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明かされた真実 2

「ただいま!」


ウィルは元気よくドアを開けた。

いつもと同じように。元気よく家の中に駆け込む。

 

居間で何やらまた話をしていたローレイとトムが、同時に顔をあげた。


「おかえり、ウィル」


この光景はもうウィルにとっては慣れっこだ。

ウィルは気分を害することなく、自分の部屋に直行した。

もしも話声がいつもより大きくて聞こえそうなら、また自分の部屋のドアに貼りついて盗み聞きを図ろうかな。

そう呑気に考えながら、ウィルは二人のいるテーブルを通り過ぎた。



正確には通り過ぎようとした。




「ウィル、話がある。ここに座ってくれないか」


ウィルはぴたりと足をとめた。驚いてトムを見る。

トムがローレイが今座っている自分の向かい側の席を示していた。

ローレイは即座に立ち上がり、トムの隣の席に座った。


「すまないね、ローレイ君」

「いえ、大丈夫ですよ」


トムは、いつもよりやや顔色が悪いように見えた。

最近は体調が芳しくないせいで、顔色が悪いのはよくあることだったが。



ウィルは警戒しながら、トムの向かい側の席に無言でついた。


ローレイは今は顔にあの厭味ったらしいニヤニヤがない。

士族の威厳をどことなく漂わせるような、引き締まった厳しい顔をしている。


嫌な予感がした。

なぜか心臓の鼓動が速くなる。


「何? 話って……」


トムはすぐには質問に答えず、黙ってウィルを見ていた。


ウィルはローレイとトムから真顔で正視されているのがどことなく居心地が悪く、椅子の上でお尻をうずうずとさせた。


ようやくトムが口を開いた。


「ウィル、この話をするのを私は随分先延ばしにしてきたが、もうこれ以上はダメみたいだ」


少し震えた声。

こんなトムの声をウィルは初めて聞く。

ウィルは無意識に身構えた。


「どんな話を……?」

自分でも驚いたことにかすれ声だった。


まだ経験したことのないこの張りつめた空気に、胸騒ぎを覚える。 

直感が大変なことが起きると告げていた。


「時が来たんだ。お前の旅立ちの『時』が」

「え?」

「ウィル、それはお前が長年望んでいて、私が望んでいなかった『時』だ」

「何を言っているのか、全く分からないんだけど……」



「旅立ち」――この言葉が、この神秘的かつ魅力的な言葉がこの時ばかりは乾燥して聞こえた。

何の意味ももたない、空気のようなもの。


「旅立ちってどういうこと? 僕らここの家を出るの?」


トムは大きく深呼吸をし、ぐっとウィルを見据えた。

これから戦に望む士族のように、その眼差しは士気を帯びている。


「長い物語だ。ここから話し始めるのがいいだろう。お前が旅立たねばならない理由、まずはそこからだ」


静寂がその空間を覆った。


トムの声は静寂の中で響き、そして静寂の中に消えていく。


「全ては、現在この国を治めてるエカルイア家にある」


「エカルイア家、それって王家だよね」


世間知らずのウィルでも、その名はさすがに知っている。

このルーテン国の王家。


「この世界の崇高なる支配者、賢族の誉れ高きエカルイア家」


ローレイがそこで初めて口を開いた。

ウィルはその声に嘲りの色があったのを聞き逃さなかった。


「王家と僕達が旅立たなければならないことと、何か関係があるの?」

「大いにありだ」


トムが即答した。


「お前は知らないと思うが、賢族には二つの姓がある。正確に言うと、あった。お前が生まれた時はまだ、二家がこの国を治めていた。だが、今王宮にはエカルイアという名を持つ者しかいない。理由を知っているか?」

「もちろん、知らないよ」

「もう一つの姓ををもつ一族が、耐えたからだ」

「全員死んだってこと?」

「その一族のほとんどの者が、次々と病死した」

「大変な病気だったんだね……」


「病気?」

そのローレイの言葉には、また嘲りの調子があった。

「どうして一方の族の者だけが死ぬ病気なんだ? 公式にはそういうことになっているが、嘘であることは世界の誰もが気づいてる。病気というよりも暗殺といった方がこの場合しっくりとくるからな」

「暗殺!?」


トムは重々しく頷いた。

「裏切りだ。昔は二つの血縁はうまくやっていて、善政をやっていた。だが、当時ある理由で両一族は仲が悪くなり、エカルイア家は一方の一族を排除しようとした。結果今はエカルイア家の独裁政治。今、その一族のトップがご存知、アルノー・エカルイアだ。陰謀が働いていた時は、まだそいつの父親が王座にいたが……」


「アルノー王……」

「アルノー王は君と同い年だな。この国の頂点にいる男だ」


「同い年でも能天気のばかと暴君か……。こりゃ、全然違うな」

ローレイが皮肉たっぷりに言った。

「僕は能天気のばかなんかじゃない!」

ウィルが怒って言った。

「そうだったのか……。それじゃあ、世間知らずの弱虫君かい?」

ローレイがいつもの調子で、わざとおどけてみせながら言った。


「違う!!僕は――」

「ばかなけんかは二人ともやめるんだ。話を進めるぞ」

トムが大声を出した。


「二人とも?トム、ローレイが僕のことを―」

「口を閉じるんだ、ウィル。時間を無駄にしている余裕なんて、全くないんだ」

ウィルはローレイを睨みつけながらも、言われた通り口を閉じた。

ローレイはまだうっすらニヤニヤ笑いを顔に浮かべている。


「よし、それでいい。最初この国の賢族による政治が始まったとき、さっきも言ったように賢族には二家族がいた。ビーク家とエカルイア家。だが、四十八代の王は女王だった。女王としては2代目だ。名はクララ・ビーク。王位についてからしばらくし、クララはある青年と結婚し、諸事情により姓を変えた。クララ・カシュー」

ウィルは口をあんぐりと開けた。


偶然?


直感が未だに継続してウィルに警告を発していた。


さらに深い静寂が居間を呑みこんだ。

外で美しい声の小鳥が、さえずっている。


「そうだよ、ウィル」

トムはウィルをじっと見すえ、ウィルもまっすぐにその目を見つめ返した。


「いや……ラゼル王の息子ウィル・カシュー」



読んでくださってありがとうございます。

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