表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/46

闇の島 2

海賊船の倉庫に乗り込み、2時間ほどたった頃。

ローレイによるキリルの尋問は既に終わり、倉庫の中の5人は無言のまま座り込んでいた。

誰も一言も話さない。キリルを除いた4人に関しては、その気力も残されていない。

ウィルも乗り込んだ時はまだ良かったのだが、倉庫に入って安心したせいか、この数時間で疲れがどっときた。ローレイが倉庫の隅で見つけた毛布を身にまとっているが、毛布の中で体が震えていた。海賊の者達に見つかった時のことを考え、服を脱いで乾かすこともできない。


リィとローズの容態はさらにひどかった。2人とも発熱をしているようで、はたから見ると意識があるのかどうか分からない。特にリィはよほどの高熱が出ているらしく、ときどきうなされて、小さく何かつぶやいていた。

ローレイは士族の村で小さい頃から修行を積んできたため、体力には自信があったが、昨晩準備や偵察などでほとんど寝ておらず、またエシミス島を出発してから四六時中神経を尖らせていたので、さすがに疲れ、その目は空中の一点をぼんやりと見つめていた。


キリルの尋問は円滑に進められた。キリルは内部情報を漏らすのに何の抵抗もなかったようだ。自分の命をかけるほどの仲間及び首謀者への忠誠心はなかったらしい。

この襲来の首謀者はウーゴ・グラーク。海賊として名高く、今回は3隻の海賊船を仕切っている。幸いウィル達が乗り込んだ船とは別の船に乗り込んでいるらしい。酒が好きで、いつも手には酒が握られているらしい。この船の海賊たちはほとんど客船に乗り込んでいるが、バヤン島に着くまで客船に待機するという計画であった。今頃は客船の食べ物で宴会をしているだろうとキリルは言った。

ここまで来て、運はようやくウィル達の味方してくれた。バヤン島に着くまでこの今いる部屋にいても、見つかる可能性は極めて低いらしい。だがローレイは油断せず、ドアの前にほこりをかぶっていた本棚を置き、簡単に開かないようにし、野族の者が部屋に入ってくる前に窓から外へ逃げられるようにした。

「それで、お前は何をしていたんだ?」

ローレイの最後の質問はこれだった。

「そうじだよ。お…俺は雑用係なんだ」

ローレイは馬鹿にしたように鼻をならした。

「馬鹿にしたきゃすればいいさ。まっとうな人間にも野族にもなれない俺を」

この時だけキリルは声を荒げた。

「だけどこの方がいいんだ。下手に命を懸けなくてもすむ。危なくなったら逃げられる。小心者の俺にはこれがふさわしいんだ」

キリルの声は次第に小さくなっていき、最後は自分に言い聞かせるようだった。

「そうだな。まぁ、俺達にはお前が好都合だった」

ローレイはそう言うと、尋問を終わらせた。


一時間以上続いた沈黙の後、ふいにローレイが立ち上がった。

他の者達の視線がローレイにそそがれる。

ローレイは窓のところに静かに歩いて行った。

「足音……」

「え?」

ウィルがローレイに聞き返した時、頭上でドタドタという音がした。客船から数人野族の者が戻ってきたようだ。入港準備。キリルがそう言っていた。

「時間みたいだな」

ローレイは振り返って言った。

その顔は今までよりも険しかった。

「これからが、もしかしたら一番の難関かもしれない。体力もあまり残っていない。しかも、これから足をつける島はバヤン島。安全に休息をとれる場所があるかどうかも分からない。でも、死ぬ気で力を振り絞れ。でないと、本当に死ぬからな」

「ああ、そうだ」

同調したのは、仲間ではなく敵だった。

キリルは何度もしきりに頷いた。

「バヤン島。それは恐ろしい島さ。騒動や犯罪が絶えない島。闇の島って言われているんだ。特にお前たちみたいな野族でない者達には、とてつもなく危険な場所だろうな」

「どんなに危険だろうが、俺にとっては野族になり下がって掃除なんかをさせられるぐらいなら、死んだ方がマシだな」

ローレイはキリルの方を見ずに答えた。

「こんなクズと話している場合じゃなかった。行くぞ!」

ローレイの呼び掛けた3人は、それぞれフラフラしながら立ちあがった。

ウィルはふぅっと息をはくと、リィに駆け寄り支えた。

リィの顔の表情を見ると、立っているのが奇跡のように思えた。

「浮き袋があるから溺れはしないだろう。泳ぐのは数十メートルだけだ」

『その数十メートルが今の僕達にとっては…』ウィルはそう言いかけたが、すぐに思い直して口をつぐんだ。ローレイだってきっと分かってる。僕よりもずっと賢く、ずっと有能なんだから。僕はおとなしく従うのが一番だ。

「手のロープだけ切ってくれ!」

窓から飛び降りる準備を始めたウィル達に向かって、キリルが唐突に叫んだ。

「こんな状態で仲間に見つかったら、ひどい仕打ちにあう。なぁ、いろいろ教えてやっただろう?足のロープは君達が行ってからほどく。もちろん君たちのことは、仲間には話さないよ」


ローレイは振り返って溜息をついた。

「話したらお前がひどい目に会うんだろう?仲間のせいで」


読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よろしければ投票お願いします。
オンライン小説検索エンジン NEWVEL 人気ランキング
http://www.newvel.jp/nt/nt.cgi?links=2008-03-1-25117
長編連載小説検索 Wandering Network ランキング
http://ept.s17.xrea.com/WanNe/rank.cgi?mode=r_link&id=7608
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ