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ディナーパーティ 2

ウィルは廊下を走っていた。食堂はあんなにもにぎやかだったのに、ここは静かだ。人は全く見当たらない。

「あのバカ、一体何を考えているのかしら?」

食堂でのローズの怒りの一言。正解は何も。ウィルは何も全く考えていなかった。ただローレイのところに向かって走っていた。これからどうするかとか、自分が行って何になるかとか、そんな考えはウィルの頭の中には全くなかった。ゆえに当然足音のことも考えない。ドタドタと大きな音を立てながら、ウィルは大部屋に向かって行った。


「ローレイ!」

これもまたウィルは大声をあげて、部屋の中に突入した。

返答はない。

ローレイを含め、誰もいなかった。多くのベッドと乗客たちの荷物だけがそこにはあった。ウィルはその場に、立ちすくむ。そして、肩を落とした。

そこでようやく自分の無鉄砲な行動に気づいた。

いったい何をしに僕は駆けてきたのだろうか。

僕が応援に来たところで、どうにかなるのだろうか。

答えは、どう頑張っても否だった。むしろ足手まといになったかもしれない。だいたいあの男が食堂を出たからと言って、何がそんなに危険なんだ?ローレイと鉢合わせしたって、手紙をとるところさえ見られなければ大丈夫じゃないか。きっとローレイのことだから、もう食堂に戻っているに違いない。

ウィルは回れ右して、食堂に向かってとぼとぼと歩き始めた。きっとローレイやローズにいろいろうるさく言われ、馬鹿にされるに違いない。言われるだろうことを想像すると、ウィルの歩調はより遅くなった。


「ドン!!」

ウィルの足はピタっと停止した。階下から何かが壊れるような音が聞こえた。

数秒後。

「ドン!!」

また同じ音だ。木が折れるような音。ここでこんなに聞こえるのだから、きっと下で何かが激しく損傷しているに違いない。ウィルは耳をすませた。

「ドン!!」

食堂に行きたくないという強い気持ちが、ウィルに素敵な選択肢を与えた。そしてウィルは誘惑に負け、また無鉄砲な行動に出始めた。



一方食堂では、ローズとリィがひそひそと緊急会議を開いていた。

「ウォルト、本当に大丈夫かしら」

リィが溜息をついていった。

「私が演奏にうっとりしていなければ、こんなことにはならなかったのに」

「何言ってんのよ!」

ローズは憤然として言った。

「あのバカが悪いのよ。何の考えもなしに、しかもたいして役にたたないくせに走り出すから。全くのアホよ!」

「役立たずかどうかは、分からないでしょ?」リィはなだめるように言った。

「分かり切ってるわ!外見に出てるじゃない。あれは100%役立たずよ。それより私が一番心配なのはね、」

リィが声のボリュームを落とすよう手で示したので、ローズは声をひそめて言った。

「あいつがローレイの足を引っ張って危険な事態にならないかってこと」

「でも手紙を押収する現場さえ見られなければ、何も危険なことにはならないと思うわ」

「そもそもあの男はどうして食堂を出たのかしら?」

「分からないわ」リィは肩をすくめた。

「単純な理由の可能性が高いと思うわ。ひと眠りしたいとか……。単純でない場合を考えるなら……」

「考えるなら?」ローズが先を促した。

「みんなが食堂に集まっているうちに、ボートを壊す…とか?」

「まだ壊してなかったらということ?でも、それは真夜中でもいいわよね。壊すくらいあのバカでかい男達なら数秒でしょ?どうせボートなんて2,3隻だろうし……」

「そうよね。いくらなんでも考えすぎよね。とりあえず、私達は帰ってくるのを待ちましょう」

「ええ」ローズは頷いた。

「全然心配することないわ。直にローレイもあのバカも帰ってくるわ」



その頃、「あのバカ」と言われた少年は、は大きな音をさっきから出している部屋の前にたどりついていた。そこは上の階に比べて薄暗く、廊下には等間隔に小さなランプが取り付けられていた。ウィルは息をひそめ、耳をすませてじっと立っていた。ドアはわずかに数センチ開いており、中から光が漏れている。相変わらずで「ドン!」という音は、同じペース続いていた。加えて、ここからは中の人の足音も聞こえた。どうやら一人しかいないようだ。「ドン!」という音の後に数歩動く音が、これも同じペースで繰り返されていた。ウィルは深呼吸したあと、吸い寄せられるように一歩ドアに近づき、そっとノブに手をかけた。自分の心臓がバクバクしているのが聞こえる。ウィルの頭の中の一部が先ほどから、危険信号を出していた。だが、好奇心の方が断然強い。心が今の緊迫した状況で満たされる。このたまらないスリル感。ここ数日の憂さを晴らすのに最適だ。

別にのぞき見するくらい、何の危険もないさ。ウィルは自分の頭の片隅に語りかけた。溜まりに溜まっていたストレスが、ウィルの理性を狂わせた。バレなければ、どうってことないじゃないか。

ウィルはノブをぎゅっと握りしめた。ノブは冷たく、ひやっとした。続けて、10センチ程ドアをひき、ウィルは顔を隙間にぐっと近づけた。


音の発信者は、ある程度予想はついていたが、あのスキンヘッドの男だった。ウィルに背をむける形で立っていた。ドアの隙間が小さいため、男の右半分しか見えなかった。男は筋肉が盛り上がった太い右腕を勢いよく下におろして大きな音を立てている。そして、何かをまたいで一歩前に進み、また右腕を振り上げた。同じ動作が3回続いたあと、ウィルはもっと中をよく見ようとドアをさらに開いた。

あっと声が出そうになるのを、ウィルは何とかこらえた。目に入ったのは、真っ二つに折られたボート達の残骸だった。部屋は思ったよりも広く、多くのボートが積まれていることが分かった。もう男の全身が見えた。ウィルが顔つっこんで部屋を見渡している間にも、男はボートを壊し続けた。

ローレイはこのことを知っているのだろうか。ウィルがそう考えた、ちょうどその時。男がふいに動きをとめた。ドアのところから10メートルくらい離れたところ。ウィルの体も緊張で硬直した。

「おかしい」男はうなるように独り言を言った。

「あと4隻。壊したのが15隻だから、全部で19隻ということになる。20隻と聞いていたのに……。数え間違えたか?」そして男は太い毛むくじゃらの左の足を一歩下げ、こちらに向き直ろうとした。


ウィルはビクっとして、すぐに首をひっこめた。そこまでは良かった。だが慌てすぎてドアをバタンと閉めてしまった。

「誰だ?誰かそこにいるのか?」

予想通り、男の鋭い声がした。続けて、こっちに向かってくる足音が聞こえる。

ウィルは逃げようとした。だが、足が動かない。ウィルはドアを絶望した目で見つめた。逃げろという頭の命令を体が聞いてくれない。根が生えたかのように、ウィルはその場に立ち尽くしていた。

足音がせまってくる。

あと4、5歩でアウトだ。動いてもないのに息がはやい。心臓の音がバクバクと聞こえる。

あと2歩。

ウィルはぎゅっと目を閉じた。

見つかる!



読んでくださってありがとうございます。

次の更新を来週中にできるようがんばります。

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