はサイフォンのセットを始める。

 「へぇ、本格的ですね」

 サイフォンの中をお湯が上がっていくのを目を白黒させながら見ている。

 「いいだろ、これ。はまってんだよ。ずっと飲んでるから一度に淹れれて便利だしな。砂糖は?」


「全力でお願いします」


「・・全力ね、了解」


 砂糖をしこたま入れたコーヒーを差し出してやる。


「苦い」


まだ苦いらしく、自称死神は、溶けきれないほどの砂糖を入れ、一口、口に含んだ。


「うぇ・・病気になるぞ」


「なりませんよ、死神ですから」


「・・・・そういう話だったな、で、死神さん、俺が死ぬってどういうこと?」


「では、話させてもらいます。斉川光一さん、あなたは、3日後、午後4時にバスに轢かれて死ぬ事になりました」


「・・・なんで?」


「なんで、ときましたか。では、もう少し詳しく話をさせてもらいます。私の名前はアマーリア=ラウラ。ラウラとお呼びください」


 彼女、ラウラは、砂糖の溶けきっていないコーヒーをゴリゴリとかき混ぜながら話を続ける


「私達死神は、ある規定に基づいて、将来的に間違いなく大きな事件を起こす人を事件が起きる前に殺すことが仕事です。貴方は、20歳を過ぎたころ大量殺人者になることが決定していますので、貴方の前に現れました。」


「はぁ。大量殺人ねぇ。そんなことするつもりもないし、俺がなるとは思えないんだけど。だいたい、それが本当なら犯罪者は事件を起こす前に死んでこの世は平和そのもののはずだろ?なんでこの世界には犯罪が起こってるんだよ」


「するんですよ、貴方は。これはもう決定事項なんです。それに私達ができることは貴方の様に事前に犯罪を起こすことが分かっている場合です。この世に起こっている大きな事件は、突発的な犯行か、何らかの理由で私達が確定的ではないと判断してしまった人たちです」


「使えねぇな、あんたら」


「何言ってるんですか。ひどい事を言いますね、私達が仕事をしなければ犯罪者が数多く残り、地獄絵図ですよ」


「そもそも俺が死ぬのは事故死なんだろ?だったらわざわざ宣告しに来なくたって死ぬのを待ってればいいじゃないか」


「そうなんですけどね、いくら何でも犯罪をすでに犯した方ならともかく、まだ貴方は何もしていません。そういう方へのお詫び、とは少し違いますが最後の三日ほどは倫理的にセーフな所まで願いをかなえて残りの人生を楽しんでいただこうというわけです。何か思い残すことはありませんか?」


「なるほど。思い残すことね、いきなり言われてもすぐには思いつかねぇけどな」


「たとえば、そうですねえ、片思いしている相手とかいませんか?その方に好きになってもらうとか」


「・・・いない事はない・・けど、あんたの力でそんなこと叶えたって虚しいだけだし残された相手がかわいそうなだけじゃねえか」


「けっこうまともな事を言いますね。未来の大量殺人者のくせに」


「失礼なやつだな、だから俺は殺人者になるって言われても信じられねぇんだよ」


「ゆっくり決めていただいても結構ですよ。私達が与えているのは権利であって義務ではありません。中には最後までいつもの生活を、なんて悟ったような事を言った人もいましたから。その人、お坊さんでしたけど」


「そんな悟った坊さんでも犯罪者予備軍だったわけだ、俺が実感わかないのも無理のない話かね」


「なんだか楽観的ですねぇ」


「まだあんたのこと死神って信じてないしな」


「これだけ話してもまだ信じてなかったんですね・・・どういったものを見せれば信じていただけるんですか」


「そうだな、ならベタに死神の鎌とか見せてくれたら信じてやってもいいぞ?」


「わかりました、鎌ですね」


そういってラウラは立ち上がり、右手を身体の前に差し出した。

手のひらに黒い渦が起き始めたかと思うと、彼女の身の丈以上の大きな鎌が現れた。


「マジで?」


「だからマジですってば。私達死神の宣告を聞いて自暴自棄に陥り、どうせなら自分が死ぬ前に人を殺してやるって人も少なからずいるんですよ。もともと将来的に犯罪を犯す人ですからね、犯罪者の素質があるってことです。そんな人が人を殺す前に予定を繰り上げて問答無用で殺せるのがこの鎌ってわけです」


「その場合の死因は?」


「心臓発作ですね」


 そりゃまたベタだな。


「わかった、もう信じたからその鎌をしまってくれ、まだ3日あるんだ、もう少し生きていたい」


 言い終わるころには大きな鎌はもうそこには無かった。


「信じていただけて良かったです。では、この3日間は貴方と常に行動させてもらいますので、願いが決まったらいつでもおっしゃってください」


「いつでも一緒にって目立つだろ、あんた」


見た目は人間でもかなりの美人だ、金髪で目は紅いし。こんな人を連れて歩くだなんて目立って仕方がない。


「姿を周りに見せなくする事くらいできますよ、死神ですし」


「そりゃ便利な事で」


 ちらりと時計を見る。長々と話しているうちにもう午前8時になっていた。


「完璧に遅刻じゃねぇか・・・・」


「学校、行くんですか?もう死ぬのに?卒業できませんよ?」


「うるせえよ、デリカシーのないやつだな」


 なんだかわからないが、自分が死ぬという事に不思議と納得してしまっていた。

あれだけ目の前で非現実的な物を見せられたから当然とも言えるかもしれないけれど。



最後の願いとやらはとりあえずはいつもの日々を送りながらゆっくり考えよう。


 いつもの通学路、いつもの街並み。これを見るのも3日後の午後4時までだと思うと感慨深いものがある。

 しかし、ラウラが他の人には見えないってのは本当のようだ、誰も黒いローブを身に纏った怪しい女には目もくれていないようだった。


 「あ!光一さん!ここですよ!この横断歩道が貴方の死ぬ場所です!」


「無駄に嬉しそうだなお前、そんなに俺が死ぬのが楽しみなのかよ」

 

「そういうわけではありませんけど、光一さんの一件が終われば私は3連休なので」


「3連休ってお前、死神も会社みたいなのに勤めてるってことか?」


「そうですよ、24時間勤務の3連勤、その後は3連休です給料もよくて福利厚生ばっちり!死神になれるのはエリートの証なんです!」

 

誇らしげに胸を張るラウラ。ローブのせいで分からなかったけど結構胸デカいんだな、コイツ。


「といってもまだまだ1年目でミスばっかりなんですけどね」


 打って変わって気を落としたようなラウラ。


「なんだまだ1年目か、まぁまだあんたは時間があるんだ。気長に頑張ればいいさ」


 ラウラの頭を撫でる。

不思議そうな目をしたラウラが俺を見る。

 気付かないふりをして俺は前に向き直した。






 あんたにはまだ時間があるんだ。






━━━━━━━━━俺とは違って。



 

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