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生闇斬魔  作者: 湖林
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綺麗な花には棘がある?その3

「みんな、氷神に何か質問はあるか?」


 前山先生がそう言うと眠りこけているハルトと、興味なさそうに窓際の席で空を見上げているカズヤ、そして、引っ込み思案な男子以外の男子が一斉に手を上げた。もちろんタクヤもその中の1人である。さすが前山先生のクラスである。


「えっと、なんて呼べばいいですか?」


「何でもいいわ。出来れば、男の人は氷神で呼んでくれるかしら?女の子はルカって呼んでくれると嬉しいかな」


「趣味はなんですか?」


「体を動かすこと」


「どこから来たんですか?」


「京都よ。親の都合でね」


「彼氏いますか?」


「いないわ」


 などなど、多くの生徒の質問にも嫌な顔せず答えていく。一区切り付いたところで、前山先生はルカに席の指示を出した。丁度、机に突っ伏して寝ていたハルトの左隣だ。


「じゃあ、氷神はあそこに座ってくれ」


 前もって、運んでおいた机に座るように指示を出す。前山先生はハルトが寝ていたのは見えたが、あえて何も言わずに、というか言っても無駄だということはよく知っていたので、ハルトに触れることはなかった。これだけ眠りこけていても成績は中の上をキープしていたので、特に問題ないと判断しているらしい。


「はい」


 ルカは与えられた自分の席に着いた。


「それと、皆一時間目はロングホームルームだが、特にやることはないので自由に過ごしていて良いぞ。とにかく氷神をクラスに馴染ませてやってくれ」


 そんな前山先生の言葉を聞きクラスのテンションは一気に跳ね上がり、ルカの席の周りは一瞬で人が取り囲んだ。こんな状況でハルトはひたすら寝ている。大したものだ。


「氷神さんの好みのタイプってどんな人ですか!?」


 いきなりタクヤが不躾な質問を投げかける。そんなところが彼女いない歴=年齢のタクヤクォリティなのだが。何故か押し上げた黒縁眼鏡の黒いフレームが光った様にも見えた。


「とにかく強い人。少なくとも私より強い人ね」


 タクヤの不躾な質問に対して、特に気を悪くした様子もなく答える。


「俺とかどうです?結構腕には自信が・・・」


「お前じゃ無理。私より弱いだろ」


 タクヤに声を掛けたのは、さっき遅刻ギリギリで入ってきた双子の姉、ミナだった。


「って言うか、お前の強さが常人のレベルじゃねぇんだろ!!!」


「あなた強いの?今度ちょっと腕試しでもしないかしら?」


 ギャーギャーと騒ぐタクヤを完全に無視し、ルカはミナに話しかける。


「いいぜ。私の名前は、水叉ミナだ。よろしく」


 そう言って胸の前で腕を組んで笑った。


「よそうよ~、ミナ~」


 そんな偉そうにしている姉の後ろで肩身の狭い思いをしているのは、妹のマナである。いつもの構図なのだが、マナがものすごく不憫に感じてしまう。


「そうですよ!こいつは常人じゃないんです!!空手の有段者なんですよ!!勝てるわけないですって!!!」


「そうなの?でも所詮、スポーツのレベルでしょ?」


 タクヤが言った言葉を聞いて、ルカは鼻で笑った。それが、ミナの怒りに火を付けてしまった。


「なんだって?私がお前に負けるってのか!?」


「まぁ、そう言う事ね」


 目の前に憤怒の表情のミナがいるにもかかわらず、平然と笑っている。


「なんだと!!すぐ勝負しろ!!」


 そんなルカの態度を見て、更にミナは機嫌を悪くしたようだ。クラスの人は二人の険悪なムードに押されルカの机から半径数メートル離れて成り行きを見守っていた。ちなみにそんな観客達の円の中にいるのは、張本人のルカとミナ、そしてミナを落ち着かせようとマナ、ルカを宥めようとタクヤがそれぞれ入っている。そして全く無関係な人物が一人。ミナの隣の席、そこで熟睡しているハルトである。こんな騒ぎになっても全く起きようとしないとは本当に良い根性をしている。


 次の瞬間、莫大な殺気がルカから発せられた。常人には認識しての感知が難しいそれは、そこにいた全ての人を金縛りに合わせた。その中でも格闘技を習っていた、かつ直接向けられているミナは他の人よりも殺気をもろに感じてしまった。ミナの両足が震え、逃げ出したいという感覚に襲われる。まるで蛇に睨まれた蛙のように体が思うように動かない。そして教室内に二人、それをしっかりと感知出来た人間がいた。一人は窓際で空を見上げていたカズヤである。殺気がふくれあがった瞬間、ルカの方に顔を向けた。しかし、いつも通りのけろっとした顔をしている。そしてまた興味なさそうに、窓の方に顔を戻した。もう一人は先ほどまでどんなに騒いでも起きなかったハルトである。机から顔を上げてルカの方を見ると、平然と立ち上がり、真っ青の顔をして今にも泣き出しそうなミナと殺気を放つルカの間に割り込んだ。


「大丈夫か?」


 ハルトはルカに背を向け、ミナを心配そうに見つめる。声を上げたくても声の出せないミナの変わりに声を出した人間がいた。


「あ、あなた、何者?」


その声はハルトの後ろから聞こえてきた。ルカだ。かなり動揺しているように感じられる。


「別に。ただの高校生だけど」


 ハルトは眠そうな顔をして、ルカに振り返った。しばしの沈黙の後にルカが息をつくと、さっきまであった殺気が嘘のように消えた。


「まぁ、いいわ。今日の所は」


 いきなり金縛りが解けた周りの連中は何が何だかわからないといった様子で、少し混乱していが、思いつたように、ルカへの質問を再開した。なんか凄くタフなクラスだ、と誰かが思ったとか思わなかったか。


 そして、いまだに顔を青くしている今回の一番の被害者のミナを保健室に連れて行くことにした。ミナは両肩で荒く呼吸をして、今にも倒れてしまいそうだった。ミナを連れて妹のマナ、声を掛けたハルトが保健室に向かった。



「じゃあ、しばらく休んでろ」


 保健室に着くと、ミナをベッドに寝かせる。ハルトは後のことはマナに任せて保健室を去ろうとする。


「ま、まて」


 いつも違う弱弱しいミナの声にハルトは振り返る。


「た、助かった。ありがとう」


「別に俺は何もやっていない」


「あいつは何なんだ?あいつの雰囲気が変わった瞬間、体が震えだした」


「さぁ?知らないな。とにかく、これからあいつに喧嘩は売らない方がいんじゃないのか?じゃあな」


 踵を返し、今度こそ保健室を去ろうとする。


「ハルト君。今度何かお礼させてくださいね。ミナを気遣ってくれたお礼」


 そんなマナの言葉に、ハルトは背中を向けたまま右手をヒラヒラと振って、その場を去った


「よぉ」


 保健室を出てすぐの所にカズヤが立っていた。カズヤが話したいことは何となくわかるが、ここではまずいということで屋上に移動する。


 今日は雲ひとつない晴天だった。日差しが強くて少し汗ばむ、そんな陽気だ。


「ハルト、さっきの女」


「常人ではとても出せないような殺気を放っていたな。普通の人間が硬直するぐらいだったからな」


 ハルトは屋上の端で座りフェンスにもたれ掛かっている。

 カズヤはハルトの隣に立ってフェンスに寄りかかりながら腕を組んでいる。


「あの程度の殺気、お前にしてみれば、そよ風みたいなものだろ?」


 それを聞いて、カズヤは鼻で笑う。


「はっ、そんなことを言うお前も同じだろ?と言っても、今はそいつのせいで、何も感じないんだろうけどな」


 カズヤはハルトの左腕に付いている青と赤の2つのシンプルなブレスレットを指差した。表面に文字のような模様が掘ってあるだけの、他に何の細工も加えていない物だ。


「まぁな。だけど俺はあいつに目を付けられただろう。これからが大変そうだ」


 やれやれと俯くハルトに、まぁせいぜい頑張れや、と言って笑うカズヤ。


「そう言えば、あの氷神って転校生の出身、京都だってよ。自己紹介の時、誰かの質問にそう答えていた」


 その名字を聞いて、あからさまに嫌な顔をするハルト。


「《光に生きる四聖族》の一つ、白虎を司る氷神家か?でも確か、氷神家の連中って目の色が青いんじゃなかったか?」


「何の理由でこっちに来たのかは知らんが、おそらくはそうだろう。目の色については知らん。あいつが光側の人間っていう確証がほしければ、あの黒い袋の中身でも見ろよ。おそらく刀だろありゃ」


 カズヤは肩を竦めた。


「もし、俺たちの憶測が当たっていれば、面倒くさいのが来たな。だが、あいつの狙いは俺らではないだろ。あいつらは闇の存在すら知らずに《よう》を狩ってる一族だったよな?」


「油断はするなよ。まぁ、油断したところで負けはしないだろうがな。『漆黒の天使』」


 漆黒の天使と聞いたところで、ハルトの表情が少し変化した。明らかに怒りの表情だ。


「その名で呼ぶな。死にたくはないだろ?『微笑の死神』」


 殺気は出ることはないが、それでも背筋の凍るような目つきだった。


「こぇ~な。俺が悪かったよ」


 カズヤが素直に謝ると、ハルトはカズヤから目を逸らし、目を閉じた。どうやら残りの時間は寝るようだ。


「それにしても、お前よく寝るな?」


 そう言ってカズヤもフェンスに寄りかかりながら目を閉じた。



 ハルトとカズヤは一時間目終了の合図が鳴ると、教室に戻った。教室は相変わらず、ルカの席の周りに人がたむろっている。何処かでルカのことを聞きつけたのか、廊下にも外のクラスの生徒が数人いて中の方を覗いている。男子ばっかりだ。


「まぁ、気ぃつけとけよ」


 ハルトの肩を叩いてそそくさと自分の席に行ってしまうカズヤ。仕方なくハルトも自分の席に着いた。


「ハルト君、お礼何が良いですか?私に出来ることなら出来る限りのことは、・・・で、でも私の体とかは駄目ですよ。で、でも、ま、ハルト君がどうしてもって言うなら」


 ハルトが席に着くなり話しかけてきたのはマナである。一人で喋って一人で真っ赤になって終いには、顔に手を当てて腰をくねらしている。顔や、仕草や、話し方は幼いのに想像がハルト限定でたまにぶっ飛ぶ。こんな姿はファンの男子には見せられない。


「い、いや別に礼はいい、それよりあいつは大丈夫か?」


「はい、でも今日は早退するそうです。もう迎えが来て帰っちゃいました」


 一瞬で変な想像を止め、元の状態に戻るマナ。見ている方は怖い。


「そ、そうか」


そうしてしばらくマナと話していると、チャイムが鳴り2時間目が始まった。今日はまだまだ長そうである

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