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生闇斬魔  作者: 湖林
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空色の心 ~信頼の色~ その1

 変身を追えたサファイは直ぐさま行動に移った。サファイの姿がぶれる……、遂にサファイが和也かずやのスピードを上回った。


「えっ!!消えた!?」


 カズヤのかなり後方にいるルカから悲鳴にも似た声が上がる。いくら目を凝らしてもサファイの姿を捕らえることが出来ない。《心気》の大半を動体視力に使っているにもかかわらず、だ。

それもそのはず、今のサファイの速さはカズヤの目でなんとか追えるほどにまでなっている。瑠香るかに視認できるはずがない。

 先ほどまでとは段違い。いや、桁違いのスピードである。


「ちっ、化け物め。どうすりゃこんなに戦闘能力が変わるんだ?」


 嫌な汗が背中をつたう。目で追えていても、それに体がついていける、というわけではない。


「これぐらいで驚いてたんじゃ、この先思いやられるぜ!!!」


 サファイの声は、カズヤの真後ろから聞こえてきた。サファイは既に攻撃態勢である。直後、空気を裂くかのような音を纏う蹴りが飛んできた。どうにか、サファイの行動を追えていたカズヤは、うまく対応してその一撃だけはどうにか避ける。


「……!?」


 カズヤの頬がパックリと裂け、真っ赤な血が溢れ出してきた。先ほどの攻撃は、完全に避けたはずだ。何故、届いた?そんな疑問が頭に浮かぶ。


「おら!!」


 サファイは直ぐさま体勢を立て直し、今度は拳をカズヤに放ってきた。計三発、カズヤはそれら全てを最小限の動きで、紙一重でうまくかわした。いや、かわしたつもりだった。


 ブシュッ


 腕の2カ所にパックリと傷ができ、ズボンに切れ目が入り、切り傷が出来た。真っ赤な血が傷口から溢れ出す。


「……?」


 カズヤが戸惑っている間にもサファイの攻撃は続く。時間に比例して、カズヤに切り傷が増えていく。距離を持ってかわせばいいのだろうが、今のサファイの速さではそんな余裕はない。

 カズヤは避けながらも相手に隙が出来るのを待ち、両腕に《気》を集めて反撃のチャンスを持っていた。

その時が来た。サファイの体勢がほんのわずかだが、崩れたのだ。


「おらぁぁ!!!」


 カズヤが一瞬の隙をつき、たんまりと《気》の乗っている左腕をサファイに繰り出した。今のサファイならこれぐらい余裕でかわせるだろう。もちろん、これはフェイントだ。本命は右腕。


 バシッ


「!!」


 サファイがカズヤのパンチを受け止めた……。あり得ない。いくらフェイントの左腕だとしても、手の平を消滅させるぐらいの《気》を込めたはず。例え、サファイがかなりのレベルの《妖》だとしても、そんなものを受け止めたら、ただじゃすまない。

 予想の範囲を大きく超えたこのサファイの行動で大きな隙をカズヤは作ってしまった。

 頭でヤバイと考える前にカズヤの体が動いていた。右手に溜まっていた《気》をそのまま防御にまわし、右手一本でサファイの反撃を止めようとする。これも相当《気》を回しているので、少し衝撃が走る程度で済むと思った。その後体勢を立て直せばいい。


 ドゴッ!!


「ぐっ!!」


 想像している数十倍の衝撃が走り、右腕の骨が軋んだ。そのまま数十メートル後ろに吹き飛ばされる。

 カズヤは右腕に走る痛みに耐え、体勢を素早く立て直す。そして、サファイが追って来るのを感じて、直ぐさまその場を離れた。その直後、木の砕ける音が耳に入ってくる。


「そうか」


 カズヤのモヤモヤしていた頭がすっきりと晴れ渡った。先ほどのサファイの防御と攻撃を自分で感じて、謎が全て解けた。


「人間か……。どおりで《気》を使った攻撃が効かねぇはずだぜ」


 今のサファイは人間。そして、《気》を扱える。先ほどの攻撃で、カズヤの攻撃を難無く受け止めたのも、カズヤの《気》の鎧を容易く撃ち抜いたのも、サファイが《気》を使えるからだったのだ。サファイは《妖》だ、という先入観念に邪魔されて、今回のからくりに気付くのが遅くなった。


「気付きやがったか。ちっ、とっとと片付けなきゃいけねぇってのによ!!」


 パルの肉体改造のように、《妖》はたまに特異な体質を持つ者がいる。サファイは、琉衣るいから力を受け継ぎ、特A級になった時に二段階の変身能力が身に付いた。


「だが、気付いたところでもうおせぇよ!!」


 サファイの猛攻が再び始まる。間髪入れずに攻撃を仕掛けてくる。見えても、サファイの攻撃が速すぎてギリギリでしかかわせない。サファイが拳に纏っている《気》は《気》で防ぐしかない。カズヤは一方的に攻められることになった。このままではカズヤが力尽きるのも時間の問題だ。


「す、凄い。でも、このままじゃ」


 カズヤとサファイが戦っている百メートルぐらい後ろで、ルカが二人の攻防を全《心気》を目にまわし必死で見ていた。それも、後ろから近づく影に気付かないほどに集中していた。


「!!」


 気配を感じた時にはもう遅かった。完全に間合いの中に入られている。鋭い爪、猫のような目、黒艶やかな髪の毛が揺れるのがルカの視界いっぱいに広がった。


 ……ルビィだ。


 頭で考えるより先に体が動き、ルカは後ろに跳んでいた。爪が少し腹部をかすり服に四つの切れ目が入る。その爪は肌にも届き、血が服に滲む。幸い致命傷にはいたらず、このまま戦っても大丈夫そうである。

 直ぐにルビィはバランスの崩れているルカに追撃をくわえてくる。不意打ちの後、黒く艶やかな尻尾を巧みに使い、体勢を一瞬で立て直していた。どうにか、ルカは抜刀することができ、ルビィの攻撃を受け流す。


「くっ!!」


 かなり無理矢理体勢を立て直した。かなり無理な動きだったので、体中の筋肉、間接が悲鳴を上げている。そんな痛みに歯を食いしばって、今度は攻撃に移った。先ほどまでカズヤとサファイの攻防を必死に見ていたせいで、ルビィの動きが多少遅く感じた。ルカは、ルビィと同等ぐらいの動きが出来る程度の《体気》を体にまわし、余った《体気》のほとんどを視覚、聴覚、嗅覚、感覚などにまわしている。これなら、視界の悪い森の中でも、ルビィを見失うことはないだろう。少し前の戦いでは、全ての《体気》を動きに使っていた。ルカは確実に戦いの中で成長している。


 カズヤが、防御に徹し初めてから約五分。どうにか《気》を体全体に均等に纏うことで相手の攻撃に対処してきたが、何発もまともに入っている。もうそろそろ限界だろう。


 そして、その時が来た……。


「くっ!!」


 ガクリと身体の力が抜けて、カズヤが片膝を地面につく。ついに《気》、体力ともに限界がきた。体が徐々に手足の指先から痺れていくのがはっきりとわかる。


「じゃあな。お前のことは嫌いじゃねぇが、これもルビィのためだ」


 サファイはルビィの為にカズヤの動きを封じようと、足と手を狙って攻撃を仕掛けてくる。当たれば手と足が吹き飛ぶ。


 ……もうダメか?


俺の力はこんなもんなのか?


俺はここで殺られるのか?


こんなところで……?


 カズヤは迫ってくるサファイの腕を見ながら、一瞬でそんなことを考えた。水奈みずな晴斗はるとの顔が頭に浮かんだ。


「……」


 いや、まだだ!!!まだハルトと決着付いてねぇーんだ!!!ミズナが待ってんだ!!!!こんな所で死ぬわけにはいかねぇんだよ!!!

 俺はこんな弱くなかった!昔の俺はもっと、もっと強かっただろうが!!甘えてんじゃねぇよ!!!


 プツン


 カズヤの周りから音が消える。神経が研ぎ澄まされていくのが自分自身で良くわかった。もうカラだと思っていた《気》が身体の奥の方から溢れ出てくる。

その時、静寂に支配されていた森を一陣の風が走り抜け、木をざわめかせた。


 そして、カズヤは笑った。ハルトとセイヨと昔戦ったときのように笑っていた……。

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