ろくろっくびは月を見るのか
「ろくろっくびは月を見るのでしょうか」
空になった箱を弄びながら君が言う。
「見ているうちに、どんどん首が伸びてしまいそうだよねぇ」
自分の声はなんだか高くて耳障りだから、なるべく小さな声で返事をした。
「遠くのものを見ようとすると、自分の首がそこめがけて行ってしまうんだから、ゆっくり眺めることができないのかな。」君の声は低くて落ち着いていて、とても好きだ、そう思う。
ふと君は手元のメータに目を遣ると、ガチャガチャと酸素ボンベの交換する。
「そうだねぇ」
私と君は月を見ていた。
「いつか私たちは、あそこで暮らすのだろうか」
君が言う。
「そしたら、私たちだって月が見れなくなるね」
「それは困るな。私は月から月を眺めたい」
窓を外からくじらが覆い、まるで夜のようになった。「私はここからで十分だなぁ」引き出しから提灯アンコウを取り出してテーブルに置く。
「近くなりすぎては、結局何も見えなくなりますよ。私たちはろくろっくびでは無いのですから、ゆっくり遠くから眺めていましょうよ」
「それもそうですね」
今日も私の家は白く染まり、数匹の魚たちと眠りについた。