花咲く村 4
「ようこそいらっしゃいました」
澄んだ声で迎えてくれたのは、ウィル達と同年代の美少女だった。外観からは気品が溢れていて、その微笑はとても優しい。華族の人たちはみなこの子のように美しいのだろうかと、ウィルはみとれながら思った。
「私の名前はフローラ・レフアです」
家の中に案内しながら、少女が振り返って言った。ウィルたちもそれぞれ自分の名前を名乗った。
「ウィル・カシューです」
久々に自分の本当の名前を口にする。
「キッチンで母があなた達を待ちわびていますわ」
「今日はごちそうだな」
活気のいい声が聞こえた。ウィル達を先ほど迎えに着た、小太りの男ハレだ。ハレが案内した家は、ウィルがこれまでに入ったことのない、大きくて立派な家だった。広い応接間にウィル達の足音が響く。至るところに花瓶がおかれており、そこにいけられた花たちはまるでその美しさを競ってるかのように咲き誇っている。
「お父さん、お客さんの前ではちゃんと遠慮してね」
困ったような顔をしながら、フローラが言う。
「親子……?」
ローズが驚いて言う。
「はい。私の父です」
「に……似てないんですね」
ハレは人懐こそうな親しみやすい顔をしているが、とてもハンサムとは言えない。
「ははは。フローラがわしに似たら困るだろう」
ハレは大笑いしながら言った。フローラも一緒に少し笑った。
食卓の席で迎えてくれた、アンナおばさんもまた美しい人だった。
「あなたがあのウィル……。こんなに大きくなって。どちらかというと、エレンに似てるのね」
おばさんの声は震えていた。おばさんはゆっくりとウィルに近づいてきたが、最後の方は駆け寄るようにしてウィルをしかと抱きしめた。
「よく来てくれたわ。私のかわいい甥」
ウィルは困惑し、自然に身が硬くなるのが分かった。母親がいなかったら分からないのだが、「お母さん」とはこういう人のことを言うのだろうか、とウィルは思った。
数秒後、ウィルにはものすごく長く感じられたが、アンナおばさんがようやくウィルを放すと、ローレイたちの方を見た。
「こちらは……」
それぞれ自己紹介をする。
「あなたがバディなのね」
アンナおばさんがローレイに微笑みかけながら言った。
「はい」
「うちでゆっくりしていってね」
アンナおばさんはローズとリィの方も見る。
「もちろん、あなた達もね」
「ありがとうございます」
「お…恐れ入ります」
そこでアンナおばさんは表情を曇らせた。
「いつまでもいてと言いたいのだけど、そうは行かないのでしょうね……」
「まぁまぁ、とりあえず飯にしようじゃないか、母さん」
とりなすように、ハレが言った。
「そうね」
フローラも柔らかい微笑みで同意する。
大きな長テーブルにはごちそうが並んでいた。船でのディナーパーティの御馳走に少しもひけをとらない。いや、むしろ華やかさでは、色とりどりの花を使用しているためか、こちらの方が上だった。
「今日は疲れているでしょうから、早めにぐっすりお休みになるといいわ」
アンナおばさんが、花のサラダをウィルのお皿にとりわけながら言った。
「ありがとうございます」
お皿を受け取り、ウィルはにっこりして言った。おばさんが言った通り、空の旅は思った以上に体への負担が重く、ウィルはもうヘトヘトだった。
「こんなおいしい食事をとったあとですから、今日はぐっすりと眠れそうです」
そう言ったリィは、ちょうどハーブの入ったパスタをおかわりしている。
ローズも同意した。
「そうね。今日は久しぶりにゆっくりと安心して寝られそうだわ」
ウィルも口にサラダを入れ、自身も大きく頷こうとしたが、その前にむせてしまった。
「ゴホッ。ゴホッ」
「あんた、詰めすぎよ。口に。全くだらしがないわねぇ」
ローズがウィルの背中を軽くたたきながら、あきれたように言う。
「お料理はどこにも逃げないから、ゆっくり食べるといいわ」
おばさんにウィルは目を涙でうるませながら、頷いて答えた。
非常に残念なことに花のサラダが口に恐ろしく合わなかったことは、口が裂けても言えない。この花のすっぱさは、とても人が口にするべきものじゃないとウィルは思った。
隣で同じサラダを口にしたローレイの体が一瞬凍りつき、その後お茶をがぶ飲みしたのをウィルは見逃さなかった。
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