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認められし者 1

ローレイは突然ピエールに切り出した。

「あの、ここを出ることについてですが……」

それは、太陽が傾き始めたころ。

アミンの腕輪の話を聞いてから、数日経った日のことだった。

皆、台所に集まり、アミンが焼いたアップルパイと共にお茶をしている時だった。

ウィルは沈んだ表情でローエイを見た。そろそろ切り出すのではないかと危惧していたところだった。

ピエールは途端に悲しそうな表情をした。

「もう出発せねばならんのじゃな?」

「ええ、先を急いでいるので。お世話になりっぱなしで、誠に申し訳ないのですが、適当な船を見つけ次第出発するつもりです。こいつと二人で」

ローレイはウィルをちらりと見ながら言った。

ウィルには考えすぎかもしれないが、今のセリフがピエールよりもリィとローズに向けられたように思えてならなかった。特に最後の部分。

ローズとリィの方見ると、ローズは何か言いたそうな顔をしていたが、リィがそれを止めるようにローズの手に優しく触れた。その目がローズに語っていた。駄目だと。

ローズはリィの目を見て不服そうな顔をしたが、一瞬の間の後観念したように目を伏せた。

「どうやってこの島をでるつもりなのじゃ?」

「市場の商人の者たちの船に乗り込もうと思っています。ルクをある程度出せば乗せてくれるでしょう。ここ数日夜の市場にアミンに連れて行ってもらい、観察をしていましたが、ここまで危険を冒してやってくる者です。金の亡者である彼らは、きっと引き受けてくれると思います」

「そうじゃな、確かに彼らは引き受けるじゃろな。現に商人の船に乗って出ていくものも少なくはないからな」

そこでピエールはお茶を一口飲んだ。

「じゃがな、わしから提案があるんじゃが……」

「どんな提案でしょう?」

「確かオーラムステッラ島に向かうと言っていたな?ここからおそらく船なら4日はかかるが、飛んで行ったら2日でいける。どうじゃ、飛ぶのは。嫌かね?」

「飛ぶ……?」

ウィルは目を丸くした。

アミン以外の他の者も驚いていた。ローレイも一瞬驚いて固まっていたが、はっとした表情になると口を開いた。

「あの…飛ぶといいますと……。どうやって?」

「正確には乗っていくというのかの。大鷲に」

ピエールは楽しそうに言った。皆が驚いているのが、面白いらしい。

「大鷲?ですが、大鷲は蟻族のもの共しか扱えないと聞いております」

「蟻族に頼めばいいじゃろ」

「蟻族は飛ぶことを誇りに思っている。『飛ぶ』という他の者には決して得られない自由を第一に大切にしている。確かに蟻族の者は金に目がありませんが、そんな簡単に承諾するとは思えな――」

「するんだよ。承諾。ピエールじいさんが頼んだならな」

アミンがじれったそうに言った。

「市場で助けた子供たちも、その大鷲で他の島に送っている」

「速くて安全じゃからな」

ピエールが付け加えた。

「ですが、どうして……?」

ローレイはまだ納得がいかないような顔をしていた。

「頼みを聞いてくれるのは、一人の蟻族の者だけじゃ。以前そやつが嵐のせいで倒れているのを助けたことがあっての。その恩返しに子供達を運んでくれるんじゃ。ちょうど3日後に会う約束をしている。どうじゃ?安全性を考えると一番いいと思うのじゃがな」

ローレイはしばらくピエールじいの爛々とした目を見つめていた。その後、なぜかふと笑みをたたえ、口を開いた。

「本当にご迷惑かけてばかりで申し訳ないのですが……」

「了解ということじゃな?」

「…よろしくお願いします」

ウィルは信じられない思いで2人を見ていた。

飛ぶ。

まさかそんな日が来るとは思わなかった。

正直もう船はうんざりだったので、ウィルはピエールの提案がすごく嬉しかった。


「さて、わしは今晩出かけねばならんのでな。準備をしてくるとしよう」

ピエールが椅子から立ち上がりながら、言った

「あれ、今晩だったっけ?」

アミンが頭を掻きながら言った。

「そうじゃよ。アミン、お前さんにも来てもらうから――」

「分かってるよ、じいさん」

アミンはピエールを遮って、言った

「ちゃんと準備しておく」

ピエールは柔らかにほほ笑み、台所を後にした。

ピエールが出て行った後、ウィルはアミンに聞いた。

「どこかに行くの?」

「ああ、今晩奴隷市が開かれるらしい」

氷のように重くて冷たい空気が、場に流れこんだ。

「でもな、悔しいけど、救えて一人だな……」

ウィルは目の端で、リィがカップをぎゅうっと握りしめるのを見た。

「どうやってその一人を選んでるの?」

ローズの声は、なぜかとても小さかった。

「一番年少の子を助けてる。選ぶということは本当につらいが、ピエールも言ったようにだからと言って何もしないのはおかしいと思うんだ」


「僕も行く」

それは唐突だった。

ウィルはカップの中のお茶を見つめながら、ぽつりと言った。

「え?」

アミンが聞き返す。

ウィルは顔を上げると、はっきりと言った。

「僕も行きたい。連れて行って!」

「駄目だ」

答えたのではアミンではなく、案の定ローレイだった。

「自分の立場を踏まえて行ってるのか?」

ローレイの一睨みに、ウィルは一瞬たじろいだが、すぐに自分を奮い立たせた。

「でも行きたい!この目でしっかりと見ておきたい!」

ウィルの声はだんだん大きくなっていった。

「そりゃ危険だろうし、見てもつらくなるだけだと思うけど、見ておきたいんだ。そうするべきな気がする。アミン、連れて行って!」

「俺はいいけど……」

アミンはちらりとローレイを見た。

「前から思ってたけど……」

ローズが口を挟んだ。

「ローレイってやけにウォルトには過保護じゃない?」

ローレイは表情を硬くして、完全にローズを無視した。『好きでやってるんじゃない!』とその表情が訴えていると、ウィルは思った。

「ローレイ……」

ウィルは勇気を出して、ローレイをまっすぐに見た。仲間で、同じ年代のローレイをどうしてこうも恐れないといけないのか、という考えはこの際頭の隅に押しやった。

「行きたい。ローレイも一緒に行けば、安心でしょ?ローレイも一緒に来れば大丈夫でしょ?」

「安心じゃない」

ウィルのローレイを持ち上げる作戦は瞬時にガタガタと崩れた。

「客船脱出の時によく分かった。お前は、ヘマをすることにかけては、人を抜きんでている」

「な……」

これにはさすがにウィルも顔色変えたが、爆発ギリギリのところでブレーキをかけた。

自分自身に冷静になれと、言い聞かせる。

これはきっと大事なことだ。

そう直感が告げている。

それに……。

自分の感情をおさえ、一言一言噛み締めるように言った。

「見ておきたいんだ。見ておかないといけない気がする。そこに何かある気がする。そこに…僕がこれから…これから進むのに……」

ローレイもまっすぐにウィルを見た。

しばらくの間二人はお互いの目を見つめ合っていた。

先に目をそらしたのは、ローレイの方だった。

「……ヘマをするなよ」

「え?」

ローレイはそのまま無言で立ち去った。

「あら、珍しくあなたが勝ったわね」

ローズがのんびりと言った。

『珍しく』ではなく初勝利だ。

ウィルは、ローレイが姿を消したドアを振り返った。

気のせいかもしれないが、ローレイの先程の挑発は、わざとしているように思えた。まるで、ウィルがどう出るのかを見ているかのように。そしてウィルは感情を抑え、ローレイの合格基準を満たした。だからローレイはウィルの申し出を聞き入れた。なんとなくそんな気がした。

実際ウィルの感じたことはまんざらでもなかった。

部屋をローレイが立ち去る時、満足げに緩んだ口元をリイは目撃していた。


読んでくださってありがとうございます。

この章から木箱やペガサス、王家の秘密について迫ります。

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