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生闇斬魔  作者: 湖林
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愛別離苦 ~哀の中で~ その3

 雪夜ゆきよは、ハルトに運ばれてからホテルの一室でずっと横になっていた。そして、A級の《妖》を倒した後に怪我人を連れて戻ってきた水奈みずな和也かずやも同じ部屋で休んでいる。二人とも相当体力を消耗しているようだ。


「ふぅ、ハルトの奴行く必要なんて無かったんじゃねーのか?《妖》は俺達で倒したし」


「心配だったのよ。もともと二人で戦う予定だったのに、ユキヨが倒れてセイヨ一人で戦うことになってしまったんだもの。もし、私がセイヨの立場だったらあなたはどうする?助けに来る?」


「あ、ああ。当然だろ」


 カズヤが少し照れながらそう言った。ミズナはそれを見て満足げに笑う。


「それと同じよ。きっとセイヨは力使い果たしちゃってるでしょうから、今頃二人で仲良く帰路にでもついている頃じゃないの?」


 二人の微笑ましい姿を想像して、再び笑顔を作る。とその時、


 ザーーーー


 急に雨が降り出した。夕立と言うやつだ。


「!?」


 急にずっと眠っていたユキヨがベッドから飛び起きた。そして窓から外を見る。


「……嫌な感じ」


 ユキヨがポツリと呟く。


「大丈夫?あなた、倒れたのよ」


 ユキヨが起きたのを見て、ミズナがすぐさまユキヨに様態を聞く。


「ええ」


「そうか、まだ無理はすんなよ」


 取りあえず、ユキヨが何ともないのに安心するミズナとカズヤ。


「兄さんと姉さんは?」


 ユキヨは辺りを見回し、ハルトとセイヨの姿を探す。


「ハルトならお前を運んだ後に、美月セイヨのことの援護に行ったぞ」


「ええ、もう戦いは終わっているんじゃないかしら?待ってればそのうち帰ってくるわよ」


 二人の安心しきっている言葉を聞いてもユキヨの心にある不安は消えなかった。




 一晩が過ぎ夜明けが来た。


 昨日降っていた雨はすっかり上がり、辺りは深い霧に覆われている。その霧の中から鳥のさえずりが聞こえてくる。


「ん、もう朝か」


 カズヤが初めに目を覚ます。カズヤの隣で眠っていたミズナも一緒に起きた。


「結局、二人は帰ってこなかったようね」


「まぁ、あの雨じゃどっかで、雨宿りしていた方が得策だぜ。美月も戦闘後で疲れているだろうしな。って、お前ずっと起きてたのか!?」


 ユキヨはベッドに座り外を見つめている。


「昼間ずっと寝てたから」


 一度カズヤの方に顔を向けてそう言ってから、再び外に顔を戻す。よく見ると、手の平をぎゅっと握しめている。おそらく、昨日の戦闘で足手まといになった事を悔いているのだろう。


「ユキヨ、そう落ち込まないで。誰にでも失敗はあるわよ」


 ミズナがユキヨを励まそうとする。


「でも、兄さんと姉さんに迷惑をかけた」


「そう思うんなら、もっと強くなれ。そして、今回の分まで次で埋め合わせりゃいいんじゃねぇのか?今回の悔しさを忘れなけりゃ、お前はまだまだ強くなる」


 カズヤの言うことは最もだった。今回ダメなら次回で今回の分まで頑張ればいい。


「はい」


 ユキヨもカズヤの言うことを素直に受け入れられた。


「それにしても、二人とも遅いわね」


 ミズナがそう言った時、部屋に変化が起こった。突然、ユキヨの頭上に黒い穴が形成された。


「こ、これは!?な、なんでこんなものがここに!?」


 その黒い穴は、カズヤはよく知っていて、自分もよく目にするものだった。妖刀を呼び出す時に出来る此処と異次元を結ぶ穴。

 そして、黒い穴からだんだん刀が姿を現す。


「!? 『月下美人』? どうしてここに?」


 ユキヨが完全に姿を現した刀を見て驚きに目を見開く。それは自分の姉であり、師匠であるセイヨが持つ妖刀だったのである。


 ドン、ドン


『月下美人』がユキヨのベッドに下りると同時にドアがノックされた。

 急いでミズナがドアを開ける。其処にはセイヨを背負ったハルトが立っていた。二人ともびしょぬれである。セイヨはマントのようなもので包まれていた。


「お、お帰りなさい!!待っていたのよ」


「兄さん、姉さん、おかえりなさい」


 ハルトの姿を見て、ミズナとユキヨは安堵のため息を吐く。セイヨが戻ってきたから妖刀が此処に現れた。と二人は思ったのだ。

 しかし、妖刀を所持しているカズヤだけは察していた。セイヨは背負われている。そこまで体力や《気》を消耗していると普通、妖刀すら呼べなくなるはずだ。それなのに妖刀がこの部屋に現れた。それが意味するところ。


 ……所有者の交代である。所有者の交代の条件は一つ。前所有者の死……。


「セイヨは気絶しちゃってるのね。早くベッドに寝かせて上げないと。ハルトも早く休んで。ユキヨ、セイヨを運ぶの手伝って」


 ミズナはユキヨにそう言うと、ハルトの背中のセイヨを運ぼうとした。


「やめろ!!!美月に触れるな!!!!!」


 カズヤの今まで聞いたことの無いような罵声と、殺気にユキヨとミズナの動きが凍り付く。


「ど、どうしたの?急に大声出して」


「ハルト、大丈夫か?」


 うって変わって、悲しそうな声でハルトに話し掛ける。


「《陽炎のかげろうのむら》へ行く準備をしてくれ」


 ハルトがボソリと言う。


「わかった。1時間後には飛べるように手配しておく」


「どうして?早くセイヨを寝かせて上げなくちゃダメじゃない!!」


「いいから、ハルトの言う通りにするんだ!!!」


 再びカズヤが怒鳴る。しかし、ミズナはそんなカズヤの事を無視し、ハルトの背中のセイヨに触れようとする。


「やめろ」


 カズヤはミズナを止めようとしたが手遅れだった。


 ミズナはセイヨに触れた瞬間ドロリとした嫌な感触を感じ、直ぐに手を引っ込めた。


「な、なにこれ」


 自分の手を見て凍り付く、そして手が震え始める。直ぐにハルトの後ろにまわり、セイヨに被せてあるマントを恐る恐るはぎ取って姿を確認した。セイヨの腹部には赤い布。いや、赤く染まった布がまかれていた。セイヨの肌に血の気はなく、手はだらりと宙をさまよっている。


「ま、まさか」


 ミズナはその場で力無くペタリと尻餅をついてしまった。


「セイヨは死んだ」


 ハルトが震える声でそう言うと、セイヨをベッドまで運び、横に寝かせた。


「うそ。姉さんが?」


 セイヨに近づき顔を撫でる、その顔は冷たく真っ白だった。


「ユキヨ」


「……うそ。いや……いや、いや、いやいやいやいやーーーー!!!!」


 バタリ


 叫んだ後、直ぐに意識を失って倒れてしまった。


「セイヨ」


 ハルトの声は静かな空間に重く響いき、悲しみで部屋を包み込んだ。こうして、ハルトの側にセイヨのいる時間が終わりを迎えた。




 この後、セイヨは《陽炎の村》に運ばれ、葬儀を上げられた。自然に帰りたいと言っていた為、火葬ではなく遺体をそのまま洞窟の一番奥の地面に埋めた。その時、『冷花』がセイヨを埋めた所に突き刺さり、洞窟を氷と冷気で包み込んだ。この刀は少し特殊なようで、セイヨを未だに主人としているようだ。

数日後、意識を取り戻したユキヨの記憶は、セイヨは病死した、と記憶がすり替えられていた。病気の為やむなく死んだ事とし、まだ幼い自分の精神を守ったようだ。もし真実を知れば、自分のせいだと自分を責め、精神崩壊を引き起こしてしまう可能性もある。


 『月下美人』はユキヨがセイヨから引き継いだ。必死で特訓を積み、どうにか『月下美人』を操れるようになった。ただ、不思議なことに、『月下美人』を引き継ぐ際、戦い方や特徴などの戦闘の事以外のこと、つまり、セイヨの知識や記憶はユキヨには入ってこなかった。

半年後、どうにか立ち直ったハルトはユキヨと共に《闇の世界》、そして『無月むげつ』から去った。カズヤも、ハルトが去るのならと一緒に抜けた。ミズナとは正式に恋人という関係でパートナーを続けている。


 カズヤとハルトは政府の裏工作により高校に入学した。1年後、ユキヨも同じ高校に入学することになる。ミズナは、《陽炎の村》でどんなに驚いても自分の能力を抑える訓練をしている。これが終了次第、カズヤと共に暮らすつもりでいる。ラルゥは相変わらず《陽炎の村》でほのぼの暮らしている。もちろんミズナとラルゥも『無月』から去った。




 最後に、セイヨの死に顔はとても幸せそうだった。セイヨは綺麗な星空からハルト達の新たな生活を見守っているのだろうか……。

 ハルトは夜空を見上げることが多くなった。


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