処罰
ラウラと二人になった。
額を机に着けたまま項垂れるラウラはとても小さく見えた。
が。同情する気には少しもなれなかった。
「お前、クビかもな」
ビクッと身体を硬直させたラウラはポツリと声を洩らす。
「やっぱり、そう思いますか?」
「そりゃ、わかんねぇけど、あり得るんじゃねぇのか?二回目なんだろ?」
「そうですけど・・・」
「一回目の人はどうなったんだ?」
「・・・・・黙ったまま天国へ行ってもらいました」
酷い話だ。
「無茶苦茶だな」
俺が将来成功する事になっていなかったら、そのまま死んでた訳で、、
なんとも、ぞっとしない話だ。
ラウラは額を机にぐりぐりと擦り付けながら唸る。
「だってぇ。この仕事に就くまでにどれだけ頑張ったと思ってるんですかぁ。ボーナスももう少しで出る予定だったのに・・・」
知らねぇよ。
「で、ナタリアさんが言ってた社長ってのはお前の直属の上司になるのか?」
「いいえ、神様ですから、入社式で一度見たくらいです」
神が社長て。入社式て。
なんか夢が壊れるというか。
そもそも無宗教だけどさ。
神ねえ。どんな見た目をしているのか少し興味が湧くな。
やっぱりヤハウェなんだろうか。
「・・・次は何の仕事しようかな、お花屋さんとかいいかも。ケーキ屋さんとか、うふふふふふ」
「帰ってこいよ。まだわかんねぇだろ。つーか不安なのはこっちだっつーの」
と、少し不満を洩らした所でナタリアさんが戻ったようだった。
「お待たせしてすみません。今後の方針が決まりましたよ」
ラウラはがばっと頭を起こして問う。
擦り付けた額は真っ赤になっていた。
「どうなりましたか!?なんとかなりましたか!?」
こいつ絶対に自分の事しか心配してないんだろうな。
と思いながらも、こちらも気になっている事には変わりない。黙ってナタリアさんに視線を向ける。
「まず、斎川さんは、生き返って頂きます」
「できるんですか?そんな事」
「えぇ、神の御加護によって」
何でもありだ。生き返ったら、宗教に入ってもいいかもしれない。
「ただ・・・」
「・・・ただ?」
「今、人間界ではもう斎川さんの死は確定していまして、それを覆る事は出来ません」
「と、言いますと?」
「生き返る事は出来るんですけれど、貴方の本来の身体はもう機能を停止しています。その身体に戻っても、もう一度死ぬだけです」
斎川光一は二度死ぬってか。
笑えねぇよ。
「だと、どうすれば?」
「身体はこちらで用意します。が、そうなると、人間界に貴方の身体が二つある事になるんです。それは辻褄が合わない。そういった現象一つ一つを誤魔化さなければいけません」
「いま、俺の身体はどこに?」
「通夜の真っ最中のようですね」
今、俺の通夜が行われてるのか。なんか、すげぇ嫌な気分になるな。
「だからラウラは今迄通りの死神業は一時休業。斎川さんのフォローの事もそうだけど、本来死ぬ筈だったサイカワコウイチさんの案内、こちらの斎川さんを轢いてしまったバスの運転手さんや、その他影響があった方達のフォローや誤魔化しをしてもらいます」
ラウラの目が一瞬でキラキラしたものに変わっていた。
「じゃぁお咎め無しって事ですか!?」
「そんな訳ないでしょう。その間は減給。今後の働きによって再度処分が下る手筈になっているわ」
「えぇ。めんどくさいなぁ」
・・・ん?ちょっと待てよ。
「ナタリアさん。バスの運転手って事は、轢かれるバスまで間違えたって事になるんですか?」
「いいえ、そうではなくて、本来轢かれる筈だったサイカワコウイチさんの場合ですと、轢いた時にすぐバスを停車できた筈なんですが、貴方を轢いた事によって事故が本来よりも大きくなったようですね」
なるほど、そんな些細な事で物事が変わっているとすれば、かなりのフォローが必要になってくるだろう。
「ラウラ、頑張れよ」
「・・・出来る気がしません」
首の皮一枚繋がった状況に喜んでもいいくらいなのに、こいつときたら・・・
「はぁ。わかったよ、俺も手伝ってやるから」
「本当ですか!?」
「あぁ、乗り掛かった船だ」
今後、小説を書くにもいい経験かもしれない。
そう思う事にしよう。
「いいでしょ?ナタリアさん」
「こちらとしては構いませんが、本当によろしいのですか?結構大変だと思いますけれど・・・・」
「いいですよ、自分の事ですし、こいつだけに任せてたら、また何が起こるか分かったもんじゃ、ありませんからね」
「ふふ、確かにそうかもしれませんね、では、重ね重ね申し訳ありませんが、ラウラの事、宜しくお願いします」
「それで、とりあえず、どうしたらいいんですか?」
「はい。貴方の身体を用意出来るといっても少し時間がかかります。なので、その間待機していただくようになるんですが、あまり、霊界や天界でも事を大きくしたくありません。なので、申し訳ありませんが、ラウラの部屋でしばらく待機していただけたら、と」
「はぁ、なるほど。わかりました。いいよな?ラウラ」
「え・・・えぇ、この後すぐですか?いや、それは、ちょっと。2人分のスペースは無いというか、なんというか・・・」
「ラウラ、貴方に拒否権はありません。本当は今すぐクビのところですよ」
「・・・・・・・はい」
またシュンと小さくなって、ラウラは小さく呟いた。
2人きりで過ごすのも今更、気にする事でも無いだろうに。と、思っていた。
この時までは。




