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異世界



「なぁ、ラウラ。一つ聞いてもいいか?」


「はい。なんでしょう」


「これが世間一般で言うところの異世界ってやつか?」


「まぁ、光一さんが住んでいたのは人間界ですから、霊界、天界は異世界と言えるんじゃないでしょうか」



「違う。そうじゃないんだよラウラ。俺が言いたいのはそんなスケールのデカい話じゃなくて・・・」


「何を意味不明な事を言ってるんですか、異世界と言えばスケールは大きいと相場は決まってるでしょう」


「いや違う。そうじゃない。わからないフリしてんじゃねーよ、なんだこの部屋は、って言ってんだよ、俺は」


「光一さんこそ何言ってるんですか!それが女の子の部屋に入った感想とは到底思えませんよ!」


「どこが女の子の部屋だ!こんなもんデカい三角コーナーじゃねぇか!!」




俺は今、ラウラの自宅へ来ていた。

天界にある街の中、少し歩いた所に建つマンションの一室。


玄関に入った所から異変は感じていた。

靴は脱ぎ散らかし、廊下にはゴミ袋。片方しかない靴下。

部屋に入るとそこは夢の国だった。



いや、夢であって欲しかった。



「三角コーナーとは失礼な!光一さんには私が生ゴミにでも見えるんですか!」


「うっせぇよ!なんだこの臭いは!」


「女の子の部屋が臭い訳ないじゃないですか!訂正してください!」



「訂正してーよ俺だって!もういいから換気するぞ!」



ゴミに脚を取られながら窓まで進む。

それだけで一苦労。


窓を開けると、少し冷たい澄んだ空気が頬を撫でた。




あぁ。空気、すっごい美味い。






窓サッシのレールから虫の死骸が飛ぶのを横目に、大きく深呼吸をする。





「今から掃除をします」




「・・・・・・うぇー。今日もう疲れたんで明日にしませんか?」


「黙れ。どこで寝るんだよ、このままじゃ明日は来ねぇよ」



「来ますよ、明日は。よかったですね、光一さんはまだ生きていけるんですよ」

「もうむし返すつもりはなかったが、死んだのはお前のせいだ。そんな事は今はいいんだよ、いいから片付けるぞ。ゴミ袋だせ」



今日はもう疲れたのに、とかブツブツ呟きながらでもラウラもその気になったようで、ようやく掃除を開始する。


ゴミを片っ端から袋に詰め、衣類を掻き集め、食器類はキッチンへ避難させる。


1時間ほど経つと、ようやく床が見えてきた。


「しかし今日は忙しい日ですね、忘れてませんか?今日は私本当は休みなんですよ?」


「休みの日に部屋を掃除するのは普通の事だ、黙って手を動かせ」



掃除機をかけながらラウラに問う。

「ラウラ、人の願い叶えたり出来るんなら、この部屋も、そういう不思議パワーみたいなもんで片付けられねぇのか?」


「不思議パワーって。というか私は死神ですよ?ランプの精じゃあるまいし。それに天界ではそんな事できません。こっちにいる時は普通の人と変わりませんよ」


「そんなもんか。まぁこの部屋見た時から分かってはいたけどさ」



それから3時間ほど掃除を続け、ようやく腰を下ろす。

「しかし、こんなに広い部屋だったとはな」


15畳ほどもありそうなワンルーム。

対面式のキッチンすらある洒落た部屋をどうやったら以前のゴミ屋敷に出来たのか不思議でならない。


「いやー、すごいですね、引っ越して来た頃を思い出しますよ!」

気持ち良さそうに伸びをして漸く笑顔を見せた。


しかし良い部屋だ。言っていた通り高給取りなのだろう。


「お疲れさん。今度からは小まめに掃除しろよな」


「はい、気をつけます。・・・けど、光一さん。さっき私の下着見つけて、ジッと見てましたよね?そんな変態さんだなんて思わなかったですよ、私だって恥ずかしいんですから・・・その・・・気をつけて下さいね?」



・・・あぁ。確かに見つけたさ。

思った以上に大きなサイズのブラジャー何着かを。


でも正直何とも思えなかった。

正体不明の緑色の汁が付いたブラジャーで興奮する事なんていかに健全な男子高校生と言えどできなかった。


何を勘違いしているのかラウラはモジモジしながら俺をチラチラと見ている。



本当に疲れるなコイツ。



面倒くせぇ。





日も暮れ始め、腹が減ってきていた。


あれ?


「なぁ、ラウラ。腹減ったんだけど」


「何言ってるんですか、料理するのは光一さんの仕事でしょ?」


いつからお前の家政婦になったんだよ俺は。

「じゃなくて、死んでからは腹も減らないし、喉も乾かなかったのに、急に空腹なんだよ。何でだ?」



「さぁ、何ででしょう。ただの霊体じゃないからでしょうか。もう光一さんの身体を作り始めてるのかもしれませんね」


「そういう事か。なら仕方ない、飯にするか」


パシッと膝を叩いて立ち上がる。

仕方ないと口では言いながらも、部屋にあったゴミを見る限りは、ろくな食事をしていなかったであろうラウラに、何か作ってやりたかった。


「何が食いたい?」


「ハンバーグが食べたいです!」


「本当に子供みたいな奴だな、お前は」


やったー!!と小躍りしているラウラを横目に冷蔵庫を開ける。








まだまだ掃除は終わらないようだった。









罠のような冷蔵庫の掃除を終え、スーパーにて買い物を始める。


天界だからと言って人間界とそう変わらないもんだ。



「なぁ、ラウラ?」

機嫌が良さそうに前を歩いていたラウラが振り返る。

「なんでしょう光一さん!」


「ナタリアさんもそうだったけどさ、みんなすごい髪の色してるよな?こう・・・スネ毛とかもあんな色なのか?」


「・・・スネ毛?あぁ、あれは染めてるだけですよ?流行りです、流行り」


「流行り?じゃぁラウラの金髪も?」


「いいえ、これは地毛です。目の色はともかく、髪の色なんかは人間と変わりませんよ。黒、茶、金・・・あと白髪くらいですね、本当は」


「へぇ、こんな皆して流行るもんなのか」

見た限り、老若男女問わずだ。

「そりゃ長生きですから。飽きるんですよ、髪の色でさえ」


「ラウラもか?」


「私だって本当は染めたいんですけどね?ナチュラルにしようとしたら睫毛まで染めないと変になっちゃうんですよ。でも私は睫毛染める時なんて、激痛で、耐えれませんでした」


睫毛か、それは想像するだけで痛そうだ。


「でも、ま、そのままでいいんじゃないか?よく似合ってるよ」


「え!光一さんに褒められた!・・・ふふふ、今日は気分がいいからハンバーグは私の奢りです!」



「はいはい、ありがとうございます」





つーか、そもそもこっちの通貨もってねぇけどな。











バタバタと、くだらない事を言い合いながら食事を終え、風呂に入ると、今日は早々に床に着く事となった。


どうやら本当に疲れていたようだ。

5分も経たず寝息を立て始めたラウラの顔を眺める。









ホント、こいつ、黙ってればなぁ。


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