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生闇斬魔  作者: 湖林
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青き瞳 ~疑問の色~ その1

 水奈みずな瑠香るかは、賑やかな村の中心から離れ、暗い闇の中へ向かって行る。目指すは晴斗はると達のいる洞窟である。お祭りが始まったのに、ハルトと和也かずやがやって来る気配がなかったのでわざわざ二人で迎えに来たのだ。


「所で、ルカはなんで刀なんか持って来てるのかしら?」


 ルカは左手に黒く長い竹刀袋の様な物を持っていた。もちろん中に入っているのは、ルカの愛刀・冬桜ふゆざくらである。わざわざ部屋から持ち出してきたようだ。


「だって、この島の森って《よう》が生息しているんでしょう?」


「確かに《妖》は結構いるけど、知能も余り高くない低レベルの《妖》よ。それに、この村の敷地には入ってこないわ」


「でも、一応ね。それより、この島で生活していて《妖》に襲われたりしないの?雪夜ゆきよちゃんなら何とかなりそうだけど、ハルトと羽馬(はま・カズヤの名字)って普通の人間でしょ?……あれ?なんで羽馬があの洞窟に入れるわけ?ハルトと同じブレスレットでもしてるの?」


 カズヤとハルトが普通の人間だとずっと思いこんでいる。この村に来るにあたって、普通の人間では無理な場面が多々あったが、ユキヨの強さのせいで感覚が麻痺してしまっているようだ。しかし、それも仕方のないことだろう。結界の張られている普通の町に、ユキヨ並に強い人間が複数人住んでいるとは思わない。そして、ハルトが弱いと言う先入観念が、ルカの考えを固めてしまっていた。


「う~ん、まぁね」


 ルカの会話の後半部分ほとんどミズナは聞いていなかった。ミズナは適当な相づちでいったん会話を切って目をこらして前方を見据える。なにやら、前から何か小さい影がこっちに向かってくる。ルカもミズナの異変に気が付き、ミズナの視線を追い同じ方を見る。


「子供?」


 声を上げたのはルカ。その影とは緑の髪と瞳をした人間の子供だった。こちらに向かってトボトボと歩いて来る。


「なんで、こんな所に子供がいるの?」


 ルカはそんな疑問を胸に抱えたまま、事情を聞こうと駆け寄って行った。ミズナはそんなルカの背中と、緑色の髪をした子供を交互に見て疑問を浮かべる。


「あんな子、この村にいたかしら?」


 ミズナはこの村で暮らし始めてもう結構な時が経ったが、あんな子供は見たことが無かった。


 ゾクリ


 ミズナは全身の鳥肌が立つと同時に動いていた。ルカに向かって反射的に駆け寄り、ルカと子供の間に割り込んだ。


「あなた、人間じゃないわね?それに、この村の住人でもない……何者?」


 ルカが突然目の前に現れたミズナに驚いて、瞬きした瞬間には子供の姿をした何者かは、数メートル後ろに移動していた。かなりのスピードである。


「そう言う君も人間じゃないでしょ?かといって、僕と同じ《妖》でもなさそうだ。僕はパル、よろしくね」


 ルカは急いで刀に手を掛けるが、ミズナに左手で制され抜刀は出来なかった。パルと名乗った《妖》は人間そっくりだった。《妖》の特徴がまったくない。


「あなたは、カズヤ達を呼んできて、ここは私がどうにかするから」


 ルカに背を向けたまま緊張したような声で言ってくる。正直、今のルカではまともに戦える相手ではない。相手が本気で殺す気だったら、既にルカは一度死んでいる。


「無理よ!!ここは私が戦うから。それに、ハルト達を呼んで来てもどうにもならないんじゃないの?呼ぶならユキヨ(ゆきよ)ちゃんじゃないと……。ミズナさんはユキヨちゃんを呼んできて!!」


 ミズナは自分たちの力をルカに話しておかなかったことに後悔した。


「ダメ、ルカ!!」


 ミズナの制止を振り切り、相手に向かって突っ込んで行った。その速度は、初めてハルト達の前で《妖》と戦った時とは比べものにならないぐらい速くなっている。ユキヨとの修行の成果が確実に出ている。

パルの数メートル手前に迫った時に抜刀して斬りかかる。そんなルカの行動を見ても、パルはその場から一歩も動こうとしない。


ドンッ


 パルに刀が触れるか触れないかのところで、ルカは真横から軽い衝撃を受けて、横に吹き飛ばされた。


「くっ」


 次に聞こえてきたのはミズナの苦しそうな声だった。すぐにパルの方に目をやると、ついさっきまで自分がいた場所にはミズナが立っていて、パルの伸びた爪で右肩を貫かれていた。赤い血がポタリポタリと地面に落ちる。

 どうやら、ミズナがルカをかばったようだ。もし、ルカがあのまま攻撃していたら、パルの爪により、心臓を貫かれていただろう。


「へぇ~、半妖の血って赤いんだ」


 パルはミズナが邪魔したことに別段驚いた様子もなく、ちょっとした発見に声を上げた。初めから、ミズナが邪魔に入ることをわかっていたような冷静さである。いや、実際わかっていたから、ルカの心臓を狙ったのかもしれない。パルの目的は敵をおびき出すこと。このタイミングで殺してしまったら元も子もない。


「み、ミズナさん、なんで?」


 パルとは反対にルカは相当驚いている。ミズナがもし助けに入ってこなかったら……。そんなことを想像して足が震えていた。


「カズヤの友達に怪我をさせるわけにはいかないわ」


 元気なく笑う。


「少し黙って」


 パルはすぐに次の行動に移った。余っていた方の手で鳩尾を強めに殴る。ミズナはすぐに意識を失いグッタリとしてしまう。パルはミズナが気絶したのを見ると、すぐさま左手をミズナの肩から引き抜き、ミズナの喉にピタリと突きつける。


「ミズナ!?」


「おっと、動かないで。別に僕はこの場でこの子を八つ裂きにしてもかまわないんだよ?」


 ルカがパルに向かって再び駆け出そうとするが、パルの言葉によって足を止めた。


 しばらく硬直状態が続く。パルがなにかを待っているように見えた。

 洞窟の方から人の気配がすると同時に、パルの視線がルカから外れ洞窟の方に向く。ルカもその視線を追うと、洞窟から歩いてくるカズヤとハルトの姿が目に入った。ハルトもカズヤもゆっくりと歩いてくる。暗くて、この状況が見えていないのだろうか?そして、ハルト達の姿を確認すると、ルカの顔に焦りの色が浮かぶ。


「来ちゃダメ!!」


 パルを見据えたまま、ハルト達に声を掛ける。目の前にいる《妖》は強い、ルカは二人がこの場に入ってきたら更に状況が悪化すると思ったのだ。


「さっさとその汚い手をどけろ」


 しかし、そんなルカの忠告も完全に無視し、カズヤから低い声が漏れる。決して大きくはないが、その場にいる全ての者の耳にはっきり聞こえる声だった。ちなみに殺気は全く感じられない。


「動いたら殺すからね」


 そんなカズヤに臆することなく、パルは鋭くとがった爪をミズナの喉に突きつけながら一歩一歩森の方へ後退していく。


「じゃあね!!」


 あと少しで、森の中に入るというところでパルはミズナを前に突き放し、背中越しに鋭くとがった爪でミズナの腹部を貫こうと、腕を鋭く突きだした。


「くっ!!」


「ミズナ!!」


 カズヤの叫び声と共にミズナの腹部から出た鮮血が宙を舞う。まるで闇に散る真っ赤な花弁の様だった。


「クスッ」


 パルはちょっと悔しそうな顔をしながらも、小さく笑って森の中に姿を消していった。


「ちっ」


 カズヤはミズナに素早く駆けつけると、傷の深さを確認した。


「わ、私は大丈夫」


 どうやら、ミズナが意識を失っていたのは数分で、すぐに意識を取り戻して脱出の機会をうかがってようだ。先程パルに攻撃された時にとっさに前に飛んで、刺さる程度で貫かれる事だけは避けた。しかし重傷には代わりはない。


「ミズナのことはこっちでどうにかする。見たところ致命傷じゃない」


 ハルトが少し戸惑っているカズヤに声を掛けた。


「悪い、ミズナは任せた」


 静かだが完全に怒りがこもった声でそう言うと、急いで暗闇で何も見えない不気味な森へ消えて行った。


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