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野族襲来 2

「ごめんなさい。盗み聞きするつもりはなかったんだけど……」

声でリィだと、ウィルははっきり分かった。

「別に構わないよ。むしろ今のことを話す手間が省けて良かったよ」

リィが暗がりの中でにっこり笑うのが分かった。リィは先ほどドーラ船長が立っていたところに来て、ウィルと同じように両腕をデッキに乗せた。

「ねぇ、もしかして僕たち案外野族の襲来を回避できるんじゃない?」

「ドーラ船長の言ったことを信用して言っているの?」

リィの声はやや硬かった。

「そ…そうだけど」

「ねぇ、ウォルト」

そこでリィは小さく息をはいた。

「信用したくなる気持ちは、私にもよく分かるけど、油断しない方がいいと思うわ。きっとローレイも私と同じことを言うはずよ。考慮するのに値しないと……」

「どうして?」

ウィルは驚いて聞いた。

「確かにドーラ船長は船族で有名な方で素晴らしい人だと思うけど、野族はね、ウォルト、あなたは知らないかもしれないけど、優れた船族の人達を過去に多く負かしているの。きっと船を乗っ取られた船長達は、襲撃される前ドーラ船長と同じことを考えていたと思うわ。野族なんかにやすやす船を奪われやしないと」

ウィルは黙ってリィの声に耳を傾けていた。

「航路を変えたからと言ったって」

リィはウィルの心を見透かしたかのように言った。

「手引きがこの船にいる以上、何の役にも立たないと思うわ。ディナーパーティの前に飛族の者がやって来ていたし、連絡を取ることもそう難しくはないと思うわ」

ウィルは気持ちが再び沈んでいくのが分かった。

リィの言うことは全く正しいように思えた。ならばやはり明日の午後、野族は……。

じわじわと恐怖心が押し寄せる。


「怖い?」

リィがひっそりとした声で聞いた。

ちょうどその時、厚い雲の間から月の光がさし、リィとウィルの間をも照らした。

ぼやけていたリィの顔がはっきりと見える。

嵐がやって来る前の、生暖かい風がリィとウィルの髪をなびかせる。

「普通の人なら怖いんじゃないの?」

ウィルは目を海の方にそらしながら言った。

月明かりのせいで、空の厚い雲がずっと広がっているのが分かる。ちらりと横を見ると、リィはその雲をじっと眺めていた。雲は広く広がっているが、リィが見ているのは真正面の一点だけ。まるで今にも自分を襲おうとしている者に、対峙しているように。リィも自分と同じ気持ちであることをウィルは悟った。だが、リィはまっすぐに前を見つめている。ウィルも視線をゆっくりと雲に移した。リィは少なくとも僕よりは勇気がある。

「リィやローズと出会ってから、一日もたってないなんて信じられないな」

ウィルはぽつりと言った。

「そうね」リィはウィルの方に視線を戻しながら、静かに言った。

「私も同じ気持ちよ。ウォルトやローレイといると、まるでずっと一緒に旅してきた仲間みたいに、安心した気持になれる」

リィは微笑しながら、ウィルをじっと見つめた。その思慮深い眼差しは、優しくも強かった。月の光に照らされて、リィの明るい茶色の目はいっそう美しく見えた。

「明日の夜、いや明後日の夜も、一緒に旅できていたらいいね」

「つまり、襲撃をうまく逃げ切れればいいね、ということでしょ?」

「うん、そういうこと。でも…そうなる可能性はどれくらい僕たちにはあるのかな?」

ウィルはわざと明日の朝食には何が出されるか予想するような、何気ない調子で聞いた。

「分からないわ」

リィもウィルと同じ調子で答えた。

「でも」そこでリィはふぅっと息をはいた。

「きっととても難しいに違いないわ」


「おもしろいじゃないか」

突然背後から声がした。振り返るとローレイが立っていた。暗くてよく表情は見えない。

「おもしろいじゃないか」

ローレイは繰り返すのと同時に、数歩前に出た。月明りにその顔が照らされる。驚いたことに、ローレイは笑みを浮かべていた。

「ここ数日の退屈を紛らわすのにはちょうどいいスリルだ。俺は絶対にマヌケな海賊どもに捕まったりしない。士族としての名誉にかけても、きっと逃れてみせる。俺達は――」

ローレイは、まっすぐウィルを見た。

「こんな所で、足踏みをしている時間はないんだ」

ウィルもまっすぐにローレイを見つめ返し、そして悟った。

ローレイは普通の人ではないらしい。

一人前の士族とは皆こうなのだろうか。

悔しいけど、勇気があって、冷静で、頼もしいということを認めざるをおえない。


僕もそうなりたい。


ウィルは強くそう思った。


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