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生闇斬魔  作者: 湖林
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黄色い月 ~平和の色~ その1

 晴斗はると達が洞窟の中で宴会を開いている頃、瑠香るか達もルカ達で、今日止まることになる宿の雪夜ゆきよの部屋でワイワイとやっていた。メンバーはルカとユキヨと和也かずやの恋人、水奈みずなの三人である。


「姉さんのことが知りたい?」


 三人で楽しく話していたのだが、ルカが聞きたいことがあるが、なかなか聞けないような表情をしていたので、ユキヨから助け船を出してやったらしい。


「ええ、ユキヨちゃんが良かったら話してくれないかな?」


「……」


 しばらくの沈黙の後、ユキヨが口を開いた。


「姉さん。名前は美月みつき 星夜せいよ。兄さんと姉さんと私は実の兄妹じゃない。金持ちに買われた私を拾って育ててくれた人」


「買われた?」


 ルカはごく当たり前の疑問を口にした。今の日本では、人身売買や奴隷などと言うものは完全に無くなっている。ただし、それはルカたち表に生きる者の間での話しだが。だから、ルカはユキヨの“買われた”という言葉が良く理解できなかった。ユキヨが“兄さん達に拾われた”と言っていた。それはこういう意味だったらしい。


「ルカちゃんは知らないかもしれないけど、裏の世界では色々なことがされているの。人身売買、奴隷、暗殺、数え上げればきりがないわ」


「私の両親は私が小さい頃に二人とも死んだ。その後、叔母のところに預けられ、叔母達はお金ほしさに私を売った。元々、愛想がなく嫌われていたから、そういう選択をしたのもわかる気がするけど。そして、私を買った奴のところに姉さんが運良くやって来た」


 ユキヨの生い立ちに同情し、出す言葉もなくなってしまった。そして、人身売買などが今でも行われているという事実や、ユキヨを売った奴らに対し憤慨を覚え感情がグチャグチャに入り交じった状態になっている。


「確かに、初めのうちは嫌な人生だった。でもそのお陰で姉さんや兄さん、それにルカさんにも会えた」


 そう言って、微笑んだ。ユキヨの不器用でかすかな笑顔に、いろんな感情が入り交じっていた心が綺麗に洗われた。そして、そんなユキヨがとても強い人間だと感じた。


「強いね、ユキヨちゃんは」


「そんなことない。姉さんはもっと辛い人生を送ってきた。それも、今からどんどん幸せになっていくところで終わった。病気で死んでしまったの」


 最後の方の言葉は本当に小さかったが、どっしりと心に響く声だった。

 ユキヨの言った“病気で死んだ”というのは間違っている。ユキヨが嘘を言ったわけではない。ユキヨは本当にそう思っているのだ。

 実際はラウェルという《妖》に殺されたのだが、ユキヨの心はそれを受け止めるまでには成長していなかった。心が壊れないために自己防衛機能が働いて、自分自身に“病気で死んだ”と暗示をかけたのだ。だから、ハルトのようにラウェルへの憎しみで《気》が暴走することもない。


「それに比べれば私は」


 ユキヨは最後にそう付け加えて少し黙る。そしてミズナの方を向いて口を開く。


「ここから先は、ミズナさんが話して」


「私が話して良いのかしら?」


 ユキヨはコクリと頷いて、机の上にあったお茶を啜った。ユキヨが元々話すのが得意でない事は知っていたので、しょうがないだろうと思い、自分から話すことにする。


「わかったわ。でも、話してほしくない内容に触れたら言ってね、話すのやめるから。じゃあ、まず何から話そうかしら?話すと言っても私の知っていることなんてほんの少しなんだけどね」


 声を少し弾ませて、回りにある重い空気を払おうとする。


「取りあえず。さっきユキヨが言ったように、ユキヨとセイヨは実の姉妹じゃないわ。でもセイヨはユキヨにとって、大切な姉であり、母であり、そして師匠でもあったの」


「私の名前を付けたの姉さんなの」


 ミズナの話しにユキヨが補足をしてくれるらしい。どことなく嬉しそうな表情をしているように見える。すでにさっきまであったドヨーンとした重い空気は無くなっていた。切り替えの速い人達である。


「聞いた話だと、ユキヨってば、初めの頃セイヨのことを母さんって呼んで怒られてたらしいわ」


 そう言ってミズナは可笑しそうに笑った。それに対して、ユキヨは少し困った顔をし、ルカは何故かかなり驚いた顔をしている。


「ちょ、ちょっと待って、セイヨさんって、ユキヨちゃんの師匠だったの?」


 どうやら、一個前の話を聞いて驚いていたようだ。


「そう。私の知る限り最強の女の人だった。私、姉さんと組み手して直接体に触れたことはなかった」


「そうね。あの人の強さは桁違いだったわね。まぁ、強いのは力だけじゃなく、心も凄く強い人だったわ」


 ルカは言葉を失った。ユキヨが一回も触れられない。自分にとっては段違いとか、桁違いとかそういうレベルではなかった。天と地との差と言っても足りないくらいの差だった。


「も、もっと修行が必要ね。ははは……はぁ~」


 ルカは乾いた声で笑った後、がっくりと肩を落とす。


「大丈夫。姉さんの強さが桁はずれだっただけ。それにルカさんだってこれからもっともっと強くなれるはず」


「そうね。努力次第でどうとでもなるわよ。ここにいるユキヨだって、何の力も持たないただの子供だったんだから。頑張れば強くなるわよ」


 ユキヨとミズナがルカを励まそうと声を掛ける。そして、ルカも乗せられ安い性格なようで、直ぐにがっくりと落としていた肩が持ち上がった。


「そうよね!!私頑張る!!よろしくね、ユキヨちゃん!!!」


 そう言って、ユキヨの手を取る。ミズナにはそう言うルカの目の中が、心なしか燃えているように見えたらしい。


「それで、他に聞きたいこととかってあるかしら?」


「う~ん、やっぱり羽馬はまとミズナさんの関係かな?」


 女の子だけで会話をしていると、どうしても恋愛の方に話のベクトルが向いていく。


「カズヤと私のこと?そんなの聞いても面白くないと思うわよ。ルカはどうなの?好きな人っているの?」


「ルカさんは兄さんと結構仲がいい」


「へ~、ハルトとねぇ~。実際のところ、どうなの?」


 少し意地悪そうなミズナ。嫌な笑みを浮かべて、ルカに質問をぶつける。

 ルカの顔は真っ赤になっている。


「え、えっと、わからない」


「わからない?」


 ルカはミズナの言葉にコクリとうなずく。


「自分がハルトのことどう思っているのかわからない。なんだか、今のハルトは本当のハルトじゃない気がするの。うまく言えないけど、自分を無理して作っているような、そんなふうに感じるの」


 ルカは真っ赤になりながら自分の思っていることを話す。


「心のどこかでハルトの事を意識しているのは確かなんだけど、それが恋愛感情かどうかはまだ分からないの」


 ルカの言葉を聞いた時、ユキヨとミズナの表情が少し驚いた表情に変化した。


「へぇ、結構しっかり考えてるのね」


「ええ」


「まぁ、ハルトのことならもう少し一緒にいれば色々とわかると思うわ。良いところもたくさん見つかるだろうし、もちろん嫌なところもね。それから、自分の感情をはっきりさせてもいいと思うわよ」


 ニッコリと笑ってそう言うミズナがルカにはとても大人に見えたそうだ。

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