47.ミラ・ディストリア
すみません、いつの間にか前回の投稿から二か月も経ってしまって。
うぅん、辛い、我の遅い筆がとてもつらい。
完結するまで、正直自分でも何話かかるか想像すらできていないというのに。
いや、話は完結までできあがってはいるんだけどね?
だからお願い見捨てないで!
ミラ・ディストリアは竜人だ。
全く鍛錬を積んでいないにも拘らず、身体能力は超人の域に踏み込んでおり、『加護』による恩恵で斬撃及び打撃を問わず半減することができる。
詰まり彼は苦せずして、超人、それも熟練のそれと渡り合えるだけの力量をゆうしている。
加えて彼には『神鳴』などという、本人も原理を全く理解していない異能まで持っているのだ。
事実、ルークたちと出逢うまで、彼は負けることはおろか苦戦すらしたことがなかった。
超常に身を置きし超人らと、なんの鍛錬も積まずに肩を並べられる。
これは、はっきり言って異常だ。
竜人だから、という理由だけでは片づかない。
在るのだ、ナニかが。
さて、そのナニかだが、その正体を看破することは存外容易い。
なにせ竜人であれば、必ずしもいつかは向き合わねばならぬものだからだ。
己が出生、否、存在として生れ落ちる前について。
☆
ミラ・ディストリアは、もぐもぐと昼食を頬張っていた。
献立はレドルノフ自作の食パンに、ホワイトシチューという組み合わせだ。
食パンはシチューにつけて食べるもよし、バターを塗って食べるもよしである。
シチューに関しては、幾つもの併せ出汁や調味料を加えているらしく、濃厚にして淡麗な味わいとなっている。
具材は大食い、小食家問わず満足できる絶妙なサイズにカットされ織、味もしみている。
パンがなく、これ一品でも満腹になっても飽きることはない。
……うん、なんでこんな料理を作る人間が軍人やってるんだろう。
「ふっ、まだ甘いわね。肉に火を通し過ぎて硬くなってるわよ」
「ぐ、つっても、肉の旨味を出すためには煮込む必要があってだなぁ」
「なら肉の種類を変えなさい。あるいは、出汁の種類ね」
「簡単に言うなぁ、ほんと」
そしてリースとしては満点に程遠いらしく、レドルノフの料理を批評していた。
とはいっても、彼女以外はレドルノフの料理に大満足である。
文句などつけようもなく、舌鼓を打つのみである。
「言うわよ、そりゃ。なにせ私は、これより上の料理を数えきれない程食べてきたし」
「クソ、いつか追いついてやる!」
レドルノフは悔しさを滲ませながら、シチューをかきこんだ。
「とはいっても、まだまだね。料理はそこそこ追いついてるって感じではあるけど、武術は全然。相対したら、あいつが本気出した瞬間死ぬわよ」
「え? マジで?」
「いやぁ、あれは本当に人間辞めてるわよ。真っ向正面からの力勝負じゃ、グングニルだけだとケイトですら勝てないし」
「…………」
それを聞いて、余りの目標の高さに彼は肩を落とした。
それを隣で聞いていたラルが、頬を引きつらせながら訊く。
「ねぇ、リース。それって、どんな人?」
「ん? あぁ、名前はオードル・シリア。『黒い鬼』なんて異名を持つ、肉体の強度の話で言えば、ダントツで人類最強の武人よ」
ダントツ、とリースはそう断言した。
レドルノフという、気功の一つ、硬功における技術は類を見ない程の達人を差し置いて彼女はそう評したのだ。
武に関わりが浅い者は勿論、高みに至っているルークですら想像がつかなかった。
「気功、それも『練気』にかけては、上位種たちですら右に出る者いないでしょうし、それを運用する技術は言うに及ばず。人の身をして、下手な『主神』なら縊り殺せる摂理の超越者よ」
「化物じゃねェか」
ルークは半眼になってそう突っ込んだ。
そのカタログスペックを聞いた限りでは、その強さはアンリ、ケイト、リースの三人と並ぶのではないのだろうか。
「けど、全開の私たちには及ばないわよ? 私は素の実力で上回ってるし、ケイトだってドーピングはグングニルだけじゃない。アンリなんて、隠し玉をたくさん持ってる」
その場の全員が、遠い目となった。
どんだけ強いんだ、お前らと内心思っているに違いない。
「お話はこれでお終い。明日に備えて寝なさい」
リースのそれに、全員が頷いた。
そして各々が、寝具やらの準備を始めようとして。
「あ、ミラ。後で私の所に来なさい」
「へ? なんで?」
「自分がなんなのか、知りたくない?」
彼女の言葉は、余りにも穏やかではなかった。
☆
ルークたちは、明日の修業に備えて寝袋に包まれている頃。
ミラは独りで、焚きの番をしていたリースの下を訪れた。
「きたわね」
「うん。それで、さっきのはどういう意味かな?」
自分がなんなのか、とリースは言った。
彼女は敢えて、何者ではなくなんなのか、と言ったのだ。
ミラが気になってしまうのは、仕方のないことである。
「そうね。それじゃ、ずばっと言っちゃいましょうか」
「え? こういうのって、なんか色々問答とかするもんじゃないの?」
「あはは、そんなことしても、時間の無駄でしょうに。問答することで、なにか変るなら、吝かじゃないけどね」
そういうものなのだろうか、とミラは苦笑した。
しかし、次の瞬間、その笑みは凍りつく。
「ミラ、あんたは只の竜人じゃない」
その言葉の意味する所を、ミラは理解することができなかった。
しかし、額面通り受けるならば。
「私は、特別な竜人ってことかな?」
「そう。ミラ、あんたの身体能力は、超人における中堅に位置する。鍛錬を積んだなのなら話は変わるけど、武術はおろか体力トレーニングすらやってない。そんなあんたが、それ程までの身体能力を得てることは、竜人ってだけじゃ片づかないの」
成程、彼女の言いたいことはわかった。
「一般的な竜人の身体能力って、どれ位?」
「達人一歩手前の妙手って所ね。超人クラスの身体能力を持つあんたが、どれだけ異常かってのもわかるもんでしょう?」
「う、うん、そうだね」
妙手と超人の開きは、人語に及ばない。
そも、それは当然のことである。
超人とは、人間の摂理を超えた先に到達した人間を指す。
対して妙手は未だ人間、それも常人ですら到達し得る領域だ。
天才が到達し得る達人のその先、大天才中の大天才でなければ到達できない領域と常人でも到達できる領域。
どれだけの差があるかは、言うまでもないだろう。
「その、原因はわかってるのかな?」
「えぇ、もちろん」
「あ、わかってるんだ」
「まあね。竜人について知っていることはそう多くないけど、異常な強さの原因はわかる。てゆうか、ソコしかない」
ミラは首を傾げた。
そんな彼に、リースは言う。
「竜って、どんな存在か知ってる?」
「ん? うん。前兆もなく現れては、勝手気ままに暴れては喰ってをする、災害みたいな怪物でしょ? 死んだら、その場で消えちゃうから、工業的にも産業的にも使えない傍迷惑な存在」
「そうね。概ね、そんな感じよ。それじゃあ、竜人は?」
「えぇと、竜の因子が混じった人間でしょ? そのおかげで、身体能力とかが人間の比にならないまでに凄い」
リースはそれにまた、頷いた。
間違ってはいないから。
「竜人ってのはね、斯くあるべしと、生まれる前から決まってるの」
「へ?」
言っていることがわからず、思わずミラはそんな間の抜けた声を出してしまった。
そんな彼に、リースは優しい笑みを浮かべたまま説明を続ける。
「生物には、魂ってものがあるのよ。それは、上位種ですら例外じゃない。その魂は、輪廻の輪をぐるぐると同じ世界で廻っている。人が死ねば肉体から魂が抜け落ち、あの世で罪科と原罪を洗い流されて、清い魂としてまた人間としてこの世に生を授かるの」
「えぇと、いわゆる輪廻転生ってやつかな?」
「そう。人の魂は、要はリサイクルされてるって訳」
折角ミラが、善い言葉(?)で表したというのに、リースはチープな言葉で言ってしまった。
それに彼は内心ため息を吐くも、表に出さず問う。
「ちょっと気になってたんだけど、人の魂はリサイクルされるって話が本当なら、なんで前世とかの記憶って引き継がれないの?」
「ははは、簡単よ」
リースは、ミラの問いにあっさりと答えた。
「洗い流される罪科に、記憶も含まれるから」
それは、人は生きている限り穢れていくのだということと同義であった。
いや、彼女としてはそう言ったつもりなのだろう。
ミラは苦笑する。
「それじゃあ、人間はみんな地獄往きだね」
「ははは、そうね。話を戻すわよ」
これ以上は蛇足が過ぎる、と判断したのかリースは話を戻した。
「竜人として生まれる原因は、この魂のリサイクルの行程で、ちょっとしたトラブルが起きることにあるの」
「トラブル?」
「そう。竜っていう生物はね、ぶっちゃけると殆どが魂そのものが本体みたいなものなの」
魂そのものという、在り方の生物。
それが、竜なのだと彼女は言う。
「竜は、生物として肉体が死ぬと、魂だけになって、適当な人間の魂と混ざるのよ」
いきなり話がぶっ飛んだ。
ミラが思わず目を剥いたが、知らぬとばかりに彼女は続ける。
「竜の魂が混じった人間の魂だけど、影響は受けない。要は、竜の魂は肉体を再構築するために人間の体を使って半分受肉するために、人間の魂に混ざる訳だから」
「待って、それされたら確実に影響受けるよね?」
「魂が影響を受けないだけよ。その代りに、肉体が魂に引っ張られるだけ」
「だけ? 私の人生の苦労の大半を、だけって言った?」
その言い方にミラは半眼になるも、己がどういう存在なのか理解することができた。
それだけで、彼としてはこの話をする意味はあった。
「私からしたら、垂涎ものよ? 私、身体能力には恵まれなかったし」
「…………そんなに強いのに?」
ミラは、長い時間を生きてきた。
それも、三百年もの時を。
その彼の歩んできた人生の中で、人間として最強はダントツでリースなのだ。
確かに、実力ではアンリやケイトは並ぶことができるだろう。
しかし、本来人間が持ちうるものという条件に絞れば、彼女に敵う者は存在しない。
そんな彼女が、ミラのことが羨ましいと言ったのだ。
「まぁ、ミラだけじゃなくて、ルークとレドルノフにも言えることよ。私には、憧れてる人がいる。野望に対して余りに愚直で、それ以外全く見えてなくて、それでも優しさを見失わなかった人間よ。せめて、闘い方だけでも、と思ったけど、その辺りはからっきし」
その時の彼女の顔は、寂しさを滲ませたものだった。
それにどう返せばいいのかわからなかったミラは、少しだけ話題を変える。
「その人って、さっき言ってたオードルって人?」
「そうよ。私の、師匠兼義兄兼育ての親」
「兼多すぎない?」
「ははは、事実だから」
リースは懐かしそうに、目を瞑る。
ミラはそれに内心、おばあちゃんみたいって思って。
「痛たたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた!!」
思いっきり手の甲をつねられた。
「誰がおばあちゃん?」
「その読心術ずるくないかな!?」
リースは笑い、手を叩いた。
「話変えるわよ。次は、あんたの使う、『神鳴』について」
「あ、うん」
ミラが頷いたのを確認したリースが、語りを再開する。
「ミラは、あれをなんだと認識してる?」
「え、うん。火、雷、神の三属性の物体って思ってるけど……」
「はい、不正解。火と雷はあってるけど、神なんて物質は存在しない」
「え?」
「そもそも、どうして神だなんて名前付けたの? ミラだって、どういうものかよくわかってでしょうに」
「うっ……」
ミラはリースの指摘に呻いた。
確かに、彼自身己が操る『神鳴』の内一つの物体は、なにかわからなかった。
何故、それを神と名付けたのか?
それは。
「か、カッコいいから……」
リースの笑顔が生温かいものとなった。
そう、例えるならば、思春期真っ盛りの青年が黒歴史決定となるノートを見つけたそれ。
それを向けられた瞬間、ミラは無性に死にたくなった。
「まぁ、そこは置いておきましょう。それで、ソレについてなんだけど」
「あ、うん」
「名前はないわね。ていうか、私もなんなのかわからない」
「え? 私を羞恥心で自殺寸前に追い込んでおいて、答えを提示できないの?」
「いやぁ、だって、ねぇ? 名前っていうのは、そもそも物体や概念を認識、区別するためのものだから。人間にとって生成、利用できないものの名前なんてつけられるとでも?」
「開き直った!?」
突然開き直ったリースに、ミラは愕然として叫んだ。
それにリースはなだめるように、ミラの頭を撫でる。
「さて、それじゃ次。てゆうか、これが本題ね」
「ん? 本題?」
本題、ということは今までの話は前座に過ぎなかったのだ。
正直頭がパンク寸前だから、これ以上は勘弁してほしいのだが。
「ミラ、あんたはまだ『神鳴』を全く使いこなせてない」
「え?」
リースの断言に、ミラは間の抜けた声を出してしまった。
しかし、彼女はそのリアクションに何かを返すこともなく、ただこう告げる。
とんでもないことを、恐ろしいまでの軽さで。
「ちゃんと使いこなすには、あんたの中の『竜』と話をつけないといけない訳だけど、それやる?」
ふぅ、色々設定の説明ができた。
だけど、我の作品の設定、まだまだ十分の一もアウトプットしてきれていないという。
出み惜しみ過ぎィ、我ながら!
次回は二週間以内に投稿すると宣言しよう!
では、また次回ー




