綺麗な花には棘がある?その2
「兄さん、後で」
「ああ」
校門を入ったところで、ユキヨはハルトとカズヤの元から去っていった。彼女は一年なので校舎が違うのだ。ちなみにハルトとカズヤはクラスが一緒である。
「じゃあ俺等も行くか」
教室に向かう途中でカズヤが思いだした、と前置きをして話を振った。
「そういや、知ってたか?今日転校生が来るらしいぜ」
「いや、初耳だ」
ハルトはカズヤがどこからそんな情報を仕入れてくるのか気になったが、特に聞くのも面倒くさいと思い、聞かなかった。
「お前のことだから知らねぇと思ったが、やっぱりか。昨日クラスで噂になってたぜ」
そんな話をしながら、教室に入るとハルトとカズヤは数人の女子から挨拶をされた。いつものことなので、いつも通り挨拶を返すと自分たちの席に荷物を置いた。
「いいよなぁ~、二人とも」
二人に声を掛けてきたのは、ハルトとカズヤにまとわりつく、もとい友達の山本 拓也である。取りあえず目立った特徴がない。言うなれば掛けている黒縁眼鏡ぐらいだろう。無類の女好きでハルトとカズヤとは反対にクラスの女子の避難の的だ。
「何がだ?」
ハルトはタクヤの言いたいことがまったく理解できていない。自分が少しばかり女子に人気があることに気付いていない。
「本当に鈍いんですね。ハルト君は」
今度声を掛けてきたのは、去年の文化祭のミスコンで見事に優勝した美女、水叉 麻奈である。肩より少し伸ばした髪は濃い藍色をしている。おっとりとした性格や物腰で誰にも敬語で話しかける。その辺の男子に言わせると、見ているだけでも癒される、だそうだ。
「どうでもいいだろ。俺は少し寝る」
マナの言いたいことをしっかりと考えようとはせずに、机に突っ伏してしまった。
「はぁ、すぐ寝るんですから。たまには私のお話に付き合ってくれても良いじゃないですか。それに、そんなに寝ているとお牛さんになっちゃいますよ~」
少し甘えた様な声を上げハルトと話を続けようと控えめに肩を揺する。マナに惚れ込んでいる男子に言わせれば、そんな彼女がとても可愛いのだそうだ。彼女のファンが彼女からこんな話し方をされれば、例え死ぬほど眠くても、実際に死にそうでも、マジで死んでいても(笑)どうにかして彼女と話しをするだろう。しかし彼女がこういった話し方をするのは、この広い学校の中でもハルトただ一人。この二人に過去に接点があり、今のような関係になったのだが、またそれは別のお話。
結局、ハルトはマナの言葉を聞いても顔を上げなかった。どうやらもう寝てしまったようだ。
「じゃあ、マナさん俺と話しましょう!!」
「それはちょっと嫌です」
拓也がしゃしゃり出るが、即拒否である。
「ガーン」
「口に出して言うな」
突っ込んだのはカズヤ。素早いつっこみだ。
「今日、転校生が来るらしいぜ」
「マジか!!女か!?女だよな!?いや、絶対女の子だ!!」
「ひとりで完結すんな!!!」
勝手に1人で会話を完結しているタクヤ、すかさずカズヤが突っ込む。
「確か、女の子と聞きました」
二人の漫才が面白くないのか、苦笑しながら言うマナ。
「楽しみだな。速攻で口説き落としてやるぜ!!・・・可愛かったらな!!」
「やめとけ、またひかれるぜ」
そんな会話をしているうちにチャイムが鳴った。チャイムと同時に駆け込んでくる女子が一人。
「はぁ~、間に合った!!」
マナと顔のそっくりな人物。マナの双子の姉、水叉 美奈である。双子だが、性格が正反対だ。妹のマナはおしとやかでいつでも敬語、対する姉のミナは男口調にがさつな性格。髪型も妹のマナはセミロングに対して、姉のミナのショート、癖のないサラリとした髪の毛だ。一卵生双生児のため基本的には顔はそっくりであるが、話し方と、髪型が違うので、基本的に間違えることはない。文化系のマナと、体育系のミナなんて蔭では呼ばれていたりする。
「おはよう!!みんな!!!」
そう言ってミナはマナの隣の席に着いた。
「もう、ミナはいつも遅刻ギリギリだよね。もう少し早く来ればいいのに」
「別にいいだろ、遅刻してないんだから」
姉に対してはさすがのマナでも敬語は使わないらしい。
しばらくして、先生が教室に入ってくる。教壇の前に立つなり、前山先生は声を上げて笑った。
「おはよう!!今日も一日頑張っていくぞ!!暑くなってきたが、もうすぐ夏休みだ!!最後まで頑張れよ」
この先生は生徒に人気がある。人当たりの良さと、どんな出来の悪い生徒も、どんな出来の良い生徒も差別しないからだ。なかなかこういう先生はいるものではない。
「話は以上だ。何か質問ある奴いるか?いない、な。じゃあ、今日のショートホームルームはこれで終わりだ」
そう言って、前山先生は去ろうとしてドアの方を向いたところで、動きを止めもう一度生徒の方に向きなおし、ポンと手を打った。何故かでっかい冷や汗が額に張り付いているように見える。
「すまない。今日転校生の紹介をするんだった」
「「「「「そんな大事なことを忘れんな!!!!!!!」」」」」
生徒の息の合った突っ込み。さすが前山先生のクラスだけのことはある。
「じゃあ、君入ってくれ」
前山先生の声と共に、教室の扉が開いた。クラスの男子から歓声が上がる。そんな歓声にも耳を傾けずに、その女子生徒は、教卓の前まで歩いてきて、自己紹介を始めた。
「始めまして、氷神 瑠香です。これからよろしく」
そう言って華麗に頭を下げると、少し茶色掛かったセミロングの髪の毛が一緒に揺れた。ユキヨほどではないが顔のパーツが整っていてかなりの美人である。顔もそうだが、肩に掛けられている真っ黒い長い竹刀袋のような入れ物もかなり目を引いている。
ルカが自己紹介をした時に一瞬、カズヤが眉をピクリと動かした。が直ぐに興味なさそうに窓の方に視線を移し、窓越しに空を眺め始めたのだった。綺麗な水色の空には真っ白い雲が気持ちよさそうに泳いでいた。