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生闇斬魔  作者: 湖林
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一期一会 ~赤い月の下で~ その1

 森が精気を失い、綺麗に紅葉をしていく時期。少し肌寒い風が綺麗な洋服を着た森をざわめかせ、赤い月が不気味に山道を照らし出している。其処を音も立てずに素早く移動している黒い影が一つ。自身よりも大きなマントを羽織り、顔もマントによって隠されている。月明かりでチラリと覗くその顔はまだ幼い男の子のそれであった。しかし目に子供らしい輝きはなく、濁っていた。全てを憎み、嫌っているような目だった。どう育てばこんな小さい子供にこんな目が出来るのだろうか?そして手には自分の身長よりも少し短いぐらいの細長い何かが握られていた。


「・・・」


 無言で音も立てずにただ前を見据えて走っている。しばらく走ると、森が開け町の明かりが見えてきた。が、後一歩で森から出られるという所で、男の子は足を止めた。


「だれ?」


 冷たく、何の感情もこもっていない無機質な声が男の子の口から発せられた。見渡す限り誰もいないように見える。


「へー、凄いね。完全に殺気を抑えたつもりだったんだけどな」


 何処からともなく、声が聞こえてきた。そして、男の子の前に同じように黒いマントを羽織った同じぐらいの身長の影が現れた。手には男の子が持っている物ぐらいの長さの物が握られていた。男の子とはっきりと違うところは、声に感情がこもっているということ。


「戦うの?」


「うん、でもその前にあなたの名前は?見たところ私と同い年ぐらいに見えるけど、年齢は?」


 男の子の前に立ちふさがった影は、少し楽しいといった感情が入った声で聞いてきた。


夜破御やはみ 晴斗はると。年齢はわからない」


「ふ~ん、まぁいいや。私は、美月みつき 星夜せいよ。じゃあ、あいさつが済んだところで殺させてね」


 そう言って男の子、ハルトの前に立ちふさがった影、セイヨの姿がぼやけて消えた。音すら立っていない。まして、人を殺そうとしているのに、かすかな殺気すら放っていない。


 キィィィィィィィン


 次の瞬間、金属のぶつかり合う音が森に響き渡る。ハルトとセイヨの二人が持っていた細長い物はどうやら刀だったようだ。ぶつかり合った刀同士が闇の中に火花を散らせる。しかし、こんな子供の何処にこんな力があるのだろうか?普通なら持つのも辛い重さのはずである。それを片手で振り回している。


「貴方も《気》を使えるのね。楽しくなりそう」


 セイヨは、嬉しそうに呟くと自分の刀を一旦退いた。セイヨの持っている刀の刃は人の血のような赤をしていて、刃こぼれ一つなく、とても綺麗である。それに対して、ハルトの持つ刀は普通の刀と変わりなく少し黒っぽい色をしている。しかもよく見ると、所々刃こぼれがある。


「なんで」


 ハルトがそう呟くが、セイヨはそんなことお構いなく攻撃を再開してきた。ハルトとセイヨの刀が森の所々でぶつかり火花を散らしている。しかし二人の姿は見えない。凄い速さで移動しているのだ。


「早く勝負を付けないと、貴方の刀が持たないわよ。刀に《気》を送るのも大変でしょ?私が使っているような妖刀なら自分である程度《気》を作って、勝手に纏ってくれるから楽なんだけどね」


 セイヨは余裕で、笑って説明しながら戦っていた。セイヨの持つ赤い刀は妖刀である、それも妖刀の中でも五本指にはいるほどの名刀『月下美人げっかびじん』なのである。妖刀は意志を持っており、自分の主は自分で決め、自分自身で《気》を練りだし、主の戦闘を助けてくれる。《気》を纏っていなくても相当の強度はあるのだが、《気》を纏うことによってその数十倍の強度にまでなる。

 一方、ハルトの使っているのは、普通の刀。刀自身が《気》を練ることは全くない。それほど有名でもない刀で、強度も妖刀と比べ物にならないほど低い。現在セイヨの持つ妖刀『月下美人』とぶつかり合っても折れないのは、ハルトが送り込んでいる《気》のお陰だと言っていい。


「なんで、なんで戦わなくちゃならないんだよ。もう、疲れたよ」


 セイヨとは反対にハルトは、戦いたくないのか防戦一方である。受けているばかりだとそのうち・・・。


 パキィィィィィィィィィィィィン


 今までよりも高い音がして、ハルトの持つ刀の刃の部分、上半分がなくなった。その時右腕の表面を浅く切られた。


「何の為に戦わなくちゃいけないんだよ?」


「クスッ、あなた面白いこというのね?そんなの自分が生き残る為に決まっているじゃない?」


 もう勝負はついたと言うように、セイヨが攻撃を止め、膝を付いているハルトの前まで来て《月下美人》をハルトの方に向けた。


「いいわ、最後あなたを殺す前に色々話しましょう?普段は直ぐに殺すんだけど、あなたは特別。同い年くらいの《闇の中で生きる人間》なんて滅多にいないしね」


「君は何故、僕を殺そうとするの?」


 ハルトはもうすぐ殺されるというのに、恐怖も、絶望も、喜びも、何の感情もない声で喋る。


「とある人に頼まれてね。何でも、あなたが私の依頼者の可愛いペット達を殺したらしいわよ。でも驚きね、その映像を見せて貰ったけど、あなた普通の刀で《妖》をあんなに簡単に斬り伏せるなんて」


 ハルトはその話を聞いて、一週間前に大量のA級の《妖》を殺したことを思い出した。その《妖》達は人間の研究施設の敷地内で実験台にされて、体のあちこちを改造されていた。 

その施設の敷地の近くを通ったハルトに、柵越しにすがるようにこう言った“クルシイ、コロシテクレ”と。ハルトの《妖》を殺す姿が監視カメラに写っていたらしい。


「そっか、わかった。いいよ、僕を殺して。やっとお母さんとお父さんに会えるんだ」


 始めてハルトの声に感情が含まれた。それは喜びと呼ばれる感情。セイヨはハルトの喉元に刀を突きつける。本当にハルトは恐怖を感じていないようだった。


「じゃあ、最後に何か言うことはない?伝言だったら聞いておいて上げるけど」


 少し黙った後、ハルトは口を開いた。


「もっと、もっと普通に生きたかった。お父さんとお母さんと一緒に、ずっと一緒に。もう一人は嫌だよ、いつも寝る時思い出すんだ。お母さんとお父さんが死ぬ瞬間を、生きているのが辛かった。夜が来る度に怯えてた」


 そんなハルトの姿を見て、セイヨは自分と重ね合わせ、心に迷いが生じてしまった。セイヨも同じだった。両親が殺され、一人で生きなくてはならなくなった。寂しいとか辛いとか怖いとかいう感情は心の内に隠し、生きるために何でもやってきた。セイヨもハルトと全く同じことを心の奥底で思っていた。まだ二人は十歳なのだ、完全に心を隠すことなど出来るはずがない。


「じゃあ、なんで今まで生きてきたの?」


 セイヨは止めを刺そうとせずに、また質問をした。心なしか『月下美人』を持つ手が震えているように見える。


「わからないよ。なんで今まで生きて来たかなんて。死ぬのが怖かったわけじゃないと思う」


「なんでよ!!生きているの辛いんでしょ!!」


 さっきまで冷静沈着だったセイヨの心が乱れ始めた。


「辛いよ。だけど、自殺だけはやらないって決めてたから。君には勝てないから、君になら殺されてもいいよ。僕と同じ感じのする君になら」


「くっ!!」


 セイヨはハルトを殺す為に手に力を込めようとするが、力が全く入らない。いやむしろ力が抜けていくのを感じる。


「どうしたの?」


「なんで、なんでよ!!なんで、今頃、あなたみたいな人に出会うのよ!!あなたは殺したくない。でも・・・」


 殺さないと自分が狙われることになる、《闇の世界》での仕事の失敗や放棄は信用を落す。つまり、自分が弱くなったと周囲に思われるのだ。その結果、多くの同業者から命を狙われることとなる。セイヨのように少し名の知れた者なら尚更である。


「だれ?」


 セイヨが自分の意思と葛藤していた時に、ハルトが突然森の方に向かって声を掛けた。セイヨは考え事に夢中になっていた。


「おやおや、バレてしまいましたか。もっと気配を消す改造が必要なようですな」


 白衣を着た、いかにも頭が狂っていそうな奴が姿を現した。


「囲まれた」


 ハルトが周りを見渡す。


「さて、これから楽しい実験の始まりですよ。私の成果物にあなた方、”化け物”がどの程度耐えられるかねぇ!!」


 白衣の男は、狂気的な笑みを浮かべたのであった。

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