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生闇斬魔  作者: 湖林
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空色の心 ~信頼の色~ その3

 カズヤは冷静にサファイの動きを追っていた。サファイの呼吸、筋肉の動き、目の動きを読み、何処に攻撃してくるかを予測しようとする。さすがのカズヤでも次のサファイの攻撃を喰らったら確実に致命打になる。下手をすれば当たった部分が消滅してしまうかもしれない。サファイの攻撃はかわすか、《気》をため込んだ手の平で受け流す以外、防ぐ方法はない。カズヤは完全に後手に回ろうとしていた。サファイの攻撃を受け切れれば勝てるのだ。一方サファイは先手に回るしかない。時間があまりにもない、刻一刻と限界が迫ってきている。相手の出方など伺っている余裕はない。

 当然、サファイが動いた。間合いを詰め、赤く光る右腕をカズヤに向かって突き出す。


 ビシィィィィ!!!


 サファイの攻撃を、《気》をありったけ込めた左手で受け止める。ガラスにヒビのはいるような音が木霊して、何とかサファイの右拳がカズヤの左手に収まった。このままこの手を払って攻撃をくわえればこの戦いは終わる。


「おらぁぁぁぁぁ!!」


 サファイが吠えた瞬間、カズヤの左手に受け止められていた右拳が、腕ごと砕け散った。

腕の内部から《気》を爆発させたのだ。《妖》に戻れば腕は直ぐに再生できる。かなり度胸のいる自爆攻撃だ。結果、腕の肉片は大量《気》を纏ったまま、四方八方に飛び散る。サファイもカズヤも避けきれずに、肌を無数に裂かれ、深いダメージを負った。

中でも、カズヤの右腕はずたずたに切り刻まれてしまった。普通ならもうこの戦いで使用するのは無理だろう。


 ギリッ!!


 サファイが歯を食いしばり、残っている左手で突きを出してきた。正真正銘これが最後の攻撃だ。

 カズヤは血で赤く染まっている右腕を使い、その攻撃を受け止めようとする。右腕は動かせば激痛が走る程ダメージを受けているにも関わらず、本当に痛みを感じているのか、疑いたくなるほど、スムーズに腕を動かせて見せた。

 サファイの右手爆発という予想外の攻撃にも、右腕に走る激痛にも全く動じはしなかった。いや、そんな自爆攻撃を目の当たりにしてもカズヤは笑っていた。

 今の、『微笑の死神』のカズヤには冷静にその後のサファイの攻撃を予測できた。先ほど、右腕に赤い《気》を纏った他に、影で左手にも《気》を纏ったのを見逃してはいない。


 ビキィ!!


 サファイの左腕とカズヤの右腕がぶつかり、互いの腕から耳触りな嫌な音が響いた。カズヤの骨が折れる音と、サファイの腕が砕ける音だ。


「ちっ、やっぱお前は化け物だ」


 そんなことを口にしたあと、サファイの姿が見る見る変化し元の《妖》の姿に戻った。


「あばよ」


 冷たく笑うカズヤの右腕がサファイを襲う。この長い勝負が終わりを告げる瞬間だ。


 グサリッ!!


「……!!」


「……ルビィ!?」


 最後の瞬間にルビィがサファイとカズヤの間に割り込んできた。カズヤは腕を止めることが出来ず、ふたり一緒に貫いた。このことで、カズヤの精神状態が通常へと引き戻された。

 カズヤの腕を赤と青の血が伝う。カズヤに背を向けて飛び込んできたルビィのA級《妖》の赤黒い血と、サファイのAA級《妖》としての青い血が混ざり合って紫色にカズヤの手を染める。


「サファイ……。ごめんなさい。役に立てなかった」


 ルビィが口から血を出しながらサファイを抱き締める。サファイもルビィを抱き締め返す。もうすぐカズヤによって二人とも殺されるだろう。その前に、互いのことをいっぱい感じておきたかった。そうすれば、死ぬのは怖くなかった。

 カズヤは血で濡れた右手をサファイ達から引き抜くと、地面に手を付き《気》の炎でサファイ達を覆った。


「羽馬」


 ルカが呆然と立っている・・・。


「……なんで?……なんで殺したのよ!!ルビィは悪い《妖》じゃなかったのに!!」


 そのまま膝を地面に着くと、カズヤに向かって怒鳴り散らした・・・。


「知るか。俺に向かってきたのはあっちの方だ。俺はおまえみたいに甘くねぇんだよ。それに俺達は遊びで戦っているわけじゃねぇ!殺し合いをしているんだよ!!」


 カズヤは既に通常の精神状態に戻っている。顔から感情は伺えない。


「でも!!」


 トン


 カズヤの姿がぶれて、次の瞬間にはルカは意識を失っていた。


「わりぃな。言い争ってる暇はねぇんだ」


 ルカを近くの木にも垂れかけさせた。


「どういうつもりだ?何故首を飛ばさなかった?お前なら簡単だったはずだろ?」


 炎の中から声が聞こえてくる。


「取りあえず、この戦いが終わるまで何処かに隠れていろ。戦いが終わったら、村の一員にでもなれ。まぁ、おまえらがよければだがな」


 サファイの声を無視して、カズヤは誰も存在しない空間に喋り始めた。


「お前らの存在を把握しているのは俺だけだ。『漆黒の天使』に狙われることもねぇだろう。あいつ、今回は無差別に敵を殺すだろうから、あいつの気が収まるのを待ってろ」


 カズヤが手を一振りすると、カズヤの後ろでメラメラと燃えていた炎が一瞬でかき消えた。サファイとルビィの姿が露わになる。サファイ達は腹部に穴が空いてはいるものの、しっかりと二本の足で地面に立っている。サファイ達を囲むように草や土が黒く焦げていた。


「おまえは……」


 サファイがカズヤに向かって何か言おうとしたが、カズヤに手で制された。


「随分と独り言を喋っちまった。まぁ、また戦いてぇもんだな。っと、そろそろここを動きてぇんだが、死体が消えるのを見ねぇとここを動けねぇんだよな」


 カズヤはサファイ達に背中を向け、空に向かって喋った。


「悪い、お前の言葉に甘えさせて貰うことにするぜ」


「空耳か?死体は喋らねぇもんだ」


 カズヤのその言葉の直後、背後から二人分の気配が消えた。


「ちっ、ガラでもねぇことしちまったぜ」


 そう言いながらも、少し嬉しそうなカズヤだった。

 静かだった森には再び蝉の鳴き声が戻ってきた。


「さて、この足手纏いを運ぶか。晴斗はるとと戦いたかったが、これじゃあ当分お預けだな」


 動かそうとしても、カズヤの意に反して右腕は指すらもピクリと動こうとはしてくれない。ズキズキと鈍い痛みが右手を支配している。

 ルカに歩み寄り、担ごうとした、その時だった。


 ゾクリ


 森が揺れた。蝉や鈴虫も一瞬で鳴き止む。背筋を這うような嫌な感覚。

 体が震えた、全身から嫌な汗がだらだらと流れてくる。とても懐かしい感覚と、とても恐ろしい感覚を体全体で感じる。


「やべぇな、こりゃ……。ハルトの奴、予想外のキレッぷりだぜ。まさかここまでとはな。長い間《気》をまともに使っていなかったから制御が出来てねぇのか?良かったぜ、氷神こおりがみの奴を気絶させておいて」


 ルカの方へ歩み寄り、ルカを左肩に背負うと、直ぐに村に向かって走り出した。村のシェルターには《気》を通さない結界が張ってある。気絶している間は文字通り“《気》を絶つ”状態なので、《気》を感じることはない。今の消耗しきったルカがハルトの《殺気》を感じたら相当ヤバイだろう。直ぐに気絶してしまうか、あるいは精神が壊れるか。


「ちっ、今日はさんざんな日だな。ちょっとラウェルってやつに興味があったが、ハルトの戦いに俺が首を突っ込むのはマナー違反か。まぁ、今回はもう満足だから、休ませてもらうか」


 一人でそう呟いて、何処か清々しい表情で笑った。その笑顔は年相応の心からの笑顔だった。戦いの中では決して見せない綺麗な笑顔だった。

 



 この後、右腕の傷は全治2ヶ月と診断され、かなりへこむことになる。更に、起きたルカに大泣きされたり、ミズナ(みずな)に下手な看病をされたりとかなり大変な事が待っているのだが、今のカズヤは知るよしもない。

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