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生闇斬魔  作者: 湖林
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一騎当千 ~戦いの渦の中で~ その4

「今二手に分かれて敵を攻略しているところなんだが、この辺に敵はいねぇーのか?変な気配を感じるんだが」


 ミズナにそう聞くと、少し困った顔をしてカズヤの質問に答えた。


「いるわ。多分五体?両足を吹き飛ばしているから身動き取れないはずよ」


 カズヤは敵が襲ってこない理由を理解した。普通、あれだけハデにドンパチをやれば、敵もこちらの場所が解るはず、なのに一向にこちらに向かってこない。


「でも、なんで止めをささねぇーんだ?」


 もっともな疑問である。足だけを綺麗に打ち抜けるのだから、急所を打ち抜けないはずがない。


「だって、キメラの元々の姿は人間なんでしょ?もしかしたら罪もない人を無理矢理キメラに改造したのかもしれないよ?無理だよ、殺せないよ」


 そう言うと俯いて肩を振るわせ始めた。ミズナをよく見てみると、体の所々に傷があるのに気付く。きっと、キメラに付けられた傷だろう。

 キメラは殺せなくて、カズヤは簡単に殺そうとしたのはどう解釈したらいいのだろうか?確かに、カズヤは何の罪もない人間ではないが……。


「なんで、其処までしてあいつらを殺さないんだ!!」


 此処まで傷つけられてなおキメラを殺さないミズナの心が解らない。


「助けられるかもしれないじゃない?殺したくないよ」


「じゃあ、お前の村はどうなるんだ?このままあいつらを放置しておけば、お前の村が襲われる。どっちも救いたいなんて所詮無理な話なんだよ!!」


 カズヤが怒鳴り散らす。それに吊られ、ミズナの声も大きくなる。


「だから、動けないようにしたんでしょ!!」


「無理だな。ハルト達の話だとあいつらは再生する。しかも、かなり速い速度でな」


 カズヤは感じていた、先ほどまで止まっていたキメラの気配が、こちらに向かい動き出している。


「で、でも!!」


 とまどっているミズナにはキメラが迫ってきているのが解らないようだ。


「“自分の大切なものを守る為なら迷わない。たとえそれが人間の命を奪うことだったとしても!!”村を出る前、俺がハルトにキメラのことを聞いた時にハルトが言った言葉だ。ハルトはキメラが元は人間だと解っていても、キメラを斬ることに迷いはない」


「俺は、最初は強い奴と戦いだけでハルト達に着いてここへきた。だが、今は何かが変わってきている。かなり少ない時間だが、あいつらと一緒に行動してみて、初めて俺の中に疑問がわいた。他人とは何か?仲間とは何か?信頼できる者とは何か?って疑問がな。今までは自分が満足できればそれで良かった、他人なんて自分を満足させるための道具だと思ってた。そんな俺が初めてそう言うことを考え始めたんだ、ハルト達には此処で死んで貰っちゃ困る。そしてあの村もな・・・。っと俺の話は此処までだ、お前は戦う意思があるなら俺に力を貸せ、その気がないなら村に帰りな。元は人だった物が死ぬとこは見たくないだろう?」


 カズヤはミズナを残しキメラ達の方に向かって行った。どうやら、司令塔(つまり言うところの人間)はいないようだ。《気》を高めればこちらに向かってくるはず。


「さぁ、ゲームの始まりだ」


 さっそくカズヤは目の前にキメラを発見した。あちらもこちらに気づいているようで、一直線にこっちに向かってくる。


「よっしゃ!!行くぜ!!!」


 カズヤは拳に《気》を集中させて、敵を迎え撃つために体制を整える。


「確か」


 《気》を一点集中で集め、敵の頭に一撃で穴を開ける。これがハルト達に習ったキメラ対処法だ。考え事をしているうちに目に映る敵の姿は大きくなり、後十数歩でカズヤに到着するところまで来た。


「簡単に言うがかなり難易度がたけーじゃねーか」


 そして、敵はこちらの間合いの中に侵入してきた。その瞬間、カズヤは左拳の上段フェイントを入れると、そこから流れるように当て身を出し敵の体勢を崩す、此処までは順調にいった。本人曰く、当て身の際に肩に《気》を集中させるのがポイントだそうだ。敵の体勢が崩れたところで、カズヤは流れるような動作で敵の顔面へ右の正拳突きを繰り出す。

 キメラはカズヤの正拳に対し、右手を顔の前に持って行き防ごうとする。カズヤはそれも読んでいて、キメラが両手でガードしたとしても、そのガードを貫通し頭を貫けるぐらいの《気》を練っていた。


「なに!?」


 計算ミスがあったのはカズヤの方だった。キメラの右腕は手首から上が完全に消えているが頭は無傷だった。無傷だった顔の気味の悪い目がカズヤのことを見ている。

 カズヤの計算ミスとは、敵の防御力の高さ、そして何より自分の《気》のコントロールへの満身・・・。キメラにカズヤの拳が当たった時の《拳》に練られていた《気》の量は、カズヤの思っている量の三分の二以下だった。確かにキメラに攻撃する前に練られていた《気》はキメラを必殺できる量だったのだが、本命の右の正拳を繰り出すまでの、2クッションの攻撃で拳の《気》が徐々に霧散してしまっていたのだ。

 カズヤはとっさに左腕を胸の前に持っていき後ろに飛ぶが、必ず決まると思い敵の懐に入り込みすぎていた。


 ドガッ


 左腕に強い衝撃を受け、数十メートル吹き飛ばされた。左手が痺れて、暫く使い物にならなそうだ。


「ちっ、なんて馬鹿力だ。接近戦は分が悪いぜ」


 敵の気配で敵に完全に囲まれているのがわかる。直ぐに立ち上がろうとする。


「・・・!?」


 急に目眩に襲われた。意識を集中させてみると、体中の《気》がかなり減っているのを感じる。


「やべーな。ハルト達の言うように一筋縄じゃいかねぇーか」


 元々、カズヤは拳で戦う超近距離戦闘タイプ、キメラはそんなカズヤの戦闘スタイルの者にとっては天敵。少しでも手で触れられると《気》をあっという間に持って行かれてしまう。刀などの武器を持てば間合いがグッと広くなるのだが、カズヤは武器をあまり好かない。だから、確実に一撃で仕留める必要が出てくのだが、威力の大きい攻撃になればなるほど外れたり防がれた時の隙が大きい。


「ちっ!!うまく相手のバランスさえ崩せれば。・・・!?」


 ふと顔を上げると、片腕を失ったキメラはカズヤの視界いっぱいに広がっていた。キメラの金属の光沢を放つ腕が首に迫っている。避けられるタイミングではない。カズヤは今日何度目かの自分の判断ミスを後悔した。キメラにも痛覚があると思い込んでいたのだ。痛みを感じる体なら、こんな早くは追撃して来れないだろう。

 カズヤは自分の死を覚悟して最後にキメラの顔面に《気》を溜めた拳を繰り出した。


 ブシャッ


 吹っ飛んだのはキメラの頭と腕だった。キメラの腕がカズヤの首を捕らえるより一瞬早く“光の矢”がキメラの腕をもっていっていた。そして、カズヤが繰り出したカウンターはキメラの頭を跡形もなく消滅させていた。


「ふ~、助かったぜ。どうやら決心が付いたようだな?」


 横を見ると、数十メートル先でミズナが右腕を水平に上げた状態でこちらを見ていた。その瞳にはもはや迷いはない。


「おっしゃ!この調子で後のも片付けちまおーぜ」


 後四体残っている。一体と戦っている内に、周りをぐるりと囲まれてしまったようだ。


「もう私の技じゃキメラの頭を直接貫くのは難しいわ」


 ミズナはカズヤに近寄ってきてそう言った。


「なんでだ?足とかピンポイントで貫くことが出来るんだから、頭貫くぐらい簡単だろ?」


 カズヤとは逆にミズナなどの超遠距離攻撃タイプは、遠距離攻撃の出来ないキメラにとって天敵なのである。間合いに入る間には四肢を持って行かれてしまう。まぁ、間合いに入れば無力なのだが。


「無理よ。あれは全部不意を突いたから出来たことなのよ。もうあっちも警戒してる。だから、そう簡単にはいかないわ。あなたを援護することぐらいなら出来るけどね」


 そう言って、ニッコリと小悪魔的に笑った。その表情は“あなたなら、援護があれば確実にキメラを仕留められるでしょ?”と言っているように見えた。


「ああ、援護だけで十分だ!!」


 カズヤは四体いるうち一体のキメラの方向に向かって走り出した。少し距離を取って、ミズナもカズヤに続く。

 キメラを視認できる距離に入ると、拳に《気》を練って更にスピードを増し突っ込んでいく。カズヤがキメラの間合いに入った瞬間後ろから“光の矢”が三本飛んできてキメラに突き刺さる。痛みを感じないキメラでも衝撃には当然よろめいてしまう。


「おらぁぁぁ!!」


 よろめいたキメラの顔面を気合いと共に拳が貫く。敵に防御策無しで突っ込んで行くなど援護を完全に信頼していないと出来ない事である。何故か会ったばかりの彼女をカズヤは信頼できた。そしてカズヤは後ろを守られている安堵感を初めて感じていた。凄く安心して戦える。


「さぁ!!ちゃっちゃと片付けちまおーぜ!!!!」


「うん!!」


 出会ったばかりなのに息がピッタリの二人が残りの三体をこの世から消し去ったのは、これから数分後の話だった。

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