闇の島 3
少年はいつもの道を走っていた。
何度も通っている道なのにやはり落ち着かない。
心臓がバクバクと鳴るのをおさえることができない。
外が怖い。部屋の中にいたい。
外に出るといつもそう思う。
外に出てきてしまったことをいつだって後悔するんだ。
だが仕方がない。
ここに暮らしている以上、外に出ないと死んでしまう。
それに、たった一人の自分が敬愛する人を困らせることになる。
それだけはしたくない。
行き場のなかった自分を受け入れてくれた人だ。
それがどんなに小さなところだろうと、あるのと無いのでは天と地の差。
その場所が無ければ、俺の行く場所なんて無い。
この世界のどこにも。
港で開かれる市場。
この島では比較的安全な地域だが、それでもやはり危険に満ちている。
商人達は多少の危険は顧みない。
金のために、この島の港までやってくる。
真夜中の市場に。
少年は汗ばむ手をさらにぎゅっと握りしめた。
その手に握られている袋の中には、頼まれた買い物と蟻族の者からもらった小包が入っている。
少年が走っているのは堤防。
ここなら人がいたらすぐに認知できる。
昼なら。
だが今は真夜中。
この島の住人にとっては活動の時間。
身を潜められる壁などがない分、建物で入り組んだ所よりは安全だ。
少年の左手には砂浜、そして海が広がっている。
今まで読んできた本の中では、海はたいてい綺麗なものとして扱われていた。
だが自分には理解できない。
ここの海は海賊達のフィールド。
海賊達の世界。
この海は毎日哀れな人々も連れてこられる。
リンチに会う人々。
奴隷市に出される人々。
手持ちの物をすべて奪い取られるだけで済んだのなら、それはとても幸運だ。
今日も奴隷市が開催されるらしい。
何でもあの悪名高いウーゴ・グラーク主催だとか。
今回の犠牲者は何人だろうか。
自分にできることは、ほんの少ししかない。
人助けにはお金がかかる。
無一文の俺には何も……。
そこで少年は思考を停止させた。足も同時にとめた。
暗闇に包まれた砂浜で、うごめく人を目の端でとらえたのだ。
息を切らせながらその人影を見つめる。
よく見ると、1人ではない。4人いる。
いる、のだろうか?
2人は膝をついている。この2人は「いる」に違いない。
だがあとの2人は砂浜に倒れていた。
この砂浜で倒れている人はそんなにめずらしくないが、大抵絶命している。
2人は遺体として、あそこに「ある」のかもしれない。
近づかない方がいい。危険だ。
今すぐここから離れろ。
いつもだったら、そう思う。即座にこの場所を後にしているはずだ。
だが不思議とこの時だけは、そのように思わなかった。
直感が告げていた。
行け、と。
あの人達は安全だと。
行かなければならないと。
少年は吸い寄せられるように、その人たちのもとへ向かった。
読んでくださってありがとうございます。
次回は誰かさんの過去にせまります♫
おたのしみに!!