明かされた真実 4
「なぜお前はカラーをつけてない?」
ウィルは即答した。
「トムがつけてくれなかったからだ」
「違う」
ローレイが険しい顔で言った。
「お前が賢族の者だからだ。つける必要がないんだ」
「……」
「それに、お前はトムさんがどんな人だったか知っているのか?」
「どういうこと?」
「ラゼル王のバディだったんだ」
「バディ?」
「僕達士族は賢族と契約を結んでいる。それは、賢族の重要な人物に対し、政治を司る手助けをするパートナーを送るというもの。そのパートナーがバディだ。基本的には護衛だが、もちろん他の手助けも色々とする」
「第一の家臣というわけだ」
トムが横から言った。
「もちろん」
ローレイは続けた。
「バディに選ばれるのは、優秀な者たち。国王のバディは一番優秀な者が抜擢される。つまり、トムおじさんはとても優秀な剣士で、僕ら家族の誇りなんだ」
ウィルは驚いてトムを見つめた。
そこまですごい剣士だったとは、思わなかった。
「あり得ない」
ウィルは苦笑いしながら言った。
「からかうのもいい加減にしてくれ。カラーをつけてない、それがどうしたというんだ。普通では、異常なことかもしれないが、僕にとっては何の変哲もないことだ」
「どういうことだ?」
「僕は、君のような外の世界の人とは違って、この山奥に長年閉じ込められてきたんだ。だからカラーをつけてないことなんか、何の不思議もない」
その言葉を聞いて、ローレイはにやりとした。
「たった今お前は、自分が賢族の者であることのもっとも有力な証拠を口にしたぜ」
「どうしてお前はここに長年閉じ込められていた?」
ウィルは怯まなかった。
そんな理由は分かりきっている。
「トムが極度の心配性だからだよ!」
今までの不満をぶちまけるように、ウィルは声を張り上げた。
「ウィル、それは違うよ」
トムが即座に否定した。
「私は確かにお前のことをいつも心配していたが、それはお前が、そこらへんの者たちとは違うからだ。お前が普通の者だったら、とっくに山のふもとの町に行くことを許してたさ。何しろこの島はこの国のなかでもっとも治安のいいエシミス島だ。友達を作らせることぐらい何の心配もいらなかっただろう」
「……」
閉じ込められていた理由を聞かされても、まだウィルはトム達の話を信じることができなかった。
あり得ない。
あり得ない。
あり得ない。
絶対ありえない。
「いい加減に認めろよ」
ローレイはうんざりしたように言った。
「お前が俺たちの話を否定するということは、お前の父親、立派な賢帝だったらしいが、その方も、そして士族にとって最高の名誉であるバディの称号を得たトムさんをも否定することになるんだぞ!?」
「う……」
痛いところをつかれた。
父親はともかく、トムのことを出されてはウィルはもう何も言えない。
「ウィル、私の目を見るんだ」
ウィルはゆっくりと視線をトムの顔をに合わせた。
「私のことが信じられないのかい?私がこんなに真剣に話しているのに、冗談を言ってるとでも?」
トムはまっすぐにウィルを見ている。
ウィルにはその視線が痛かった。
しかし、そらすこともできない。
しばしの沈黙と静止。
ウィルはついに折れた。
「分かった。認めるよ……。とりあえず」
ウィルは力なく言った。
「僕は王族、そしてトムはすんごい剣士」
「ただすごいってもんじゃない!」
ローレイが声を張り上げた。
その顔は、その厭味ったらしいいつもの顔から想像できないほど、輝いている。
「武芸の世界では、世界の頂点に立つ男だ。士族はもっとも武芸に優れた部族。そしてバディの称号を得られるのは、一族で頂点に立つ者だけ。トムさんは、さらにその歴代バディの中でもひときわ優れていたと聞いている」
ローレイが興奮しているのをウィルは肌で感じ取った。
「そんなにトムはすごいのか……」
「やめてくれ! 私はバディ失格なんだ」
突然声をあげたトムに、ローレイとウィルは驚いた。
「どうして?」
ウィルが驚いて聞いた。
「私はお前のお父さんを守り抜くことが出来なかった」
「ラゼル王は原因不明のご病気でお亡くなりになったんです。トムおじさんのせいでは」
「いや」
トムはローレイをさえぎった。
「確かにエレンが亡くなった時には、全く効く薬がなかった。だがラゼルの時には、死ぬ少し前に病気の進行を遅らせる薬ができたんだ。私は届けることが出来なかった。私は、バディ失格なんだ。みすみすラゼルを死なしてしまった」
トムの声は少し震えていた。
「でも」
ウィルはトムを慰めたくて必死になった。思いがけず、わずかな薬学の知識が役に立つ。
「お父さんの病気はとても進行していたんだ。死ぬ寸前だったんでしょ?その薬ができたのは。それならどちらにしろ無理だ」
「だが――」
「薬を届けたところで、きっとお父さんはそんなに生きられなかったよ」
「確かに数日長く生きられる程の効果しかなかったかもしれない。でも、その数日で世の中が変わっていたのかもしれないんだ。エカルイア家が政治を握るのを阻止出来たかもしれない」トムは両手で自分の髪を掴んでいた。
「もっと言えば、エカルイア家が絡んでいるに違いないその病気をに感染するのを防げたかもしれない」
ローレイが静かに言った。
「母が言ってました。あの病気はまだ解明されていないと。医族の者達が長年必死で研究しても、未だに治す薬ができていない病気です。トムおじさん、そして誰にも防ぐことは出きなかったでしょう」
「そうだよ!」
ウィルは初めてローレイに賛同した。
「僕達士族は皆今でもトムおじさんのことを誇りに思っています」
「ありがとう」
トムは悲しそうに笑いながら、肩をすくめた。
「でも今は話をすすめよう。話さなければいけないことが、まだ山ほどある」
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