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生闇斬魔  作者: 湖林
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黒き闇 ~不安の色~ その2

 パーティーが始まった丁度その頃。《陽炎かげろうの島》の外れ、その森の中に五つの影があった。森の中にドンと威圧的に置かれてある岩に座っている者を中心に、それぞれ木の枝の上や地べたなど、各々の好きなところに身を置いている。その周辺の森から生物の気配が全く感じられない、完全な静けさが辺りを支配している。そして、夏なのにゾクリと背筋を撫でる様な風が時々吹いている。


「やるぞ」


 中心の岩に座っている人物が口を開く、口を開いた瞬間、嫌な風が周りの木々が揺らす。


「ええ、良いですよ。人間は嫌いなので皆殺しにしてやります」


 岩の隣に立つ影から落ち着いた声が聞こえてくる。


「俺は、乗り気じゃねぇな」


 今度は木の上から声が聞こえてくる。少し優しい感じのする声だった。


「僕はどっちでもいいよ。でも、やるなら村人全員殺すよ?《妖》も人間も半妖も全てね」


 岩の前の地べたに座る小柄な影がワクワクしたような声を発する。


「いいのか、サファイ?お前のお気に入りのその《妖》を我らと同等にする絶好の機会だぞ。奴らは、我らのレベルを上げるのにはうってつけの的だ」


 岩の上に座っているリーダー的存在が木の上にいるサファイに声を掛けた。今まで雲に隠れていた月が雲から出て辺りを照らし、鮮明に五つの影を闇に浮かび上がらせる。どれも容姿は人間と変わりない。しかし、ピンと尖った耳と、尖った犬歯……、《妖》だ。

 木の上に座っているサファイ、オレンジ色の髪の毛と瞳を持つ《妖》である。どうやら、人間に対して嫌な感情は全く持っていないように感じられる。目も優しい光を持っているように見える。見た目ガッチリとしていて、容姿からは大体二十歳ぐらいに見える。

 先ほどから一言も口を開いていないが、サファイに寄り添うようにしている《妖》がいる。十六歳ぐらいに見える彼女の名はルビィ。女の容姿をしていて、腰ぐらいまで伸ばした綺麗な黒髪と黒い瞳が印象的である。しかし、他の《妖》とは違い、フサフサした尖った耳と、鋭く伸びた爪、ズボンを突き破るように生えている黒く艶やかな尻尾があった。他の者より人間離れしている容姿から、彼女はA級の《妖》ということがわかる。

 サファイとルビィは人間で言う恋人同士と言うやつらしい。


「ちっ、気は乗らねぇがルビィの為ならしょうがねぇか。今回の件が片付いたら俺等は静かに暮らす」


 そう言って、隣に座るルビィの頭を撫でた、ルビィも気持ちよさそうに目を細めながらサファイに寄り添う。


「ありがとう、サファイ」


「じゃあ、俺等は先に指定された場所に向かう。うまく誘き寄せろよ、パル」


「はいはい、僕に任せておいてよ」


 地べたに座るパルと呼ばれた《妖》からの返事を聞くと、サファイとルビィは木の上から音もなしに姿を消した。

 パルは、子供の容姿をした《妖》である。緑色の髪と瞳を持っている。


「ダンナ、村を襲わないで奴らだけ森に誘き寄せる理由はなんだい?」


 パルは相変わらず楽しそうな様子で岩に座る《妖》に問いかけた。


「敵は分散させて一対一で戦った方が楽です。私達は元々個人で戦うのが得意ですから」


 答えたのは岩の隣に立つ《妖》だった。声からはなんの感情も読みとれない、冷たさだけを持った声だった。


「了解、エメラ。でも、奴らの始末が終わったら、村の奴らは僕に殺らせてよ?」


 岩に座る《妖》が無言で頷いたのを見ると、パルは面白そうに笑って立ち上がる。そして、パルから、見る見るうちに《妖》特有の尖った耳と、尖った犬歯が消えていった。見た目は完全に人間の子供だ。


「肉体改造か。さすがだな」


 パルは《妖》の中でも珍しい特異体質を持っている。自分の体をある程度までならいじれるのだ。一度細胞を崩し再構築するというものだ。おそらく子供の姿をしているのも、この特異体質を利用してわざとやっているのだろう。そして、この特異体質のお陰で、パルの自己再生機能は普通の《妖》の数十倍と思われる。


「どうも、じゃあ行ってきます」


 人間に化けたパルは一瞬で姿を消した。


「いいのですか?彼らに任せて?特にサファイの奴は信用できません」


 パルの気配が消えたことを確認した後、岩に座る《妖》に声を掛ける。

 エメラは少しクセのある水色の髪の毛を持つ《妖》である。ちなみに瞳も水色。凄く繊細な顔立ちをしていて、一見女に見えないこともない。口調や態度からとても冷静な様子が伺える。エメラはサファイと違い、凄く冷たく鋭い目をしていた。その目から、命乞いをしてきた者や、女、子供も顔色ひとつ変えずに殺す、そんな感じを受けた。


「ああ、問題ない。性格はともかく、戦闘能力は皆一流だからな」


「あなたがそう言うのなら、私は何も言いません。私は人間さえ殺せればそれで満足ですから。では、先に行っていますので、お早めに来て下さい」


 エメラは近くの木に立てかけてあった、自分の背丈ほどのランスを軽々と持ち上げ姿を消した。

 そして、岩に残る《妖》。深紅の獣の様な鋭い目と、肩ぐらいまで伸びた漆黒の髪を持つ、AA級の中でもトップクラスの《妖》。そして、ハルトとユキヨから一番大切な者を奪った《妖》……ラウェルだった。


「クックックッ、やっと回復し終わった。あの時の仮、倍にして返してくれる。待っていろ」


 そう言って、ラウェルは口の端をつり上げ不気味に笑った。




 静まりかえった森の中、一本の木の上にサファイとルビィは座っていた。


「ちょっと速く着きすぎちまったな」


「そうね、でも別にいいと思う。私、あいつら嫌いだから」


 そう言って、少し眉を寄せるルビィ、サファイを今回の戦闘に引き込んだ奴らが気に入らない様子。


「サファイ、別に私このままでもいいよ。あなたは人間を……」


 ルビィはサファイに人間と戦いたくないのなら戦わないで、と何度か言ってきた。ルビィはサファイが人間のことを好きなのは知っていた。しかし、サファイの答えはいつも同じだった。


「そうはいかねぇよ。お前を助けてから、今まで一緒に頑張って、お前はA級の《妖》まで上がって来れたんだ。後少し頑張れば、何にも怯えないで暮らすことが出来る。俺が一番怖いのは、お前を失うことなんだよ。AA級の《妖》になれば、一気に強くなれる」


 数年前、まだB級の《妖》だったルビィは、人間に死ぬ寸前まで追い込まれた。其処を助けたのがAA級の《妖》、サファイだった。ルビィのことを気に入ったサファイは、その日から、共に生活をするようになった。そして、暇があると二人で《妖》を狩りに行き、ルビィのレベルを上げていった。しかし、A級の《妖》になってしまうと、なかなか次のレベルに上がることは出来ず、最終的に人間の中でも特殊な《闇に生きる者》や《四聖族(頭首クラス)》などを狩らないとAA級の《妖》にはなれない。しかし、滅多に成功しないこの人間狩りが成功すれば、急激に強くなり《闇に生きる者》にも恐れられるほどの力を手に入れられる。まぁ、血筋から元々AA級の力を持っている《妖》もいるが。


「サファイ、私怖い。死んだらもう二度とあなたに会えなくなる」


 不安そうな目でサファイを見つめるルビィ。体が震えているのが端から見てもわかる。


「大丈夫だ、情報によると一人だけ弱い奴がいるらしいからな。そいつになら勝てるだろう。もし負けそうになっても、俺が助けてやる。お前は絶対俺が守る」


 ルビィの震える肩をそっと抱いた。それで、ルビィも落ち着いたようで、サファイに寄りかかって目を閉じた。

 そして、数分すると閉じていた目を再び開き、サファイの目を見つめた。


「どうしたんだ?」


「私、先に行って様子見てくる。それで、もし弱い奴が一人でいたら殺す」


 ルビィの突然の発言に、少し困惑気味のサファイ。ルビィがこんな提案をしたのは、出来ればサファイに人間を殺してほしくなかったから。そして、自分が人間を殺すところを見せたくなかった。自分がさっさとAA級の《妖》になってしまえば、余計な戦いはせずにこの戦闘から離脱することが出来る。


「でもな、お前が危険に」


「大丈夫、危険だと思ったら直ぐ戻ってくる。私はあなたを、サファイを一人にはしない」


 ルビィはサファイの言葉を遮るようにそう言うと、軽く身を乗り出し、唇を重ねその場を後にした。


「死ぬなよ」


 一瞬前にルビィの唇が触れた自分の唇を指でなぞりながら、森の中に消えていくルビィの姿を追っていた。




 その頃パルは、村の少し手前にある森の中から村の様子を伺っていた。村の方はうっすらと青く光っていて、幻想的な雰囲気をかもし出していた。


「今のうちに楽しんでおきなよ。最後の晩餐ばんさんってやつをさ」


 暫く村の様子を伺っていると、村の方からパルの潜む森の近くにある洞窟のような場所に向かって歩いてくる影が二つあった。


「ん?あれは?」


 パルは集中して気配と雰囲気を感じとる。


「一人は半妖か……。まぁ、あれでいいか。もう片方の人間は普通の人間じゃなさそうだし。かといって《闇に生きる者》でもなさそうだ」


 確認後に素早く場所を移動する。


「さぁ、楽しいゲームの始まりだ」


 これから始まる戦いに心を弾ませ、闇夜に紛れる。もちろんパルの最終的目的は、村の住人の皆殺しだ。

 長く、危険な夜が幕を開けようとしている。

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