2人の少女 3
「今なんて――」
「いや」
ウィルが聞き返そうとしたところを、ローレイが遮った。
「その情報はどこから手に入れた?信憑性はどれくらいある?正確な時間はわかるのか?そして――」
「ストップ、ストップ!」
ローズが手を上げてうんざりしたように言った。
「ちゃんと答えるから一問ずつきいてくれる? まず情報源はどこからというと――」
「さっき私が、こっちに来ると言っていた男です」
リィが後を引き取って言った。
「ですが、あの男から話を聞いたわけではなく、あの男に届けられた手紙を読んで知ったんです。私たちはあなた方とは違って大部屋に宿泊しています。つまり、他の人も一緒に寝るわけです。隣があの男でした」
「さっき君はその男に見つかると大変みたいなことを言っていたよな?それは、どうしてだ?」
ローレイが聞いた。
「ローズが落ちている手紙を見つけて、読んだんです。手紙はその男のベッドの下に落ちていました。ローズが読んでいる時、その男は部屋にはいませんでした。けれど、帰って来たんです」
「あたしはとっさに今手紙を拾ったばかりのような振りをしたわ! でも、その男は察したみたい」
ローズは項垂れた。
リィはその横で小刻みに震えながら手で腕をさすっていた。
「それ以来私たち、あの男に監視されているみたいで……」
「手紙には何て書いてあったの?」
ウィルが恐々(こわごわ)と聞いた。
「仲間からの手紙だったわ」
ローズが答えた。
「こちらは順調。明日の午後、予定通りこの船を襲う。この前決められた持ち場に必ずいるように。取引相手に金を渡すのは、バヤン島に着いた後。襲撃時に何かまずいことがあれば、赤の服を着てデッキに立っていろ」
「正確な時間は書いていなかったんだな」
「ええ」
ローズは頷いた。
「他に仲間は?」
「見たところでは、もう一人いると思う。その男のもう一方の隣の人。趣味の悪いデザインの毛糸の帽子をかぶった男で、あたしは二人がひそひそ話で何度か話しているのを見たわ」
「その帽子男が、手紙に書かれてあった『取引相手』か?」
ローズは首を振った。
「そこまでは分からないわ」
「私の推測では……」
リィがためらいながら言った。
「推測では?」
「この船の船員が取引相手ではないかと思っています。何の取引なのか、これも推測の域です。けれどもし私が海賊ならお金を出して、船に関する詳しい情報を手に入れようとします」
「確かにその通りだな」
ローレイは頷いた。
「だが、その話が全部真実だと示す証拠はあるか?」
ローレイは眉をひそめながら言った。
「飲みこみが悪いわね!!」
ローズがまたもやうんざりしたように言う。
「あたしたちが、あなた達に必死に助けを求めている。これが大きな証拠よ!早くどうにかしないと、あたしたちは明日捕らえられるのよ! まんまとあのアホ顔の男たちに!」
ローレイは右手で顎を掴みながら、辺りを往ったり来たりし始めた。
しばらく4人とも黙りこくったままだった。
聞こえるのはローレイの足音のみ。
ふと足音が止んだ。
ローレイは大きくふーっと息を吐いた。
そして。
「ここを脱出するしかないな」
「脱出……」
ウィルは蒼くなりながらつぶやいた。
どうして僕はこんなについていないのだろうか……。
これからの旅は、ずっとこんな風に続いて行くのだろうか。もしそうなら、ゲームオーバーはそう遠くない未来にやってくる可能性が高い……。
「あの……」
リィだ。
「脱出はダメだと思います」
「どうしてそう思うんだ?」
「脱出ボートはもうあの男が壊している可能性が高いと思うんです。手紙の内容から、入念に計画を立てていたことが窺えますし……。それに、ボートで漕ぎ出すのも得策だとは思えません。海に関する専門知識を兼ね備えているならまだしも、素人がすると遭難する可能性が高いと思います」
「確かにボートで脱出するのは危険だわ」
ローズが賛同した。
「それならどうするの? やすやすと捕まるの?」
ウィルが聞いた。
「もちろん、そうならないように何とか案を考えるのよ!!」
ローレイは再び往ったり来たりをし始めた。
「あの……」
もちろん、今度もリィだ。
「何だ?」
「私に考えがあるんです。少しリスクが高いけど、何もしないで捕まるよりはマシだと思います」
「考えを聞かせてもらおうか。君なら信頼できそうだ」
「君ならって、ちょっと誰と比較して言ってんのよ!」
ローズがローレイに食ってかかった。「なら」というところに皮肉が込められていたのを、聞き逃さなかったらしい。
ローレイはローズを気にも留めず、リィに話すよう合図した。
「あの……」
今度はリィではなく、ウィルだ。
ウィルは無視されないように、手を挙げて言った。
「何よ?」
ローズが機嫌の悪い声を出した。
「僕まだ分からないことがたくさん……」
「何が分からないのよ?」
聞かぬは一生の恥だ。ウィルは自分にそう言い聞かせて、口を開いた。
「海賊とは一体どんなことをするのか。それと手紙に書いてあった、バヤン島ってどこにあってどんなところなのか。僕は……訳ありで普通の人よりも物事をよく知らないんだ」
ウィルは俯きながら付け加えた。
ローレイはやれやれといったように頭を振りながら、ベッドに腰かけた。
「君を相手にすると、時間がかかるな」
「はい? 常識がないっていっても限度があるでしょうが! 22の島を全部知らない人はざらにいるけど、バヤン島を知らない人はめったにお目にかかれないわ」
ローズは感心したように言ったが、それがウィルをかなりへこませた。
聞くは一時の地獄……。
「ローズ、失礼よ。訳ありのご様子なのに……。私が教えてあげますね」
ウィルは嬉しくて感謝の眼差しをリィに向けた。
親切な人だ。
こんな人が正真正銘の女の子に違いない。
「海賊は野族の者たちの一つの集団なんです」
「野族?」
「野族とはならず物の集団です。もともと、野族という族は存在していなかったんですが、さまざまな族から集まった者達が、自分たちのカラーを灰色に染めて、野族と名乗ったんです。野族はいろいろな悪事に手を染める者が多く――」
「多いというかほとんど全員でしょ?」
ローズが口を挟んだ。
リィは頷いた。
「そのとおりね。それで、海賊とは一般的に野族で海で悪事を働く者達のことを指すんです。具体的には船を襲って盗みを働くのはもちろん、人身売買も行っています」
「人身売買!?」
「ええ」
リィの顔に影が差した。
「先程話した平族奴隷派の中心は野族の者達で、平族を手当たりしだい捕まえては奴隷市にかけるんです。最近では、あまり力のない族の者も市場に狩りだされます」
「市に出された後、どうなるの?」
「貴族の者達が買うのよ」
答えたのはローズだった。苦々しそうな顔をしている。
「貴族と野族は表立っては関わらないけど、裏では密接な関係を結んでいるわ。上品な顔をして踏ん反り返っているくせに、裏でやることはやってるのよね」
「明日の午後、僕たちは捕まったら……」
「私は確実に市場行きです。あなたたちは、どうかは分かりません。私、あなた方のカラーを知りませんから……」
「そうよ!」
ローズは突然思い出したように言った。
「私たち、まだあなた達の名前とカラーを聞いていないわ!」
「言う必要があるのか?」
ローレイが抑揚のない声で聞いた。
いつのまにかベッドに仰向けに寝ている。
「当然よ! 私達はちゃんと名乗ったじゃない! 人には言わせておいて、自分達は言わないつもり?」
「俺はやすやすと人に名乗らない。名乗るのは必要性がある時だけだ」
「卑怯者!私達には名乗らせておいて」
「嫌なら名乗らなければよかったんだろ」
ウィルは近くにいるローズの熱が上がっていくのを感じた。
助けを求めてリィを見る。
「ローズ、落ち着いて。何か事情があるみたいだし、仕方ないじゃない。とにかく、今は自分たちの身を守る策を練るのが先よ」
「そうだな」
その時だ。
「ドンドン」
ドアをノックする音がした。
「誰かしら?」
ローズが小声で言った。
例の男ではないかと、警戒しているのが分かる。
ウィルはローレイも警戒しているのを背中で感じた。
しかし。
「おいウォルト! いねぇのか? ウォルト!」
ケンだ。
「大丈夫だよ。船員のケンだ」
そばで、ローズとリィが力を抜くのが分かった。
ウィルはドアを開けた。
「寝てたのかい?」
ケンは笑って言った。
「おや、友達?」
「うん」
ウィルはローズ達をちらと振り返りながら言った。
同時に目の隅でまだ警戒を解いていないローレイを捕らえた。
「ほらよ」
ケンは一枚の紙をウィルに渡した。
何かのプログラムが載っている。
「何これ?」
「今日ディナーパーティがあるんだ! それはその時の催しのプログラムよぉ。第二食堂で。船長も顔をだすぞ」
「へぇ〜」
「音楽の演奏とかもある。楽しいからみんなで来いや。きっと知り合いも増えるぞ。王都リフラーがあるオーラムステッラ島にはまだ6日ほどかかるから、知り合いを増やして楽しんだほうが得だぜ」
オーラムステッラ島。
おばさんの家があるところだが、エカルイア家と貴族もいる。
世界の中心。
「分かった。ありがとう」
ケンは頷くと、去って行った。
「どうするの?出るの?」
ローズがプログラムの紙を覗きながら言った。
「この状態では出れないんじゃない?」
ウィルは惜しそうに言った。
音楽演奏を聴いたことがないので、ぜひとも参加したかったのだ。
「出席したほうがいいと思います」
リィが言った。
「え?」
「だって、出席しなかったら逆に危ないと思います。特にあの男。私達は奴隷市には最適だから、絶対に逃げられたくないはず。多分このパーティーにはほとんどの人が出席するでしょ?そしたら、男にとっては人に見られず私達を捕まえておく絶好のチャンスになります」
「なるほどね。人と一緒にいる方が安全ね。男達はまだ他の人々に襲来のことを知られたくないはずだから」
ローズが頷きながら言った。
「そうだな」
ローレイも納得したようだ。
やった!
音楽の演奏が聴ける!
ウィルは能天気に喜んだ。
「それはそうと」
ローズがウィルの方を向いた。
「あなた、名前はウォルトっていうのね。苗字は?名前くらいいいでしょ?呼ぶ時に困るわ」
「え…えっと……」
「ウォルト・キャラハンだ」
ローレイが脅すような目つきでウィルを見ながら言った。
「名前くらいはいいだろう。俺はローレイ・ジャティス」
「歳は? 私とリィは二人とも15歳よ」
「き…君たちと同じ歳だよ。ただローレイは1つ上」
「ふ〜ん」
ローズは何かを探るような目で、ウィルを覗きこんだ。
ウィルは冷汗がたれた。隠し事するのは、得意ではない。
「さてと」
ローレイが切り出した。
「ディナーパーティまでまだ時間がある。作戦会議をしようか?」
ウィルとローズは、同時に膨れ面をした。
リィに特定して言われたセリフだと、はっきり分かったからだ。
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