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生闇斬魔  作者: 湖林
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空色の心 ~信頼の色~ その2

 静寂に支配されていた森を一陣の風が走り抜け、木をざわめかせた。

 和也かずやは全ての者をあざ笑うかのような嫌な笑みを顔に貼り付けて、その場から一瞬で移動した。あり得ない速度だった、最終形のサファイですら反応が出来ないほどの超スピード。


「!?」


 先ほどとは立場が逆転した。そして、サファイは自分の死を確信した。確実に決まると確信していたことと、かなり大振りな攻撃を出したせいで、攻撃後に大きくバランスを崩してしまったのだ。

しかし、カズヤは攻撃をしなかった。カズヤはサファイと少し距離を置き、腕を組んでサファイを見据えている。顔には不適な笑みを貼り付けたままだ。


「どうした?」


 カズヤの声がとても冷たくサファイの鼓膜を揺るがす。背筋がゾクリと寒くなるような声は先程までとは別人だ。これが、『微笑の死神』。


「なんで俺を殺せるチャンスをみすみすのがしやがった?なめてんのか!?」


 すぐに体制を立て直し、サファイが叫ぶ。人間に情けをかけられたのは、人生で二度目だった。


「油断した奴を殺しても面白くねぇんでな。楽しませてくれよ、せっかくこっちは本気になったんだからよ」


 カズヤの余裕を持った態度がサファイにプレッシャーをかけていく。


「ちっ、やっぱてめぇは化け物だな」


「《よう》に化け物扱いされたくねぇな。それより早くはじめようぜ。その姿でいられる時間はかなり短いんだろ?」


 余裕ができて気付いたことがあった。サファイの動き、攻撃の威力が変身直後に比べて三分の二ぐらいにまで下がってきている。きっと、もうすぐ今の姿を維持しているのが辛くなる頃だろう。


「はぁぁぁぁぁ!!!!」


 サファイは気合いを入れ、身体を無理矢理変身直後と同じぐらいの状態まで持っていく。


「いくぜ」


 サファイは持てる全《心気しんき》を腕に回した。サファイの周りを赤い風が包み込む。そして、サファイの腕を包むように風が渦巻き、うっすらと赤く腕を覆った。カズヤの『憑炎掌ひょうえんしょう』を参考に、腕に《》を纏わせたようだ。このサファイという《妖》戦闘の天才である。普段全く使うことのない人間の一部だけに与えられた力をこうもうまく使っている。

 一瞬全ての音が消え、時間が止まったように感じる不思議な時間が流れた。

 そして、直ぐに時間が動き出す。二人が同時に姿を消した。サファイにとってはこれが最後の攻撃になるだろう。全力を出し尽くさなくてはならない。これが決まらなかったら、待っているのは死、そしてルビィとの今生の別れ。


「はぁ!!」


「……!!」


 瑠香るかとルビィはほぼ互角にやり合っている様に見える。ルビィの鋼鉄のような爪と、ルカの愛刀《冬桜ふゆざくら》がぶつかり合い火花を散らしている。

 互角、この言葉は適切ではない。ルカの方がこのままいくと不利だ。

 今のルカには迷いがある、頭では《妖》は自分たちが倒すべき存在と考えているが、ラルゥや水奈みずなと出会って心に迷いが生じ始めていた。その為《気》に左右される技もキレが鈍ってしまう。そして、攻撃が最後まで踏み込めていない。

 あとは体力の差だ。《妖》のルビィの方が人間のルカよりも断然スタミナがある。一般的に《妖》と戦う時は短期決着と言われている。


「くっ!!」


 暫くすると、ルカの息が上がり始めた。ルビィの速度にルカがついていけなくなってきた。

 ルカが攻撃を出せなくなり、防御に徹しているとルビィが動きをピタリと止めた。ルカもそれに合わせ動きを止める。月明かりがこぼれる静かな森の中で数メートル離れお互い向かい合う形だ。先ほどまで、蝉が鳴いていたのにそれらの声が一切しなくなっていた。ルカが知らず知らずのうちに出していた《殺気さっき》が蝉を追い払ってしまったのだろう。


「逃げて。これが最終忠告。次からは本気で殺しにいく」


 ルビィが突然口を開いた。予想もしないことだった。


「な、何言ってるのよ!?」


 訳がわからず質問を返してしまった。


「サファイに人間を殺させたくない。私もあなたを殺したくない」


「私はあなたを殺そうとしているのよ!?なのになんで私を逃がそうとしているのよ!?」


「あなた、何のために戦っている?」


 質問に質問で返されたルカは一瞬あっけにとられたが、直ぐさま返答を返した。目の前の《妖》の考えていることがわからない。


「そ、そんなの決まってるじゃない!!!あなた達《妖》を仕留める為よ!!!!」


 少しどもってしまった。頭ではそう考えているのに自分の本心が良くわからなくなっている。


「何故私達を殺そうとする?」


「……」


 ルビィの質問にうまく答えられる自信がなかった。


「あなたは迷ってる」


「な、なんで《妖》のアンタなんかにそんなこと言われなくちゃいけないのよ!!!」


 自分でも良くわかっていないモヤモヤしている心を見破られたようで悔しかった。


「あなたはきっと私たちのことを受け入れてくれる。《妖》の全てが悪ではないことを知っている」


 ルカは黙ってルビィの言葉に耳を傾けている。


「サファイは人間に育てられたの」


「!?」


 今度は絶句した。《妖》が人間に育てられた話など信じられなかった。京都の四聖族では《妖》は悪魔、敵、決して相容れない存在と小さい頃から教わってきた。その《妖》が人間に育てられたなどと、到底信じられる話ではなかった。しかし、目の前の《妖》が嘘を言っているとは思えない。


「でも、サファイを育ててくれた人間は《妖》に殺されてしまった。サファイは人間を愛している。だから、サファイにあなたのような人間を殺させたくはないの。サファイに育てられた私も、人間のことはよく知っている。だから、人間の中にも優しい人間がいることも知っている」


「じゃあ、なんで私達を襲うのよ!?おかしいじゃない!!」


「サファイが人間を手に掛けようとしているのは私のため。私を強くするためにサファイは人間を殺そうとしている。私のためにサファイが苦しむのは見たくない。だからあなたには逃げてほしい」


 ルビィは話し終わると、深々と頭を下げた。ルビィの態度からサファイに対する想いが伝わってきたような気がした。それと同時にルビィは完全に無防備になった。殺すなら今だ、今なら確実に殺れる。しかし、ルカは全く体が動かない。その姿を見た瞬間、肩の力が一気に抜けてしまった。ルカの心から迷いが消え、台風後の空のように澄み渡った。


 ……やはり自分にはこの《妖》を殺すことは出来ない。


「いいわ、私の負け。あなた達は私が教わってきた《妖》とは違う。やっぱり《妖》にも色々あるのね。あ~あ、このままじゃ、京都に戻れなくなっちゃうな」


 ため息をつきながら《冬桜》を鞘に収めた。


「あなた、この島にある村に住んでみたらどう?歓迎してくれると想うわよ?私から頼んであげてもいいからさ」


「いいの?」


「ええ、あなたのような《妖》なら大丈夫よ。人間とうまくやっていけそうだしね。じゃあ、あなたの彼氏と羽馬はまの戦いも止めに行かないとね」


「ありがとう。サファイも一緒に……!?」


 会話の途中でルビィが顔を強ばらせて、その場から跳躍した。向かう先はサファイとカズヤの戦闘地帯。ルカも直ぐにルビィの後を追いかけた。

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