一騎当千 ~戦いの渦の中で~ その6
カズヤとミズナがイチャイチャしている頃、ハルト達はちょっとしたピンチに陥っていた。
「なんなのよ!?あのキメラ!」
研究所に着いたはいいが、研究所の周りは人間の血の臭いが充満していた。そして、研究所の内部に侵入してみると、よくわからない機材が置いてある部屋や、液体に漬けられている人間や《妖》がいる部屋など様々な部屋が存在していた。しかし、どの部屋もメチャメチャに破壊されている。更に廊下や各部屋は白衣を着た人間の死体だらけになっていた。
しかし、研究所の廊下を歩いている時に、前後からキメラが襲ってきたのだ。どうにか、そのキメラを片付け、一旦外へと出た。その途中何体ものキメラに襲われたがどうにか無事外に出ることが出来た。
そこで待っていたのが一体のキメラ。そいつとの戦闘において苦戦を強いられている。外に出て、そのキメラを視認できた瞬間いきなり襲ってきた。どうにかその攻撃を回避し、こちらも攻撃を仕掛けのだが、今までのキメラとは違いこちらの攻撃を予想し、何手も先まで攻撃を読んでいるように対応してくるのだ。二対一でハルト達と同等とやり合うキメラ、一体何者なのだろうか?
このキメラ、かなり人間に近い容姿をしていて、知能を持っていると予想される。しかも、先ほどカズヤ達に任せてきたキメラとは桁違いのスピードとパワー、そして知能を有している。
「くっくっく、人間でもこれだけ強いのがいるとは。まぁ、俺もそんな人間と特別に強い《妖》と言うものから作り出されたのだがな」
どうやらこのキメラ、《闇に生きる者》と特A級の《妖》から作り出されたものらしい。《妖》や人間の時の記憶は完全に消えていて、全く新しいものとして生まれ変わったらしい。
一旦攻撃を止め、森の中に身を潜める。そして研究所の前に立つキメラの様子を伺う。追撃はしてこず、ただハルト達が攻撃を仕掛けてくるのを待っているように見える。罠などを警戒しているのだろうか?
「攻撃してこないのか?まぁいい、この時間を使ってお前達に面白い話をしてやろう。どうせ俺は此処でお前らに殺られるのだ」
既に自分の死を覚悟しているような台詞だ。
「なんで、私達があなたを倒せると思うのかしら?」
セイヨがそんなキメラの台詞に疑問を感じて聞き返す。
「お前達は俺よりも確実に強い。俺が勝てる可能性は0だ。まぁ、俺は自ら望んで生まれた存在ではないからな。人間も皆そうなのかもしれんが、人間は俺達と違い、生まれてから成長を経て自分という者の意味を見出していく。俺達キメラは、生まれた時からしっかりとした自我を持っている。少しでも気を抜くと、自分で望んでいるわけでもないのに全ての者を憎み、破壊したいという衝動に駆られる。先ほど研究所の中にいた人間を皆殺しにしたようにな。知能を持つとは嫌なものだな。俺も他のキメラの様に自我を持たなければもっと幸せだったのかもしれない。いや、俺よりも強いお前達に直ぐに出会えた私は十分幸せなのかもしれない。これ以上何かを壊さなくて済む」
どうやらキメラは自ら望んで人間を襲っていたわけではないらしい。話を聞く限り、本当は優しい心を持っているようだ。そして、自分の意思とは無関係に負の感情が体を支配して何かを襲わせている。その度に傷つき、悲しむ。人間によって勝手に生み出され、何の罪もない。もちろん、死ぬ必要なんてない命だと思う。
「そこまでわかっている君が死なないといけないのか……、君はキメラを生み出した人間よりもずっと立派な心を持っているように感じるよ。できれば俺は君を殺したくない」
「すまない。自分で自分は殺せない。襲って来る者には勝手に自己防衛の機能が働いて反撃してしまう。頼む、お前の手で殺してくれ。これ以上苦しみたくない。俺を作り出した人間を殺した時も俺は苦しかった。憎む人間を殺した時ですら俺の心は悲鳴を上げたのだ。お前みたいな人間に殺されたいのだ」
キメラの顔はとても悲しそうな表情をしていた。
「わかったよ。せめて苦しまないように、一瞬で楽にして上げるよ。それが俺に出来る唯一のことだと思うから」
ハルトの言葉を聞いた瞬間、キメラの表情が柔らかくなった気がした。
「ありがとう。今、キメラを作り出す研究所が、日本各地に創られているはずだ。少し前に、色々な所にキメラの研究資料を人間が送っていたからな」
「なんですって!?」
セイヨがその発言を聞き、驚きの声を上げる。声は出さなかったものの隣にいたハルトも驚きの表情を作る。
「お前達強い人間に頼みたい。全ての研究所を破壊して俺のようなキメラが二度と誕生しないようにしてほしい。もし誕生してしまっても、お前達の手で葬ってやってほしい。俺の短い一生の一度の頼みだ。まぁ、自分勝手な頼みだがな……」
自嘲気味に笑う。このキメラはハルトが受けてくれると確信していた。
「わかった。約束する。君みたいな心優しい破壊兵器をこの世から消し去る」
「すまない、感謝する。少し前にも俺と同じように自我を持ったキメラがいただろう?あいつは、もう逝ったのだろうか?」
カズヤ達と戦っていたキメラのことを言っているらしい。
「ええ、おそらく私達の仲間が」
「そうか、礼を言っておいてくれ。さぁ、来い。早く苦しみから解放してくれ」
キメラはそう言うと、両腕を広げた。
「ハルト、わかっているわね?おいで『月下美人』」
「うん、『雪月花』来て。全力で行く!!」
ハルトは地面に普通の刀を鞘ごと突き刺し、妖刀を呼ぶ。セイヨは今回の戦いでは、刀は『月下美人』の一本だけを使用するようだ。そして、森から出て、キメラと正面で対峙する。
「来い!!!」
「行くわよ!!『血風』」
キメラも構えを取る。三人の中で一番先に動いたのがセイヨだった。『月下美人』に大量の《気》を送り、素早く斜めにクロスするように二度刀を薙ぐ。すると、セイヨの刀から二本の赤い《気》がクロスをつくって相手に向かっていった。
キメラは心とは別に体が勝手に動いてしまう。そして、それを手の平によって吸収しようとする。《気》の速度は決して速いとは言えない、十分とらえきれる。
キメラの手に《気》が迫り、手に触れるか触れないかの所で急に形を変え、腕に絡みついたのだ。そのまま、《気》が生き物のように動き、キメラの体全体に絡みついて行く。そして完全にキメラの動きを封じた。キメラはもがくが、ピクリとも動けない。
ハルトは目を閉じ集中している。数分後、ハルトが目を開くと同時に刀を抜刀する。ハルトの辺りに無数の青い花弁のような物が姿を現した。
「『月桜』」
『雪月花』をセイヨの技で動きを封じられているキメラの方に向ける。ハルトの周りにあった青い花弁が一斉にキメラに向かい飛んで行く。
「さようなら」
「感謝する」
ハルトが呟き、キメラが笑って礼を言うと同時に、キメラの体が消滅した。塵も残さずに綺麗さっぱり消えてしまったのだ。ハルトの周りにあった青い花弁のような物は、ハルトと『雪月花』の《気》を超圧縮したものだ。それはキメラに触れると同時に圧縮されていた《気》が解放され、キメラの体の各部分を消滅させた。
「終わったわね」
「……でも」
「ええ、何かすっきりしないわね」
ハルトとセイヨの表情は暗い。争いを好まぬキメラを殺したこと、そしてそれを創り出した人間に怒りを覚えていた。
「セイヨ、仲間を集めよう。これ以上キメラを増やしちゃダメだ」
「そうね。悩んでいても始まらないわよね。まずは、私達に出来ることをしましょう」
研究所を完全に破壊した後、二人は一緒に村へ引き返していった。
村に戻った二人はカズヤ、ミズナ、ラルゥにこのことを話した。三人は快くハルト達に協力を誓ってくれた。カズヤに関しては、人が変わったように協力的になっていた。どうやら、ミズナと知り合ったことで何かが吹っ切れたのだろう。
全国からハルト達の考えに共感を持つ『闇に生きる者』と連絡を取り、一つの組織を作った。
表には決して出てこない、その組織の名を『無月』という。




