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蛇道村 1

外はひどい雨だった。

馬車のカーテンの下から雨が入り込む。

隙間風も容赦なしだ。


甘く見ていた。

馬車の旅がこんなにつらいとは全く思いもしなかった。

外で風がごうごうと唸っている。

道はハレの言った通り、整備されておらず、ガタガタしているらしく、馬車もそれに合わせてゴトゴトと音を立てて大きく揺れた。


馬車の揺れる音

風と雨の音。

4人はぐったりと、このこの上なく不快なアンサンブルを聞いていた。

馬車が揺れるせいで体が痛い上に、隙間風のせいですごく寒い。

あの海賊船での悪夢が再来したようだ。


「ま……とりあえず安全な状況にあるだけいいよね?」

ウィルは他の3人にというよりも自分に言い聞かせるように言った。

ずっと寒さに震え続けてる自分を励ましたかったのだ。

「安全?」

ローズの食ってかかるような声が返ってきた。

ローズは顔を紅潮させ、手を絶え間なくこすり合わせている。

その表情から、不機嫌さがマックスであることが窺える。

「この風の音が聞こえないの!? いつ馬車が横転するか分かったもんじゃない。それに何この寒さ! 凍え死にしそうよ! こんな乗り心地の悪いボロ馬車が存在するなんて知らなかったわ」


「それは君がお嬢様育ちだからだろう!」

ウィルはめずらしくローズに反撃した。

いつもは怖いし、10倍になって返って来るから、言い争いは極力避けるようにしていたが、ウィルもこの最悪なコンディションのもと気が立っていた。

「御者の人はもっともっとつらいはずだよ。感謝しなきゃ……」

ウィルはカーテンの隙間から見える外の雨模様をちらりと見やりながら言った。

周りの木々が大きく揺れていて、まるで馬車に向かってお辞儀しているかのようだ。

「それならあんたが代わってきてあげなさい!」

「……どこまで君は自分勝手なんだ。もとはと言えば、こんなにも早く出発しないといけなくなったのはローズ、君のせいだろ!? ほんと、こっちは大迷惑だよ」

「なんですって!! もう一度言ってみなさい!」


「ちょっと二人とも……」

ローズと同じように頬を紅潮させたリィが背もたれにぐったりともたれかかりながら、力なくとめに入った。

だが二人はすぐには黙らなかった。

しかと睨みあう。

外の轟々という風の唸り声が、二人の苛立ちに拍車をかけた。

「あんたみたいな馬鹿に非難される以上に腹立つことってないわ」

「君ほどにお高くとまった人、僕会ったことないよ! やっぱりどうあがいても君は貴族なんだね。リィとはやっぱ態度とか全然違う」

「……っ!」

次の瞬間、ローズの皮でできた、しかも中に水晶やらその他もろもろぎっしり詰まったバッグが顔面に飛んできた。

「痛っ!!」

「ちょっとローズ、危ないじゃない! ウィル大丈夫?」

「あんたなんか潰れちゃえばいいのよ! 最低!!」

ウィルは飛んできたバッグを足元にたたきつけた。

「最低なのはどっちだよ!?」

さすがのウィルもぶち切れ寸前だった。


出発時、自分たちの進歩に満足し、決意を人知れず新たにしたのもつかの間、すぐに機嫌を折られてしまった。


「おい!」

ずっと目を閉じていたローレイが口を開いた。

どうやら寝ていなかったらしい。

「いい加減にしろ……」

落ち着いた声だったが、殺気を後の3人に十分に感じさせた。




ウィルとローズは互いに睨みあったまま、口を閉じた。

ローレイを本気で怒らせてみる気力と体力は二人には残っていない。


しばらく黙ったままウィルを睨みつけていたローズだったが、ふと息を大きく吐くとカーテンの隙間から外を見た。

「アクイラ……大丈夫かしら」

「とりあえず」

ケンカが収まってほっとした調子のリィは、元気づけるように言った。

「真夜中には山を抜けたところの村に着くって、ハレさんが言ってたからあと1時間とちょっとくらいだと思うわ。そこで宿をとって、ベッドにもぐりこめることができる」

「寝る前に1杯あったかいココアが欲しいわ……」

「きっとあるはずよ」

「ところで何と言う村っていったかしら?」

「えと……確かサーペン村だったような……」

「サーペン村……。ああ、思いだした。多分ドムトリ子爵の領地ね……」

ローズはぐったりと壁にもたれかかりながら、疲れた調子で言った。

「貴族の土地なの?」

ローズとはしばらく口を聞くまいと心に決めていたウィルだが、好奇心は抑えることはできない。

「ええ。シャーンティヒ宮殿の周りには貴族たちの家が立ち並んでて、さらに海岸の方へ行くと主に平族の村が広がっているわ。まぁオーラムステラ島の8割は貴族に所有されてる。王族はずっと貴族の権勢を落とそうとしたけど、なかなか成功しなかったのはそのせいでもあるわ」

「8割も……」

「貴族はもとは王家だった者や素晴らしい働きをしたことで勲章とかをもらった者の子孫にあたるのよ。もとは他の族にもひけをとらない優秀な人たちがいたのよ。ただ子孫まで優秀で賢人とは限らない……」

「……」

「とりあえずドムトリ子爵は警戒するにあたらない人だと思うわ。何度かパーティで会ったけど、ぼぉっとしてる脳なしだったわ。その娘は根の曲がった高慢ちきの馬鹿女だったけど……」

平静でもローズの口の悪さは変わらない。

ウィルは思わず苦笑した。

そして考えた。

ローズは家を飛び出すまでどんな生活をおくってきたのだろう。

欲しいものは何でも手に入れることのできる、満ち足りた生活だったはずだ。

なのにどうして、飛び出したりしたのだろう。



ゴトゴトゴト。


馬車が揺れる。


温かくて甘ったるい一杯のココアまで、もう少しの辛抱だ。


読んでくださってありがとうございます!

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