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48.氷解することの、なんと早きことか

よっしゃ、間に合ったああああああああああああああああ!!

ふぅ、なんとか宣言通りに書き上げましたよ。

今回は中々スムーズにかけて助かった……


では、どぉおぞ!


 最強程、斯くも詰まらないものは存在しない。

 もし、そんな曖昧なものが存在したとしたら、彼らは世界に飽いて、渇望するであろう。



 己を殺してくれる存在を。





 己が裡に宿る『竜』と対話する。


 そんなことが、可能なのだろうか。

 だが、もし、叶うのならば。



「……話して、みたい」



 ぽつり、と。

 渇ききった源流より漏れ出た、最後の一滴。

 それがこぼれるかのように、ミラはその言の葉を紡いだ。


「どうして?」

「別に、恨み言が言いたいわけじゃない。けど、何を言いたいのかなんて、自分でもわからない。それでもとにかく、会ってみたい」

「そう」


 リースはミラのその曖昧な要望に、微笑を向ける。

 そして、彼女はそれに応えた。


「ウロボロス」


 刹那、どこからともなく、一匹の小さな蛇が現れた。

 その蛇は、するすると腹這いのまま、リースのすぐ傍に寄り添う。


「この子の裡にある深層意識に、意識を飛ばしてあげて。中の『竜』に会いたいそうなの」

《……ふぅむ》


 ウロボロスは、ミラを一瞥する。


《我は構わんが、いいのか? かなり危ういぞ?》

「ははは、そこはほら、自己責任?」

《……………………》


 ウロボロスは呆れかえったかのように息を吐いた。

 それから、ミラへと向き直る。


《忠告だ。我ができるのは、そなたの意識を深層意識にまで送るまで。そこから先は、一人だぞ?》


 聞いてない、とミラは内心思った。

 どうして自分の深層意識に『竜』が巣食っているのだとか、独りで行かなければならないとか、かなり危ない橋だということを。

 けれどそれらは、彼の決意を揺るがすには足りなかった。


「うん、覚悟の上だよ」

《そうか。ならば、我からは何も言うまい》


 ウロボロスは、それ以上は無粋とばかりに口を閉じた。

 ミラは感謝の意を込めて、会釈をする。


「ミラ」

「ん?」


 覚悟を固めようとしている最中、リースが声をかけてきた。

 ミラは怪訝そうな顔で、彼女を見やる。

 リースは、神妙な面持ちで彼に忠告という餞別を贈る。


「いい? 話をするだけよ? 中の『竜』とは、絶対に闘っちゃダメ。上位種の力は、あんたもつい先日体感したばかりでしょ?」


 上位種の力。

 それは、つい先日交戦した、スコルのことなのだろう。

 彼との戦闘は、結果だけを見れば引分であった。

 しかしそれは、リースという埒外がいたからに他ならない。

 彼は彼女という存在を怖れていたから、ミラたちを殺せなかったのだ。

 しかも、皆殺しにすること自体は、リースからの殺気の妨害がなければ、手を抜いた状態でも可能とのことだ。

 それこそ本気を出されたら、全力で抗って何秒生き残れるか。


「たぶん、あんたの中にいる『竜』の力は、スコルなんか目じゃない程よ。だから、闘うのはなし」

「……どうして、戦闘になるかもなんて話をするの? 私は、話をしに行くだけだよ?」

「さっき、竜は魂そのものが本体みたいなものって言ったでしょ? そして、肉体が死した時、彼らは人間の魂と混ざる。魂が本体だから、他の魂と一度混ざってしまうと、その肉体の裡に閉じ込められるちゃうのよ。だから彼らは、自由のために、牢獄である肉体を殺す(・・・・・・・・・・)


 それを聞いて、ミラは恐怖が顔を出してしまうのを実感した。

 上位種、それもあのスコルを凌駕する存在が、只己一人に殺意を向けてる。

 怖い。

 純粋に、これ程ないまでに、怖い。

 別に、孤独であったあの頃であれば、死ぬこと自体がここまで怖いものではなかっただろう。

 けれど、仲間ができた。

 大切な人ができた。

 この人たちと過ごす、未来の時間が失われるのかと思うと、怖くて堪らなかった。

 けど。


「それでも、会いに行く!」


 恐怖を勇気で塗りつぶして、ミラはそう宣言した。

 もし今回の話を見送れば、自分は置いて行かれてしまうだろう。

 ルーク、レドルノフとの間に既にできてしまっている実力の溝は広く深まり、子供たちは自分の現時点との実力の差を詰められる。

 死を恐れ、ここで勇気の一つも出せない臆病者が、どうして彼らに並べるのだ。


「……なあんか、その気迫だと、結局闘いそうで不安になるんだけど」

「だ、大丈夫だよ。私、そんなに血気盛んじゃないし」


 リースの半眼に、ミラは乾いた笑みを返した。


「わかった。それじゃあ、行ってきなさい」

「うん!」

「ウロボロス」

《承知した》


 ウロボロスがミラの膝元にすり寄ってきた。


《では、行ってくると善い。カプッ》

「痛いっ」


 ウロボロスに噛まれ、ミラは体を跳ねさせた。

 それを境に、ミラの意識は混濁し始める。

 自我が薄くなっていき、そして、闇に呑まれた。





 ミラは意識を取り戻し、目にしたものは闇だった。

 自分の足はしっかりと何かを踏みしめているのに、何も見えない。

 いや、自分の体は見えている。

 けど、それ以外は何も見えない。

 虚空に放り出され気分だ。


「……………………?」


 いや、見えた。

 漆黒の小山が。

 ここには自分と、竜しかいないはずだ。


「……よし!」


 意を決して、ミラは一人小山へと歩き出す。

 ……どれだけ歩いただろうか。

 そう長くない時間であるはずなのに、とても長い時間に感じられてしまった。

 けれど、それが永劫であるはずもなく、ミラはとうとう小山の近くに辿りつく。


「うっわぁ、大きいなぁ……」


 ミラはソレを見上げ、思わず呟いてしまった。

 漆黒の鱗に覆われ、青色の幾何学模様が刻まれた翼が生えたトカゲのような四体。

 脚は大木のように太く、力強さを感じさせる筋肉の塊のようだ。

 そして、その四本の脚に支えられている胴も、凄まじいまでの筋肉量で構成されている。

 発する息遣いを耳にしなければ、ミラはソレが生物であることを信じることができなかっただろう。


「……寝てるのかな?」


 今、ソレは蜷局(とぐろ)を巻く様に体を丸めている。

 どうやら、寝ているらしい。


「うぅん、これじゃ話ができないや」

《……対話が望みなのか?》


 声が響いた。

 ミラは突然のそれに、体を大きく跳ねさせる。


「お、起きてたんだ?」

《まあな》


 ソレはゆっくりと頭を持ち上げ、ミラを真っ直ぐと見据える。

『竜』は、そうして口を開いた。


《して、話とはなんだ?》

「あ、うん、そうだね」


 言われて、ミラは自分が何の話をするのか考えていなかったことに気がついた。

 いや、『神鳴』の話があるのだが、いきなりそれの話から入るのは、なんだか自分が底が浅い人間みたいでなんか嫌だ。


「ねぇ、三百年ずっとここにいて、退屈じゃないの?」


 当たり障りのない話に聞こえるかもしれないが、『竜』によっては挑発以外の何物でもない発言である。

 なにせ『ヘーイ♪ こーんな所に閉じこもってボッチ拗らせるの悲しくないかーい、ヘイYO♪』とも解釈できるのだ。

 しかし、ミラにそんなつもりは一切ない。

 それをわかっている『竜』は、ミラの問いに答える。


《何もなければ、退屈だったろうさ。けれど、我はここからでもお前の視界を共有し、覗き見ることができる。それに、ここ最近は、それなりに見れるものだしな》

「げぇっ、勝手に覗き見されてるの? 私の人生」


 ミラは思いきり顔をしかめた。

 けれどそれを引っ込めて、彼は問う。


「そういうば、名前はなんていうの?」

《アクノロギア。いつのまにやら、『竜王』などと呼ばれてしまった存在だ》

「竜王……? 竜にも、王様っているの?」

《別に、権力やそういった物は存在しない。竜とは個人主義だ。自分のことは自分でやるし、その責任もその個人に付属する。他者に命令などといったことは、実力任せの脅迫でもされない限り従うことはない》

「へぇ……」


 群れを成さない、実力主義。

 要は、このアクノロギアは、誰にも負けなかったのだろう。

 一番強かったが故に、竜王などと呼ばれるようになった。


「ねぇ」


 ミラは、問いを投げかける。

 答えによっては、己の命を脅かすであろう問い。


「外に、出たくないの?」


 アクノロギアは、少しだけ目を細めた。

 けれど、威圧も殺気も放たず、こう言い放つ。



《興味がない》



 その発言は、ミラを瞠目させるには十分だった。

 こいつは自由など不要だと、このオリに入れられ続けることを容認すると言ったのだ。


《我も未だ大地に脚をつけ、力を振るうことができていた頃だ。我は、目につくもの全てを喰らった。神も、天使も、悪魔も、竜も、人間もな。誰も我に敵う存在はいなかった》


 アクノロギアは、遠い目をして虚空を眺める。

 そこには、闇しかない。

 けれど彼の目には、はっきりと過去の映像が浮かんでいるのだろう。


《数えるのも億劫になる程の時を漂った、暴食を貪りながらな。ただ喰らうだけの日々に飽いていた頃。そんなある日、我は出逢った》


 アクノロギアは、一度区切り、喜色を滲ませながら呟く。

 彼という、『最強』を殺してのけた存在を。



《『神の如き者(ミカエル)』》



 その名は、最強の代名詞。

 全ての『天使』の頂点に立っていた、炎を操りし上位種きっての最強の武人だ。

 リースをして、『権能』に頼らずとも最強を名乗れるまでの『武』を修めていると言わしめるまでの使い手。


《我は、初めて敗北を喫した。その後は、嬉々として挑んだものだ。転生を繰り返し、幾度も挑み、殺された》

「負けたのが、嬉しかったの?」

《我に並ぶ存在などいないと思っていたからな。それだというのに、並ぶどころか凌駕するほどの存在に巡り合えたのだ。あれ程の喜悦は、初めてだったよ》

「なら、どうして外に出たいと思わないの?」


 ミラは尚更わからない。

 逢いたい者がいるのであれば、自由を謳歌したいと思うはずだ。

 謳歌し、相見え、矛を交えればいい。

 喧嘩でも話でもすればいいのだ。


《最後に会ったときに、我は聞いたのだ。何故、そこまで寂しそうな顔をするのか、と》

「寂しそう?」

《うむ。あいつは、いつも孤独を感じていた。それは顔からにじみ出ていた。だから、我はその理由を訊ねた》


 その問いに、『神の如き者』はこう答えたそうだ。



 俺と対等(・・)の存在がいないから、と。



 故にアクノロギアは、決心した。

 己がそれになってやろうと。


《けれど、それは叶わぬ夢だと実感したよ。我では、あいつから勝利をもぎ取れる存在にはなれぬと》

「なんで? 対等って言ってもさ、別に強さだけじゃないよ?」

《いいや》


 ミラの言葉に、アクノロギアは頭を振った。

 悲しみを噛みしめるかのように、ゆっくりという。


《あいつが求めていたのは、同じ土俵で(・・・・・)気軽に喧嘩ができ、互いに鎬を削れ、切磋琢磨できる存在だ。だがそれは、我にはできない》


 ミカエルは、白兵戦を最も好んだと聞く。

 それが確かなのならば、嗚呼、アクノロギアではそれを務めることはできない。

 なにせ、人体構造が違い過ぎる。

 アクノロギアは小山を思わせる程の巨躯であり、対するミカエルは人型だ。

 これでは、白兵戦を演じることなど不可能なのだ。


《……だが、ならば、せめて実力だけでも思ったのだがなぁ》

「諦めたの?」

《あぁ。なにせ上位種というのは、己の振るう『権能』乃至『力』を使いこなし、それを伸ばす者が殆どなのだ。逆に、ミカエルのように身体一つで己を極めようとする者が珍しい》


 アクノロギアは語る。

 ミカエルという、最強の強さの根源を。


《世界を構築する四大要素たる『火』と、父神たる『原神』より賜りし『右腕』という『権能』を十全に扱い、那由多の研鑽を積んだ『武』。隙などどこにもなく、最強を冠するに相応しい存在。扱う『力』の差はどうしようもない。ならばと、我も『武』を極めようとした》

「けど、できなかった」

《……そうだ。『武』とは、元来身体を効率的に、秘められたる力を引き出すものだ。だが、我はそれを行うことができなかった。なにせ、この巨躯だ。巨体に物を言わせ、圧し潰すというのが我らの主流。故に、誰も『武』という領域を開拓しようとしなかった》


 無論、我がそれをやろうとした、と呟く。

 だが。


《だが、結果は言うに及ばず。なにせ、我が初の試みだったのだからな。手探りも良い所であり、全くという程成果は出なかった。そして、数多の時を経て、我は諦めた》


 アクノロギアは目を閉じてしまった。

 そして、再び蜷局を巻く。


《故に、我は彼に合わせる顔がない。諦観に溺れた者が、驕らず挫折をしない者に会う資格などないのだから》

「…………………………」

《それに、今もう、ミカエルは死んでしまっているのだろう? ならば、尚のこと外に興味は湧かん》


 どうやらミラの視界を共有していたというのは、本当だったらしい。

 アクノロギアは、もうミカエルが死んでいることを知っている。


《去れ。力はくれてやる。中々に面白いものを見せてもらっている、駄賃替わりだと思え》


 それきり、アクノロギアは黙ってしまった。

 もう語ることはないとばかりに。


「………………………………」


 ミラは、むすっとした顔になった。

 そして大股でアクノロギアへと歩み寄る。


「……おい」

《む? ぐぉあ!?》


 なんとあろうことか、ミラはアクノロギアの顎を力任せに蹴り上げた。

 華奢な少女のような容姿から繰り出されたとは思えない程の、力がこもった蹴りである。

 アクノロギアの巨大な顎が浮かび、重力のままに浮かんだ顎が、大地に落ちた。


《む、むぅ》


 鈍痛に顔をしかめているアクノロギアに構わず、ミラは閉じているアクノロギアの瞼を手で無理矢理こじ開けた。

 そして、覗き込むように前かがみになり、言ってやる。


「なにを、生きることに達観したかのように語ってるんだ。無知を晒すのも大概にしろ!」

《……あァ?》


 アクノロギアが、怒気を露に呟く。

 しかし、知ったことかとミラは吼える。


「勝手に思い上がって! 勝手に挫折して! 自分の殻に閉じこもるだなんて、カッコ悪いったらありゃしない!!」

《……………………》

「対等の関係が欲しいなら探して掴み取れ! 友達が死んだの知ってるんなら、弔うくらいしてみろ! 一朝一夕で強くなれるだなんて、思い上がるな、何様だ!!」


 どれもこれも、ミラが言うには棚上げも甚だしいものばかりだ。

 対等の関係? 今の仲間たちのことか?

 それは、リースの優しさによって齎された。

 友の弔い?

 友を失ったこともない若造が、軽々しくそれを口にするか。

 強くなることが、一朝一夕ではないだと?

 生まれた時点で、超常に身を置いているのに。



 そして三百年経ってようやく、己がどれだけ恵まれているのか自覚した。



 だがらこそ、今彼は努力をしている。

 己が今持っているモノを持つに足る者になりたい。

 そのために、彼は今努力をしているのだ。

 だから、彼が今吐いてる言葉はお門違いなど、言わせない。

 嗚呼、言わせてなるものか。


《……………………やれやれ》


 アクノロギアは、ミラの全てを見てきた。

 最早、彼の半身と言っても差し支えない存在だ。

 だからこそ、先の発言の全て、発言した本人ですら理解していない意味を悟る。


《そこまで焚きつけられては(・・・・・・・・)、我がなにもせぬ訳にはいくまいか》

「…………………………………………………………………………あ」


 ミラはここでようやく、自分のしたことに気がついた。

 しかし、後悔時すでに遅し。

 アクノロギアは、圧倒的な竜威を纏い始める。


《よかろう! そこまで言うのであれば、我は自由を獲得するために足掻かせてもらうとしよう!》



 ズンッッッッッッッッッ!!!!!! と。

 プレッシャーだけで、五体が潰されそうになる錯覚(・・)を味わった。



「……ふぇえん」


 ミラは泣きそうになりながらも、拳を握る。

 それにアクノロギアは、口の端を上げた。


《安心しろ、本気は出さん。余りに大人げないからな。勝てとも言わん。手段も問わん。ただ、生き残って見せよ!! この『竜王』の暴威から、見事生還して見せるがいい!!》



 太古の世界。

 森羅万象を喰らい、万から怖れられた暴食の化身。

 その一端が、たったの一人に向けられる。



《この試練の報酬は、我が力の『総』である!!!!!!》


参った、勢いでここまで書いたはいいけど、ミラが生き残るビジョンが見えない。

……どうしよう?


まぁ、なんとかしますよ!

ではまた次回!

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