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生闇斬魔  作者: 湖林
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井の中の蛙?その2

 教室には、始業まで随分時間があるのに、結構多くの人が来ていた。


「それで?なんだ、この手紙は?」


 ルカとカズヤはハルトの机に集まって、ラブレターのことを話している。


「だから、ラブレターだって、読んでみれば解るわよ」


 カズヤは言われたとおり、手紙を開封して目を通してみた。


「どうだ?カズヤ」


「ああ、やっぱ果たし状だな。今日の放課後、屋上に来いと書かれてる。しかも、差出人が書かれていない」


 そう言って少し困った様に笑っているカズヤ。


「だ~か~ら~!それは!」


「おはようございます!ハルト君にカズヤさん、それに氷神さん」


 ルカが喋っている途中で、双子の妹、マナが割って入ってきた。ルカもいるのだが昨日の事は全く気にしていない様子。


「何をやっているんですか?」


「マナを見て思い出したんだが、ルカ、昨日のことミナに謝っとけよ」


 完全にマナを無視してルカに話す。


「む~、無視しないで下さいよ~」


 そう言ってハルトにくってかかるが、そんなマナを更に無視する。


「そうね、そうした方が良いわよね」


 ハルトの言葉を聞いて、そう考えるルカ。


「あ、そのことなら大丈夫です。ミナは全然気にしてませんでしたよ。なんか、昨日は体調が悪かっただけだとかなんとか言ってましたし」


 それを聞いた瞬間、ルカはハルトの机に頭突きをかましそうになった。


「そ、そうなの(なんて、プラス思考な娘なの)」


「そうなんです。ということで、改めて初めまして、水叉ミナの双子の妹のマナです。以後宜しくお願いします。マナって呼んで下さいね」


 そう言って、ヘニャリとした笑顔を見せる。なにか母性本能をくすぐられる様な笑い方だ。


「私のことは、ルカで良いわよ。宜しくね、マナ」


 そう言って、ルカも笑顔を見せた。


「それで、さっきは何の話しをしていたんですか?」


「おお、こいつについてだ」


 カズヤはそう言ってマナに自分が貰ったピンク色の便せんを見せた。


「へ~、ラブレタ~ってやつですか。取りあえず、今日の放課後その場所に行ってみれば解りますよ。ところで、ハルト君は貰ってないでしょうね?」


 そう言って、ハルトの方に笑顔で振り返る。ただし、目が笑っていないが。


「ああ、貰ってないが、それがどうかしたのか?」


「いえいえ、貰っていなければいいんですよ~」


 ハルトには、いまいちマナの言わんとすることが理解できな。


「おまえラブレターなんか貰いやがったのか!!」


 今度はタクヤが教室に入ってカズヤの手にある手紙を見るなり、カズヤに突っかかってきた。


「朝っぱらからうるせーよ!!」


 そんな台詞に耳も貸さずに、タクヤはギャーギャーと騒いでいる。マナはルカと女子トークで盛り上がっている。ハルトは話す相手がいなくなったので、いつも通り机に突っ伏して眠りについた。それぞれの行動はチャイムが鳴るまで続いたそうだ。ちなみにチャイムが鳴る寸前に元気良く入ってきた女子生徒がいた。



 内容以外は代わり映えの無い授業が終わり、放課後になった。ルカと、カズヤは手紙に書かれていた場所に向かって、教室を後にしする。二人は去り際に、ハルトは教室で待っている様に頼まれた。というわけで、今ハルトは教室にいる。ミナは空手部の部活動、タクヤは「合コンだー!!!!」とか叫んで、ホームルームの直後教室から走り去った。今教室にいるのはマナとハルトだけだった。ちなみにホームルームが終わってから、すでに20分経っている。


「そろそろ、帰ってくるころですよね~」


 久々にハルトと二人っきりで話せてご満悦の様子のマナ。


「ただいまー」


 噂をすれば何とやら、ルカが教室に戻ってきた。


「どうでしたか?」


「うん、きっちり振ってきたよ」


「おまえ、相手を殴ったりしてないだろうな?」


「アハハハハ、わ、私がそんなことするわけないじゃない」


 頭の後ろに手を持っていって、乾いた笑いを見せる。次の日数人の男子が怪我のせいで欠席したとかしないとか。


「はぁ、疲れた」


 最後に教室に姿を見せたのは、カズヤだ。なにやらお疲れのご様子。


「どうした?」


「いや、屋上行ったら、女子が一人いて好きって言われたんだが」


「それでどうしたんですか?」


 マナが身を乗り出して興奮気味に聞く。


「丁寧にお断りした。そしたら、泣きながら走り去ったよ」


「うわー、かわいそー。ちゃんとフォローとかしなかったんでしょ?」


 そう言って、少し軽蔑の眼差しを向けるルカ。自分のことは完全に棚に上げている。


「ん?それだけなら、なんでそんなに疲れてるんだ?」


「ああ、その女の子が去った後に何故か男が十数人屋上に入ってきてぐるりと囲まれてな」


 その後、その男共を全員気絶させて屋上を去ってきたらしい。男共がカズヤを襲った理由は、どうやらカズヤに告白した女子に関係があるらしい。なんでも、その女の子のファンだとかなんだとか、なんだとか。逆恨みもいいとこだ。


 ハルト達四人はさっさと帰り支度を済ませて帰路についた。


「おまえ、これから大変そうだな」


「いや、別に。むしろ最近退屈だったし丁度良いって感じだぜ」


 ハルトの隣を歩いているカズヤの顔を見ると、少し嬉しそうな顔をしている。さっきまでげんなりしてたのは、どこに行ったのかと問い詰めたくなる。


「あっ、じゃあ私こっちですから。また明日」


 途中の別れ道で、マナは手を振って少し名残惜しそうに、ハルト達とは別の方に向かって歩いていった。


「どうする?もうすぐあの日だろ?今年も付いて行っていいか?」


 マナと別れてから暫く歩いたところでカズヤは渉に話しかけた。ハルトの顔が少し曇ったが直ぐに、かまわないと返事をした。


「何の話ししてるの?」


 主語も何もない会話なので、ルカには理解出来なかった。


「いや。ただの夏休みの予定だ」


「ふーん、ねぇ、何処行くか解らないけど私も付いて行っていい?」


「止めときな。付いて行っても氷神は歓迎されない」


 ハルトが答えにくそうにしていると、隣からカズヤのフォローが入った。


「なんでよ?」


 カズヤの物言いに少しカチンと来たのか語尾を荒げる。


「悪い、連れて行けない」


 ハルトの声に含まれている寂しさを敏感に感じ取り、ルカは黙り込んでしまった。そしてそれぞれの家に着くまで無言だった。



「お帰りなさい、兄さん。それと、いらっしゃい?ルカさん」


「ああ、ただいま。なんでルカが中に入ってきてるんだ?」


 後ろを振り向くと、さっき家の前で別れたはずのルカの姿が其処にあった。


「ちょ、ちょっとユキヨちゃんに聞きたいことがあってね。べ、別に家に誰もいなくて寂しいなんて思ってないんだからね!!」


 思いっきり墓穴を掘っている事に気付いてないのだろうか?


「ユキヨ、夕食一人分追加だ」


「わかった」


 ユキヨはそう言って台所に戻って行った。


 いったんルカに着替えやら何やらを家に取りに行かせた。そして今は三人で食卓を囲んでいる。


「悪いわね、またご馳走になっちゃって」


 全然悪そうに言っていない。仲が良くなった証拠だろうか?


「別に、二人分も三人分も変わらないから、お金は余るほどあるし」


 二人の生活費はハルトの昔貯めた貯金(大部分は衛生中立国の銀行に預けてあるらしい)から出ているのだが、その額は普通に一生遊んで暮らせる程ある。昔に汗水、もとい血を流しながら溜めた物だ。


「ああ、別に毎日食いに来てもかまわないぞ」


「えっ、いいの。じゃあ、そうしようかな」


「うちに泊まっていきたい時は、二階の一番手前の部屋空いているから使ってもいい。一応ベッドと、タンスは置いてあるから」


 なんて親切な兄妹なのだろう。そう思いつつ、ルカはこの家に住み着こうと思ってたりもする。別にお金は実家からかなりの額が入ってくるので困ってはいないのだが、人の温かさに飢え始めている自分がいる。今までずっと、多くの人の中で可愛いがられながら育ってきたのでなおさらだった。


「ありがとう、そうさせて貰う」


「それで、私に話しって何?」


「えーと、は、話しね。えーと、うーんと」


 建前として使った理由に中身なんてないので、ユキヨへの質問なんて一切、考えてきていない。


「そ、そう、ユキヨちゃんってあんなに強いでしょ?何処か属している組織でもあるのかなー、なんて思ったんだけど」


 今咄嗟に思いついた事を聞く。さも今考えつきましたって感じである。


「組織?」


 ユキヨの表情が少し曇る。


「い、いや、刀も持ってるし、政府とか何とか昨日言ってたから。べ、別に言いたくないならいいよ」


「別に今は属してはいないけど、政府に知り合いがいるの」


 ユキヨの“今は”という台詞に引っかかったが、これ以上突っ込むと場の雰囲気が一層暗くなってしまいそうなので聞かないことにした。


 

 夕食も終わり、ハルトは自室のベランダで夜空を見上げていた。


「よぉ、どういう風の吹き回しだ?」


 突然、横から声を掛けられる。気付けばベランダにカズヤが姿を現していた。


「ルカのことか?」


「ああ」


「ただの気紛れだよ。別に深い意味はない。あえて言うなら、ユキヨのためだ。それに、ルカはこのままにしておくと、近い将来死ぬよ」


「別にお前がそう決めたなら勝手にするといい。ただ、俺の前に立ちふさがった場合」


 カズヤが獰猛な笑みを浮かべる。


「ああ、その時は俺が責任をもって始末する」


 それを聞けて安心したぜ、と残しカズヤは姿を消した。



「もうすぐ夏休みか。今年も行くからな、星夜せいよ


 カズヤがいなくなった後に、ハルトは自室のベランダから、星空を見上げ独り言ちる。空には星が輝き、緩やかな風がほほを撫で、鈴虫の音が心地よい、本当に穏やかな夜だった。

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