明かされた真実 1
何事もなく一週間過ぎたのだが、ウィルには最近少し気になることがいくつかあった。
一つは、ローレイとトムがあの最初の日のお風呂から上がった時のように、真剣に何かをよく話し合ってるということだ。
しかもひそひそ話で。
二人はウィルに聞かせまいとしているらしく、ウィルの前では決して何やら深刻な話をしようとしない。
また、ウィルが近くに来ると必ずその話を中断させるか、何か理由をつけてウィルを追っ払おうとした。
「お風呂に入ったらどうだ?」
「薬学の復習はしたのか?」
「もうそろそろ寝なさい」
追い払われれば、追い払われるほど、ウィルは話を盗み聞きするのに躍起になっていった。
自分の部屋にドアに張り付いて、居間の会話を聞きとろうとしたり、お風呂からあがった後、忍び足で居間に入っていたり。
いろいろな策を考え、片っ端から実行していったにもかかわらず、成果はあまり芳しくなかった。
聞き取れた単語は、
「アンナ」
「村」
「船」
アンナという人がいるところに船に乗って向かう?
単語をつなぎあわせてもそれくらいの予想しかできない。
こんなどうでもいい話をしているわけじゃないことは、ウィルは察しがついていた。
あのムカツク少年はともかく、トムとはずっと一緒に暮らしてきた長年のつきあい。
家族だ。
トムがあんなに真剣な顔をするのは、よっぽどのことだと察するのはウィルにはさすがに容易い。
そして、もう一つ気になることがあった。
ローレイは何かしらウィルと目が合ったときは、あの意地汚い薄笑いを顔に浮かべているのだが、たまにウィルのこと鋭い目で、観察でもしているかのように、見つめていることがあった。
しかし、ウィルも見返していることに気づくと、すぐににやりとした表情になる。
その度にウィルは心の中でローレイのことを毒づいていたが、一方でその鋭い視線の意味がとても気になっていた。
「ウィル様!しっかり聞きなさるのだ。せめて風邪薬の分野だけでもマスターしないと。もう時間がないのですぞ!」
その日、フランクじいが珍しく大きな声を出した。
ウィルの回していたペンが、ポトリと落ちた。
「どうして時間がないの?」
その時フランクじいに、はっとしたような表情が一瞬浮かんだが、すぐに厳しい顔に戻った。
「医族では十五歳くらいまでには薬学の基本的な知識は――もちろん風邪薬もその一つですが――たいていマスターするのです。それなのにウィル様は十五歳になって一ヶ月たちなさっている」
「フランクじい」
ウィルの声にイライラをにじませた。
「僕は、医族、じゃなくて、士族、だよ」
一個一個単語を区切ってはっきりと言う。
「フン」
フランクじいは鼻をならした。フランクじいはかなりの強情な性格の持ち主だ。
「しっかりと教養がある人は、自分の族以外のことも何かと勉強するものですぞ。そしてトム様はあなたが教養がある人になることを望んでいらっしゃいます」
「トムが何と言おう――」
「今日はこれで終わり」
ウィルが反論を言いかけるのさえぎって、フランクじいはきっぱりと言った。
それから、自分の前に広げてある本、『基本薬学』をパタンと閉じ、ウィルに差し出した。
「この本をあげるから、よく家で復習しておくのですぞ」
「フランクじいはもうこの本いらないの?」
ウィルは驚きながら、その本を受け取った。
「私が基本薬学を覚えてないとでも思ってなさるのですか?」
フランクじいが憤然としていった。
「違うよ」
ウィルは慌てて言った。
「ただ、それならどうして今までくれなかったのかなって……」
「もちろんノートに書かせて頭に叩き込ませるためです。ウィル様にはお出来にならなかったようですがの」
「そう……分かった。ありがとう。それじゃ、僕帰るね」
説教第二弾が始まる前に、ウィルは即座にフランクじいの家を飛び出した。
「いよいよですな――ラゼル様……」
元気よくかけていくウィルを窓越しに見ながら、フランクじいはつぶやく。
何も知らないウィルは駆けていく。
これから全てが変わってしまうことも知らないで……。
読んでくださってありがとうございます。
次回ウィルの素性が明らかになります。