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リグレットアーミーズ  作者: にがトマト
竜人・魔装編
8/71

歪んだ『普通』

今回は短めです~、はい。

それと、少しグロいです、はい。

 四人は、リグレット王国の隣国の一つであるネロウス皇国の、とある貴族の館に来ていた。

 ルークがリースに訊く。


「なぁ、リース、なんでここに来たんだ?」

「なんとなくよ」


 レドルノフにルークは羽交い絞めにされた。


「離せ、レドルノフ。俺はこいつをみじん切りにするんだ」

「落ち着きなさい、良い子だから」


 まるで、幼子をあやすような優しい口調。

 まぁ、なんてムカつくことでしょう。

 リースが穏やかに微笑みながら、言った。


「冗談よ。ここに来たのは、『裏』の方の仕事をやるためよ」


 シュスが首を傾げた。


「裏の仕事って何んだ?」

「……その男言葉、直した方が良いわよ」

「根付いた」


 リースはため息をついた。

 そして、質問に答えた。


「裏っていうのは、まんまよ。子供や純粋な国民たちには見せられないような、汚い暗部のこと」

 シュスは、彼女が自分が殺し屋だということを言っていたことを思い出した。


「ってことは、殺しなのか?」

「そうよ。ターゲットは、あの館にいる貴族全員」

「なんで、殺すんだ?」

「理由? それはね、あの館にいるのは、リグレット王国(うち)に戦争を吹っかけることを賛成してる馬鹿貴族だから」


 シュスが思っていた理由とより、健全なものだった。

 てっきり、勢力争いの上で邪魔だから消す、とかの私欲でやるものかと思った。


「そんな訳よ。だから、行ってきま~す♪」


 三人にそう言い残してから、彼女は堂々と貴族の館へと歩き出した。

 気配を消すことにせず、姿すら隠さずに、馬鹿正直に門へと歩いていく。

 …………ん?


「あの人何してるの!?」


 シュスが彼女を止めるために、走り出そうとする。

 その瞬間だった。

 ルークに腕を掴まれて止められたのは。


「ええ!? いや、リース止めなきゃヤバいだろ!?」

「いや、俺もあいつがどんなやり方でやるかは知らないが、考えなしで行くほど、あいつも馬鹿じゃない」

「そりゃ、そうかもしれないけどよ」


 レドルノフがシュスの頭に手を置いて、言ってきた。


「ま、ここで見てろよ。リグレット王国軍の二番手さんの実力を」


 シュスが集音のための魔法陣を描き、発動させる。

 ちょうど、リースは門の手前についた。

 そして、門番に言った。


「お疲れ様。レーネ、手筈通りにやってくれた?」

「はい。これが館の中の見取り図です」

「「「部下かよ!!」」」


 あまりに予想外だったため、三人は思わず同時に突っ込んでいた。


「ていうか、あれレーネかよ!」


 ルークの叫びに、シュスは首を傾げながら訊く。


「レーネって誰?」

「同業者だよ。階級は俺たちより一個下の、少将」


 ルークの回答を最後にして、三人はリースとレーネの会話に聞き耳を立てる。

 リースは、レーネから見取り図らしきものを受け取り、すぐに返した。

 どうやら、一度目を通しただけで覚えたらしい。


「ありがと」

「いえ、仕事ですから」

「……あんたっていつも思うけど、かなり事務的ね。もう少し砕けたら?」

「正直、あの人以外にはそういう態度を取れそうにはありませんね」

「わかった。あいつも、めんどくさいやつ残したわね。それじゃ、あんたは帰国して。後は全部私がやっとくから」


 レーネと呼ばれた男は、会釈をしてから、闇に消えていった。

 彼女は、にこにこ笑いながらこちらに向き直って、言ってきた。


「それじゃ、行ってくるわね」


 彼女は、こちらが会話を聞いていることをわかっていたようだ。

 彼女の底が測り知れない。





 リースは鼻歌を口ずさみながら、ただ歩いていた(・・・・・・・)

 気配を消すのでもなく、足音すら消していない。

 なのに、巡回の兵士に見つかっていない。


「いや~、ここの守りを統括してる奴もセオリー通りにしか動けないってことね」


 彼女は、先程見た見取り図から巡回ルートを計算した。

 だから、どのタイミングに、どの道を通れば誰にも見つからないのかがわかる。

 彼女の言うセオリーとは、巡回ルートの組み方を言っている。

 この建物の構造なら、こうするのが効率的だ、とかリスクが少ない、などの考え方に基づいた組み方を訓練を受けた者はする。

 そう思考しているだろうと仮定し、相手の思考を彼女は読んだ。


「~♪ 私の読みがあってるなら、そろそろかしらね」


 しばらくして、二人の巡回の衛兵が角から現れて、リースがいる反対方向へと曲がった。


「ドンピシャ~」


 ただ歩くのも暇なので、二人の話を聞きながら目的地へと歩く。


「あ~、やってらんねぇよなぁ。こんな馬鹿みたいに広いを巡回なんて」

「そうボヤくなよ。仕事なんだから。割り切ろうぜ」

「でもよ、貴族の命を狙おうとする奴なんて、いないだろ」

「……まぁ、確かに考えられないな」


 いますよ~、今あなたたちの真後ろに、と言いたいが言わない。

 そしたら、口封じに彼らの対処をしなくてはならくなる。

 無駄に労力を費やすようなことを、したくない。

 彼女は別に、アンリのような仕事中毒者ではないのだから。

 目指すのは、屋上の空中庭園だ。





 リースは、衛兵に一度も見つかることもなく、目的の空中庭園にたどりついた。

 テーブルに並んでいるのは、豪奢な料理に高級な銘柄の酒。

 パーティーに出席している貴族の服装も、一目でかなりの高級品とわかる。

 彼女は、ため息をつき、小声で言った。


「まったく、良い御身分ね」


 瞬間、彼女の目を色が変わる。

 いつもの、『人間』としての目ではなく、『人殺し』の目になる。


「全員で、二十五……いや、三十ね」


 三十人もの貴族が、戦争を吹っかけることに賛成している。

 私腹を肥やすために、多くの人が悲しみ、苦しむことになる悲劇を起こそうとしている。


「アホらし」

「おい、そこの女」


 まさしく、ザ・貴族といった小太りの中年男が彼女に声をかけた。


「早く酒を持ってこんか」


 先程、厨房で拝借したワインが入ったグラスを乗せたトレーを持って、その貴族に歩み寄る。


「む、ほほぉ」


 貴族が、品定めするかのように、リースを見る。


「うむ、後で儂の部屋に来るがいい」

「…………」


 品性の欠片も見られず、他人がどうなろうと、己の欲望を満たすことができればいいと思っている。

 ここにいるのは、そういう連中だった。

 それに彼女は、昔の仕事を思い出して、気分が悪くなった。


「貴い血、ね」

「む、何か言ったか?」


 貴族の問いに、リースは輝かんばかりの笑顔と、


「なんでもない」



 無駄がない、躊躇のないナイフの薙ぎ払いで答えた。



 その動きは、ただ命を刈り取るだけに、相手を殺すだけに洗練されていた。

 貴族の首が薙ぎ払われ、床に落ちた。

 首が落ちる音と、残された胴体が倒れる音が、周りに響く。


 これが、処刑執行の合図。


 周りの貴族たちが、死体の存在に気づく。


「な、何が起きている!?」

「どうして、こんなことに!?」

「衛兵だ! 衛兵を呼べ!」


 周りが、騒がしくなっていく。

 だが、彼女にとっては貴族たちの醜い態度など、どうでもよかった。

 逃げることも、立ち上がることもできない自堕落な人間たち。

 貴い血が、聞いて呆れる。


「さて、と」


 そう前置きを入れて、懐から数本のワイヤーカッターが巻きつけられたナイフを取り出した。

 周りのことは一切気にせず、ナイフを壁に、手すりなどに投げつけていく。

 これで、仕込みは終わった。

 リースは、ナイフをワイヤーカッターに当てて、


「レッツ・ショウタイム☆」


 切り上げて、切断する。



 刹那、仕掛けたワイヤートラップが作動した。



 ワイヤーカッターが、貴族たちの体を切り裂いていく。

 ある者は首が飛んだ。

 ある者は胴が飛んだ。

 その惨状は、地獄絵図としか言いようがなかった。

 そんな地獄を体現した美しい『人殺し』は、その地獄のど真ん中で、一礼をした。


「さてと、衛兵たちが来ちゃう前に、逃げちゃいましょうか」


 衛兵たちが来てしまう前に、リースはその場を離れるために、屋上庭園の手すりに足をかけた。

 最後に地獄へと向き直り、地獄に向かって、一言。


「それではみなさん、ごきげんよう」


 そして、リースは屋上から飛び降りて、闇に消えた。





 ルークたちは、リースが引き起こした惨状を一部始終見ていた。

 シュスは、目を見開いていた。


「え、あれ、本当にリースなんだよな?」


 信じられないのだろう。

 さっきまで、あんなに屈託のない笑顔を振りまいていた彼女が、なんの躊躇いもなく、あの惨状を引き起こしたことが。

 だが、ルークにとっては、そんなことはどうでもよかった。

 なぜなら彼は、がたがた震えていたから。


「……あれには、なりたくねぇな……」


 さっき、リースによって殺された貴族のように、体をばらばらにされて死ぬのは、勘弁してほしかった。

 だが、彼女はルークが暴走した時、止めるためにこの一行に加わっているのだ。


「俺、ああなるのかな」


 その独り言に答えたのは、レドルノフだった。


「なりたくなかったら、暴走しなけりゃいいじゃねぇか」

「そんな簡単にできたら、苦労はしねぇよ」


 ルークが、大きなため息をつく。

 それとリースが帰ってくるのは、ほとんど同時だった。


「ただいま~♪」


 さっきまでの冷たい雰囲気はなく、明るくルークたちに挨拶をした。

 今さっき、人を殺したことを、毛ほども気にしていない。

 これができるから、彼女はアンリとともに革命をなすことができた。

 そして、これができるからこそ、彼女の『普通』は大きく歪んでいた。

次回はド・シリアスならぬド・コメディー

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