闇の島 1
「どうやって乗り込むの?」
ウィルはローレイに大きな声で聞いた。
今、4人は海賊船を見上げていた。
「早くしないと……」
そこでウィルは言葉をきり、リィとローズを順に見た。
言葉を続けなくても、言いたかったことは明白だった。
リィは目を閉じたまま荒い息をしている。さっきよりも苦しそうだ。
ローズはしっかりと目を見開いていたものの、紫色になった唇を震わせていた。
激しい雨と荒い波が、着々と4人の体力と体温を奪っていった。
「ちょっと待っててくれ……」
見ると、ローレイはズボンのポケットを探っていた。
「くそ、手が震えてうまく動かねえ……」
その直後ローレイが取りだしたものを見て、ウィルは舌を巻いた。
やっぱりローレイはただ者じゃない。
大きなかぎ針つきのロープ。
ローレイはそのかぎ針を右手に持つと、海賊船を見上げた。
客船とは違い、海賊船のデッキは低い位置にある。
そのためロープをかけるのに、さほど苦労はしなかった。
4人はすみやかに海賊船に乗り込んだ。
皆無言だった。それだけ、船の上に上がりたいという気持ちが強い。
野族の者達も雨に打たれながらデッキに立っているのが嫌なのか、そこには人がいなかった。
「身を低くしろ」
それでもローレイは慎重さを捨てなかった。
一同はローレイの後について、看板から階下に続く階段の前まできた。
ローレイは立ち止まり、靴と靴下をぬぎ、リュックにしまった。
「足をふくんだ。全身も軽くふいてくれ。服はしぼるのがいいだろうな。ぽたぽたしずくが落ちると、後で見つかりやすいからな」
3人は無言で言う通りにした。
「それくらいでいいだろう。少ししずくが垂れても仕方ない。乾くのには時間がかかる」
ローレイが三人を見渡しながら言った。
「ここからはやつらがいる可能性が高い。できるだけ足音を立てるな。声も出すな」
だがその忠告はウィルならまだしもローズとリィに言う必要はなかった。
リィはもともとぐったりしていて、歩くのも弱々しかったし、ローズはローズで寒さのために顔は蒼白で体を震わせており、話したりどすどす歩いたりする元気はなかった。
ウィルもややぐったりはしていたが、ローズやリィよりはましだった。
ローズやリィはウィルよりも長い間雨に打たれていたからだろう。
ウィルはふと湧き上がった疑問を口にした。
「あの、ローレイ。どこに身を隠せそうな部屋があるか分かるの?」
「分かるわけないだろう」
ローレイは眉をひそめながら言った。
「だが、だいたい予想はつく。行くぞ」
ウィルは口をぎゅっと閉じ、リィ、ローズの後に続いた。
認めるのは悔しいが、ローレイの言う通りにしていれば大丈夫という思いがあった。
廊下を歩いた後、4人はさらに下へと続く階段を下りた。階上に比べ、そこは薄暗く少し汚かった。
ランプの数も少ない。
4人はなるべく静かに歩いたが、そこまで気をつかなくとも外の嵐がその音を消してくれていた。
ローレイが立ち止まったので、後ろの三人も止まった。
突き当りの部屋。
ローレイは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「5、6人くらいまでならいける、だが、それ以上は……。いや、その可能性は極めて低い」
そしてローレイは後ろの三人に呼び掛けた。
「行くぞ」
静かにドアノブを回し、わずかにドアを開ける。
ウィルはローレイがそうするものだと思った。
だが、違った。
右手は剣の柄に置き、左手でドアノブを回し、音は立てなかったものの、いきなり大きく開けた。
そのため4人の視界に一瞬で一人の男が入ってきた。
「お…お前達は一体……」
「一人か…ラッキーだ」
部屋にいた男の言葉は無視して、ローレイが言った。
「暴れられると、他の奴らに聞こえるかもしれねえから、さっそく」
そういうと、ローレイは飛び出した。
「ひぃぃぃぃ!!」
男の悲鳴と同時に、ドスンという音がした。
ウィルが急いで部屋に入ると、男は尻もちをついていた。手には何も持っていない。
自分に向けられた、ローレイの剣を怯えて見ている。
ウィルは少し首をかしげて、男を見つめた。
スキンヘッドの男達とは随分違った体格をしていた。
図体はでかいが、がっしりはしておらず、雪だるまのようにまるまると肥っている。
身長もあまり高い方ではなかった。
少し長めの黒髪はぐしゃぐしゃだ。
「い…命だけは助けてくれ!」
男は嘆願した。
ローレイは呆れ返った顔で肩をすくめた。
「おいウィル、俺の背中のリュックからさっきのロープをとってくれ。そしてローズ、部屋に入ってドアを閉めてくれ」
「どうやら、部屋はビンゴのようだね」
ロープをリュックから取り出し、手渡しながら言った。
その部屋には古びたイスや机、本などガラクタばかりが置いてあった。
ローズとリィは部屋に入ると、壁によりかかって座り込んだ。
「そうだな」
ローレイは相槌を打ちながら、男の両手を縛った。男は抵抗しなかった。余ほど怖かったのか、自分から両手を差し出していた。
続いて尻もちをついた格好のまま、両足を縛る。
「ちょっとでも、大声を出したら」
ローレイはきつく縛りながら脅した。
「命はないと思え」
男は何度も激しく頷いた。
「名前は?」
ローレイが男に聞いた。
「キリル・ベニート……」
ローレイを怯えた目で見上げながら、男は答えた。
ローレイはにやりとした。
「よろしくな、キリル」
その表情は野族の奴らよりも恐ろしかった。
ウィルは寒さのためか、あるいはローレイの恐ろしさのためか小さく身震いをした。
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