明かされた真実 3
時が止まった。
「今なんて言った?」
「第一王子ウィル・カシュー」
ローレイが何事でもないかのように、きっぱりと言う。
「え……?」
「君の父親ラゼルはルーテン国の王だった」
「いや……ちょっと待って――」
「賢帝だったよ。そして、私の無二の親友だった。本当に人格といい、知性といいすばらしかった。だが……」
そこでトムの表情は一段と険しくなり、黙りこんだ。
次に口を開いたのは、ローレイだった。
「カシュー家の悲劇。僕がまだ物心つく前の時だった。大きくなって、人から聞いたことだが、今から十四年前このルーテン国の中心の都リフラーにある城、つまり王宮で原因不明の伝染病がはやったらしい。だが、おかしいのはその病気にかかるのがカシュー家の者だけなんだ。最初は、王を引退していた先王、そして王妃、後を追うように王、あとは詳しく知らないが他にも何人かのカシュー家の者が死んだらしい」
トムが首を振った。
「伝染病なんて、聞いてあきれる」
「全く同感ですよ、トムさんおじさん」
ローレイが相槌を打つ。
「それは、もう世界のみんなが思っていることです」
「エカルイア家はもうちょっとマシな口実は思いつかなかったのか? なぜカシュー家の者だけが、伝染病にかかるんだ? なぜそばにいたメイドや他に城に仕えていた多くの人は、だれも伝染病にかからなかった? エカルイア家もみな健康そのものだった。陰謀だよ。誰もがそう思っている。カシュー家の者は、殺されたんだ」
ウィルは話についていくことができず、ぽかんとしていた。
「だが、二、三人は生き残ったらしい。だが、当然もう城にはいないよ。どこかで、ひっそりと身を隠して暮らしてるはずだ。君の親戚にあたる人たちだよ」
「僕の親戚……」
ウィルは、そこでたった今聞かされた話を、ゆっくり頭の中で整理してみることにした。
僕はラゼル王の息子。カシュー家の生き残り。
家族は陰謀で殺された。
トムはラゼル王のバディ。
僕は士族じゃなくて賢族、つまり俗に言う王族。
……。
そして一つの結論に達する。
「は……。あり得ないね……。あり得ないよ、トム」
「何がだね?ウィル」
トムの声は優しかった。
「もちろん、僕が賢族の一人だということがだよ。二人して僕のことをからかってるんでしょ?」
ローレイは声に苛立ちをにじませた。
「お前って、思ったより飲み込みが悪いな……」
トムはしばらく、ウィルを直視したまま、拳を額に当てて考え込んだ。
何かをを思案しているらしい。
その間、ウィルは自分が賢族ではないという根拠を、心の中で挙げていた。
第一、王族の一員なら、何でこんなよれよれの服を僕は着て、こんな山奥に外界とは全く接触なしですごしているんだ?
賢族は世界中と接触して、まとめるのが仕事だろ?
それに、第一王子とかいう立場なら、召使とか周りにたくさんいて、毎日ほっぺたが落ちそうなほどおいしいディナーを金のお盆に載せて運んでくるはずじゃないか。
小さい頃に読んだ、絵本の中の王子はそんな生活をおくっていたはずだ。
突然、ローレイがパチンと指を鳴らした。
「そうだ!」
そして、服の左袖をぐいっとまくりあげる。
「お前は、これが何だか知ってるか?」
その二の腕には、銀の太い腕輪がはめられていた。
飾りなどはなく、ただのわっかで、肩より少し下のところにはめられている。ウィルは、その腕輪に見覚えがあった。
この色、この形……。
「これって、トムも――」
「ああ、そうだ」
トムもローレイと同様に袖をまくりあげながら言った。そこには、ローレイとほとんど同じものがあった。
ただ、トムのは年季が入っていて、さらに大きなヒビが入っている。
ウィルは見慣れていたが、なぜか自分に同じのがついているのだから、見慣れているはずのローレイは顔に驚愕の色を浮かべた。
「トムおじさんそれは――」
トムはローレイを手で遮り、ウィルに向かって言った。
「ウィル、これが何なのか分かるか?」
ウィルは少し頬を膨らませた。
「知らない。トムは教えてくえなかった」
「悪かった。これは、カラーというものなんだ。このルーテン国の人々はみなつけている。みな、生まれるとすぐにつける。これは、不思議な物質でできていてね、その人の成長とともに伸びたり縮んだりするんだよ。つまり、きついとか、ゆるいとかいうことがないんだ。そしてこの色についてだが、この腕輪の色は、そのつけている人が属している部族を表す」
「それがどうしたの?」
「腕輪をつけないのは、賢族の者たちだけなんだ」
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