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生闇斬魔  作者: 湖林
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黄色い月 ~平和の色~ その2

 恋の話題が一段落付くと、今度は話題がルカの話に移った。


「ねぇ、なんでルカって京都からわざわざ東京に出てきたの?」


 ミズナがこの質問を投げかけた瞬間、今まで聞きに徹していたユキヨがビクッと肩を動かした。心なしか顔が青ざめている様に見える。


「その話は……「ああ、そのこと?それは……」」


 ユキヨが何かを言おうと口を開けると同時に、ルカが話し始めてしまった。どうやらミズナは触れてはいけないことに触れてしまったようだ。実はユキヨがルカと知り合ったばかりの頃に同じ質問をした事があった。そして、その二時間後、ユキヨは後悔する事になった。ルカの話は、延々と続いた。父親にパートナー探しをしてこいと言われた事や一族の事など、屋上でハルトに喋ったことを、刀まで持ちだして懇切丁寧に説明してくれた。ここまではまだユキヨは楽しんで聞く事が出来た。しかし、問題なのは一通りの説明が終わった後だった。ルカは、《朱雀の一族》の次期頭首の愚痴を言い出したのだ。その愚痴は止まるところを知らずに、ざっと三時間は続いたという。一人を好むユキヨにとって、四時間に及ぶお喋りは応えた。


「ちょっと、外の様子見てくる」


 もうあんな思いはしたくないと、すぐさま逃げる為に席を立とう等するユキヨ。


「ちょっと、ユキヨも聞きなさい。どうせ、外に行ったってやることないんだから」


 がっしりと、ユキヨの服を掴んで逃がすまいとするミズナ。


「私は、1回聞いてるから……」


「別にいいじゃない、二回聞いたって。結構面白そうじゃない」


 どうにか逃げようと試みるが、ミズナが逃がしてくれず、結局覚悟を決めて自分の座っていた場所に座り直した。



~三時間後~



 初めの一時間が過ぎたあたりで、ユキヨはダウンしていた。殆どルカの話なんぞ上の空で聞いている状態だ。

 ミズナは二時間が過ぎた頃。ちょうど、ルカの京都での愚痴が中盤に差し掛かったところで、ミズナはユキヨが何故逃げたがっていたか、自分で実際体験してみて切実にわかった。

その後の一時間はユキヨとミズナはルカの話など完全に流して、ボケーッとしていた。ルカはルカで、完全に二人のことを気にせずにマイペースで喋り続けている。


「……でね。《朱雀の一族》の次期党首が……」


「ね、ねぇ。ルカ?」


 どうやら、ミズナに限界が来たようだ。ボケーッとしているのにもいい加減飽きたらしく、恐る恐ると言った感じで、ルカの話の間に割り込んだ。これ以上この場にいると体からキノコが生えてきてしまいそうだ。


「ん?どうしたの?ミズナさん」


「そろそろ、外が賑やかになってきたから、私たちも外に出てみない?」


「えっ?もうそんな時間?」


 時計を見ると、既にこの部屋に来てから四時間が経っていた。外を見るとすっかり暗くなっている。


「あっ、ほんとだ。まだ1時間くらいしか経ってないと思ってた」


 楽しい時間は早く過ぎる、と言うが今回の場合、ユキヨとミズナにとってはかなり迷惑な話である。


「ってことで、話はこのくらいにして、外に行きましょう」


 ルカはミズナの言葉に賛成して、家の外に出ることにした。ユキヨに至っては大賛成だったようで、無表情ながらも外へ向かう足取りがかなり軽やかだった。




 外に出たルカは、殺風景だった村の変化に驚き、目を丸くした。ルカはお祭りと聞いて、屋台や神輿みこしが出るお祭りをイメージしていた。実際はそんなイメージとは全然違う光景が目の前に広がっている。

 村の中心に位置する噴水から東西南北に延びている道、それが綺麗に電気でコーディネートされており、村に十字の光が走っていた。どういう仕組みかは分からないが、噴水から出る水も光を帯びて輝いている様に見える。それぞれの道には白いテーブルクロスがひかれたテーブルが綺麗に一列に並べられていた。

そして、最もルカの目を引いたのは、そのテーブルに並べられた色とりどりの料理達だ。和食から洋食、民族料理、中華料理、等々、その料理の種類はパッと見ただけでも三十くらいはあるように見える。


「これって……」


 本当にルカはこの村に来てから驚いてばかりである。しかし、今回の目の前にある状況は驚きよりも好奇心の方が勝っていた。自分の目の前に無数にある料理、一体どんな味がするのだろうか?


「驚いた?さっきまでお祭り、お祭りって言ってたけど、実際は村全体でする食事会みたいなものね。みんなで、一晩中、食べて飲んで、いろんなことを話したり、出し物をしたりするの。一年に一回、夏にハルト達が来た時に開かれるわ」


「そうなんだ」


 それだけ言うと、ルカは自分の思考に浸ってしまった。ルカの頭の中は目の前の料理のことで支配されていた。

 あ、あれは、あの有名な世界三大珍味……、初めて見た……。うわっ、あのお肉すごく厚い……。あっ、京都料理がある……久しぶりに食べたいな。おいしそう、あれってなんて言う料理だろう?猿の脳味噌ってどんな味がするんだろう?あの真っ赤で危険そうな食べ物は何?ピンク色のキノコ?どこをどう見ても毒キノコよね?あれって、食べられるの?もしかして、《妖》専用のご馳走?い、今、あの料理動いたような?

目の前の料理を見れば見るほど、頭の中に疑問が浮かんでくる。それと同時に、早く食べてみたいと言う気持ちも大きくなっていく。


「ルカさん」


 ルカの思考を中断させたのは、ユキヨの静かな声だった。


「な、なに?」


 考え事をしている時に、いきなり話しかけられたので声がうわずってしまっている。


「ここにあるものは食べ放題だから、始まったら好きなものを食べて大丈夫。一流の料理人が作っているから美味しいはず」


「ルカは何か食べたい料理ってあるの?」


 ルカの心中を察したのか、ユキヨとミズナが言った。


「え、そ、そうなんだ。久しぶりに京都料理が食べたいな。ユキヨちゃんとミズナさんは何か食べたいものでもあるの?」


「私は、あっちのテーブルの料理」


 と、ミズナの指さす方を見てみると、日本の家庭料理が並べられた机があった。他のテーブルの料理と比べると華やかさなどは劣っている。一般家庭に出てくるような料理が並べられていた。


「えっ?何か特別な料理なの?私には普通の家庭料理に見えるけど」


「ええ、普通の家庭料理よ。まぁ、食べてみれば分かるわ」


 ミズナはクスリと笑った。こう言われると気になるのが人の心理というもの、ルカは真っ先にあのテーブルの料理を食べることを自分の胸に密かに誓った。


「私はあっち」


 今度はユキヨの指さす方に目を向ける。ミズナの指さしたテーブルとはうって変わって、テーブルの上に華やかな料理が並べられていた。


「へー、なんか凄いね。……って、あのテーブル」


 ルカはユキヨが指をさしたテーブルをよく見ていると他のテーブルとは明らかに違うことに気が付いた。


「あっ、気が付いたのね。あのテーブルの上にある物はユキヨの為に村長さんが用意した物なのよ」


 そのテーブルの上に乗っているのは、お菓子やデザートなどだった。しかも、かなり大量だ……。でっかいデコレーションケーキを中心に、様々なお菓子やデザートが所狭しと並べられている。


「ユキヨは甘い物に目がないのよ。あれ全部ユキヨが食べる訳じゃないけどね」


「そ、そうよね。普通の料理もちゃんと食べなくちゃ、美味しそうなものいっぱいあるし」


 ルカは呆然と大量のお菓子が乗っかっているテーブルを見ながら呟いた。


「普通の料理も食べる。あれはまた別だから」


「でも、あれの三分の一はあなたが食べるじゃない」


「それでも遠慮しているほう」


 無表情で恐ろしいことを言う。


「あ、あれの三分の一……」


 三分の一と言っても、かなりの量である。ぶっちゃけ人間に食べられる量ではない。ユキヨの体型と比較してみても、ユキヨの胃袋にはどうやっても収まりきらない量だ。


「ど、どうやってあんな大量なお菓子を……」


 冷や汗を垂らしながら、ルカはユキヨに質問する。


「それは聞いちゃダメ」


 ルカの中でこの謎は一生解けない永久的な謎となった。この謎の答えを知っているのはユキヨのみである。

 ルカは期待を胸にその瞬間を待つ。これから始まる大きなお祭りを……。

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