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黄金の腕輪 3

「大変ご迷惑をおかけしてすみません」


ウィルはアンナおばさんに心の底から謝った。

そして同時に背後のアンナおば宅を名残惜しそうに見る。


日はすっかり沈んで、あたりは真っ暗だった。


せっかく落ち着いた生活がしばらくできると思ったのに。


「迷惑だなんて……。どうか気をつけてね。無事を祈ってるわ」


おばさんはウィル達の早すぎる旅立ちを本当に悲しんでいるようだった。


「たいしたおもてなしも、協力もできなくて申し訳ないわ」

「いえいえ、とんでもないです」


「お!」

ハレが一方を指さして、変わらないひょうきんな声を出した。

その指の先には一台の馬車の影。

「馬車がきたみたいだな」

ローレイも重ねてお礼を言う。

「馬車の手配までしてもらってすみません。本当に何から何まで……ありがとうございます」

リィとローズも続けてお礼を言った。


生温かい風が吹いてる。


「最後にこれをあなたに渡しておきたいと思うの」


アンナおばが取り出したのは、金の装飾が施された首飾りだった。

鎖も金だ。

見るからに高価そうな首飾り。


「これはあなたのお母さんが使ってたものなの。その鎖についてる丸いペンダントは開くのよ」

ウィルはおばさんから首飾りを受け取った。

ペンダントは手のひらよりひとまわり小さい。

ウィルはさっそく開けてみた。


「鏡だ」

開くと両面鏡になっていた。


「姉さまはそのペンダントを大変気に入っていたわ」

「ありがとうございます。大切にしますね」


僕のお母さんが使っていたもの。

お母さん……。

一体どんな人だったのだろうか。

アンナおばさんに似た感じのひとだったのだろうか。


ウィルはペンダントを眺めながらぼんやり考えた。

今までこんなことを考えもしなかった。「最後にお聞きしたいことがあるのですが……」


そう切り出したのはリィだった。

「今日フローラさんが見せてくださった、虹花レイーズ。他の色の花の場所、分かるのだけ教えてくださいませんか?」

フローラは不思議そうな顔をした。

「ええ……いいですけど。えと……赤はもうご存じなんですよね? えと橙がエクスプレシオ島、緑がエコイカウン島。だったよね、お母さん?」


アンナおばは頷いた。

「その通りよ。フローラ」

その口元が少し綻ぶ。

「なつかしいわ……虹花かぁ。ウィル」

「え?」

アンナおばはそこでクスリと笑った。

「あなたのお父さんは、虹花を全種集めて、それを半永久的に植物を保存できる特殊な瓶に詰めて、それをあなたのお母さんにプレゼントすると同時に求婚なされたのよ」

「全種……」

ウィルは父親の求婚話よりも全種の虹花というところに興味を持った。

フローラは王族だけが全種虹花を集めることができると言っていた。

お父さんは虹花を全種集めることができたらしい。


少し考え込んでいるウィルを見て、アンナおばの表情はふと真顔になった。

そして確かにこういった。

ポツリと。



「始まりはそれで大丈夫よ」


「え……?」

アンナおばは答えずに、馬車にちらりと目をやった。

「さてそろそろ出発したほうがいいわね。長く待たせちゃ悪いし。ただでさえ、長旅になるというのに」

「道中気をつけろよ。抜け道は整備さえてねーからな。たまに馬車が横転しちゃうんだよな。ハハハ」

ハレは威勢のいい声で笑いながら言う。

「……」

ウィルの近くでローズが小声で毒づく。

「気をつけろつったって、どうしろって言うのよ……」

「ちょっとハレ、怖いこと言うんじゃないの」

アンナおばは夫に向かって顔をしかめた。

「ああ、ハハハハ。スマン、スマン。ローズマリー」

ハレはしばしばおばのことを「ローズマリー」と呼ぶ。あだ名みたいなものらしい。

「脅かすつもりはなかったんだ。本当にたまにだからそう怯えんでもいい。よっぽどの強い風が吹かんと、倒れんさ! ハハハ」

直後生温かい風が唸り声をあげながら、辺りの木や花を強く揺らした。


ローズがますます表情を硬くしていく横で、ウィルはレフア親子をぼんやりと眺めていた。

これが夫婦。

これが親子……なのだろうか。

よく分からないけど、なぜかすごく暖かい。

自分は一度もこういうのとは無縁……。


いや。


ウィルはそこで思い直した。

トムとフランクじいの笑った顔が浮かぶ。

ウィルも確かにその暖かさをかつて持っていた。

あの山奥で。

自分もその暖かい「何か」を持っていたことが分かり嬉しくなる一方で、ウィルは寂しさも同時に覚えた。

トム……。

フランクじい。

元気にしてるかな……。


フローラの声で、ウィルは我に返った。

ローレイに茶色のバスケットを差し出している。

「これ、さっき母と作ったサンドイッチです」

「すまない……」


さて、本当に出発しなきゃ。


ウィルはもう一度レフア親子に向かって深々と頭を下げた。

「本当にありがとうございました。それじゃ……僕達、もう行きますね」


4人が馬車に乗り込むと、すぐに馬車は走りだした。

ローズはアクイラに馬車に付いてくるよう指示し、アクイラはそれを理解したようだった。

「キャゥ」

一同は馬車から身を乗り出し、見えなくなるまでレフア親子に手を振った。


親子の姿が見えなくなると、さっそくリィは切り出した。

「次はエコイカウン島が妥当かもね」

ローレイは腕組みをしながら同意した。

「そうだな……。また船旅か。まぁ、あのようなことはないだろう。危険海域ではない」

「でも船に乗り込む前にいろいろと必要なものを買い足したほうが良さそうね。地図とか食糧とかいろいろ必要でしょ? おルクは足りるかしら?」

「大丈夫よ。まだ十分余裕があるわ。足りなくなったら、ウィルが稼ぐってのもありなんでしょ?」

ローズが自分のバッグの中を覗き込みながら言った。


高価そうなバッグ。

たっぷりルクの入った水晶。

ウィルは納得した。

どうしてそんなものをローズが持っているのか今は理解できる。


「それはそうと、私達すごいよね」

ローズはにっこりと笑っていた。

「すごいと思う。すごくない? だってこの世界の秘密に関わって、その確信にどんどん近づいていってる! 自分たちの力で危機を乗り越え、知恵を絞って。こんな楽しさ、私知らなかった。今まで全然!」

ローズは声に出して笑った。

「楽しいって……」

ウィルは緊張感のないローズにあきれた。ローレイは顔をしかめており、リィは微笑をしていた。



――確信にどんどん近づいていってる!


それは確かかもしれない。

ウィルはポケットに入っている木箱をポケットごと握りしめた。

リィが摘んだ黄色の虹花は紅紫色に光りながら、ウィルのポケットに入っていた木箱の中へと消えていった。


そして木箱の示した2番目の啓示はこうだった。


持てる知性出されるべし

いにしえより伝承されしものの中にあり



そして、さっき確かにアンナおばは言った。


ローズの言う通りだ。

確かに近づいて行っている!


ローレイとローズが何か言いあっている横で、ウィルは少しだけ表情を緩めた。



読んでくださってありがとうございます!

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