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生闇斬魔  作者: 湖林
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綺麗な花には棘がある?その1

 カーテンの隙間から部屋に光が注ぎ込まれる。真っ暗だった空間にわずかな光が入り込み、その部屋でベッドに寝ている少年の顔をうっすらと浮かび上がらせた。しかし、その少年は少し眉をひそめるとタオルケットを被り、光から逃げるように体を動かした。そして、しばらくモゾモゾ動いた後に寝息を立て始めた。夏も近づき、外では徐々に蝉の鳴き声が大きくなり始めている。


 トン、トン、トン。


 誰かがその少年の寝ている部屋に向かって階段を上がってきた。少年が寝ている部屋の前に来るとしばらく立ち止まり、そして静かに扉を開けて部屋の中に入る。


「兄さん、朝」


 破夜御はやみ 雪夜ゆきよは感情のない声でベッドの主に声を掛けると、丸くなっている塊を軽く揺すった。

ユキヨは既に制服に着替えている。毎朝必ずグシャグシャに乱れる、髪を梳いて綺麗にし終わっていた。梳き終わった髪は、流れるように腰まで伸び、とても艶やかであった。そして、その無表情な顔は見るのをゾクリとさせるほど整っている。若干鋭い目、スッと通った鼻筋、薄めの唇。それぞれの配置が神掛かっていた。無表情のせいで、第一印象は怖いと感じる人もいるだろう。


「もう少し」


 少年からは小さな願望が返ってきた。全く起きる気配はない。1分程度経つと、ユキヨの綺麗な顔に少し変化が表れる。最初は少し困った顔をし、その次に少し怒ったような顔になった。ユキヨにある程度近しい人でないと気付けないほど小さな変化だったが。


「兄さん、早く起きないと、遅刻する」


 次の瞬間、容赦なくタオルケットをはぎ取った。華奢な体からは想像できないほどの力が生まれたらしく、それに包まっていた少年は一瞬宙に浮きカーペットの上に顔面から突っ伏すことになった。


「いてて、何すんだよ。ユキヨ」


 まだ眠そうな目を擦りながら、破夜御はやみ 晴斗はるとはユキヨを睨んだ。少し延びた漆黒の髪、そして吸い込まれそうな漆黒の目が印象的だ。目つきはユキヨと同じように若干鋭い。


「だって、兄さんが起きないから」


 少し拗ねたような表情になった。不覚にもハルトはそんな妹が可愛らしく思えてしまい、言葉に詰まってしまった。


「あ、あぁ、悪かった。朝は苦手なんだよ」


「御飯、準備終わっているから」


「そっか、わかった。着替えたらすぐ行く」


 はい、と小さく返事をしてユキヨはハルトの部屋を出て台所に向かった。

 ユキヨと、ハルトは実の兄妹ではない。身元引受人は、今は海外の何処かで元気に暮らしているらしい。現在は2階建ての4LDKを2人で使っている。


 朝食を食べ終わると二人は家を後にして、学校に向かう。学校は家から歩いて約15分という結構近場にある。全国どこにでもありそうな、一般的な進学校だ。


「今日はのんびり行けそうだな」


 ハルトは隣を歩いているユキヨに話しかけると、ユキヨが表情の無い顔をハルトの方に向けた。


「兄さんが、いつも今日と同じぐらい素直に起きてくれれば、いつも急ぐ必要なんてない」


 淡々とした口調のユキヨ、しかし別に怒っているわけではない。いつもこうなのだ。ハルトとごく少数の人間以外の人の前ではここまで多弁ではない。他人の前ではほとんど無口で、一切表情を変えない。


「悪いな、いつも迷惑掛けて」


 ハルトがそう言うと、ユキヨの表情に喜びの感情が浮かんだ。


「別にいい」


 そこから会話は途切れるが、気まずい沈黙ではない。ユキヨが話すのがあまり好きでないことを知っているので、家以外の所ではあまり頻繁に話しかけないようにしている。


「おーっす、お二人さん今日も一緒に登校かい?」


 しばらく歩いていると後ろから、よく知った馴れ馴れしい声が聞こえてくる。


「カズヤか、朝から大声で話すな」


「相変わらずお前はやる気がなさそうだな」


 そう言ってハルトに声を掛けてきたのは羽馬はま 和也かずや、ハルトとは古くからの付き合いである。笑ったときに見える犬歯や、時折見せるギラギラした瞳から、野獣的な印象を受ける。ただ、茶色いサラサラの髪の毛が彼のそういった印象から浮いているように感じられる。本人自慢の髪らしいので、誰もその件には触れてはいない。目はブラウンなのだが、一般的な日本人と比較すると色がだいぶ薄く感じる。


「そうか?」


「ああ、かなりな。でも、まぁいいんじゃねぇの?その方がお前らしくて」


 確かにハルトからは気力とかそう言ったものは感じられない。いつも眠そうで、無気力というのが周りからの評価だ。


「俺らしいか」


「おっと、失言だったかな?」


 そう言って、ニヤリと笑うカズヤ。


「カズヤさん、その辺にしておいて」


「悪い、悪い、ちょっとした冗談だ。そんな怖い目で見ないでくれよ、ユキヨちゃん」


 大して悪びれた様子もなく、カズヤは肩をすくめた。


「まぁ、そんなことどうでもいい。行くぞ、二人とも」


 ハルトは特に思ったところはないようで、二人に声を掛け再び学校への道を歩き出したのであった。


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